モノクロ印画紙

印画紙も、フィルムと同様だんだんと種類も減ってきてしまいましたが、まだまだ選択の余地はあれこれあります。
というより、国内メーカーの多くが撤退してしまった一方で、海外、特に東欧のメーカーのものが、種類豊富に日本に入ってくるようになりました。

とはいえ、物珍しさであれこれ手を出していてはいつまでたっても基本的な技術や知識が身に付きません。 標準的な感剤と薬品とを、さまざまな事を理解できるまで使い倒してみましょう。 (同じ事言ってますが)
印画紙にはいくつか分類の方法があり、用語や呼び方もさまざまですが、多くは昔の話がそのままだったりして、少々混乱を招くこともありそうです。
ここではシンプルに、次のように分類してみたいと思います。

号数紙と多階調紙
印画紙には「号数」というのがあります。 これは、印画紙のコントラストをあらわすもので、号数が低い方がコントラストが低く、つまり軟調、号数が高い方がコントラストが高く硬調です。
どうして異なる「号」が必要かというと、ネガフィルム上のネガ画像の濃さの幅、つまり薄いところと濃いところの差は、被写体上にあった明るさの差やフィルム現像によってマチマチだからです。
そのネガ上の画像を印画紙に投影してプリントした際、ネガ上のコントラストが高いとプリントも高コントラストになり、ネガ上のコントラストが低いとプリントも低コントラストになります。
しかし、モノクロ写真は黒から白までの階調が非常に重要ですから、最終出力であるプリントでは出来るだけ好ましいコントラストを得なくてはなりません。
そこで、ネガのコントラストが高ければ、コントラストの低い印画紙を組み合わせて相殺し、逆にコントラストの低いネガに対しては、コントラストの高い印画紙を組み合わせてプリントするわけです。
号数紙と多階調紙では、この「号」の違いを得る方法が異なります。
ちなみに、「号」の事を英語では「グレード」と呼び、号数紙は「グレーデッド」です。 多階調紙は「マルチグレード」「マルチコントラスト」または「バリグレード(バリアブルグレード)」「バリコントラスト(バリアブルコントラスト)」などで、それぞれ「MG」「MC」「VG」「VC」などと略して表記されることもありますが、現在ではみな同じ仕組みです。

    DSCF8768号数紙
    号数紙は、とある「号」として作られている印画紙です。 つまり、「2号印画紙」「3号印画紙」「4号印画紙」と言った具合。
    ネガのコントラストが3号にちょうど良ければ3号印画紙を、それよりも高コントラストなネガでしたら2号印画紙、というように使い分けます。 そのため、同じ銘柄の同じサイズの印画紙でも、プリントするネガの状態や必要に応じてそれぞれの号数を持っていないとなりません。
    現在では1号や5号といった超軟調や超硬調の号数印画紙が入手しにくいため、使える範囲が限られてしまうという事も言えますし、加えて、2号の次は3号というように、1号刻みで作られていますので、その中間を得るには現像液などで調整する必要があり、使いこなしは少々難しいです。
    また、実際のところ、段々と号数紙の種類自体が減って来ていることも間違いありませし、多階調紙がこれだけ進歩した現在、特に初心者レベルの方が号数紙を使う意味が正直わかりません(きっぱり!)。
    DSCF8770多階調紙
    印画紙もフィルムと同じく感光材料なのですが、多階調紙は波長によって異なる感度を持たせた2種類の感光層で成り立っています。
    高コントラスト、つまり高い号数の層と、低いコントラストの層をもち、それぞれが違う光の色に対して反応しやすく作ってあるわけです。
    高い号数の層がよく反応する色の光ですと、結果として高コントラストになり、低い号数の層がよく反応する色の光だと、結果的に低コントラストになります。 そのため、多階調フィルターという色の付いたフィルターでネガからの投影像に色を付け、コントラストを調整することが出来ますから、1種類の印画紙で軟調から硬調まで幅広いコントラストを得ることが出来るのです。
    製品によって差がありますが、もっともポピュラーなものでは、00号という超軟調から5号の超硬調まで変化させられます。

    DSCF8771多階調紙のアイデアや歴史は意外と古く、システム的な仕組みに紆余曲折ありながら徐々に進歩してきましたが、バランスや表現力と言った印画紙に求められる性能を得るのが難しく、長きに渡って号数紙には遙かに劣ると言われてきました。
    そのため今でも、号数紙とは比べ物にならないと言う人も多いのですが、現在の多階調紙はかなりのレベルまで達しており、号数紙とは若干異なる表現があるものの、それは印画紙ごとの性格という程度の物で、多階調紙が号数紙に劣る、という事はまったくありません。
    逆に、その利便性だけではなく、1枚の印画紙に異なるコントラストを載せられるという機能から、号数紙では得られないテクニックも使え、号数紙より多階調紙の方が表現に可能性があるとも言えます。
    現在の多階調紙のほとんどは、多階調フィルターを使わない場合には調整幅の中間程度(多くの場合2号相当)のコントラストを得られるように設計されていますが、基本的には多階調フィルターとセットで使います。
    原則として、各印画紙メーカーは自社のフィルターセットとの組み合わせを基準にしてシステムを設計していますが、基本の仕組み自体は昔デュポン社が開発した方式を各社踏襲しているので、異なるメーカーの印画紙とフィルターを組み合わせた場合でも、まったく機能しないという事はありません。

レジンコート紙とファイバーベース紙
印画紙は名前の通り「紙」で、素材はパルプ、コットンなどあります。 その紙の支持体の上に、銀を含んだ感光材料が塗ってあるわけです。
出来るだけ綺麗な白が印画紙には望ましいので、紙の支持体と感光材料の乳剤層の間に、バライタ層というのを挟んだ構造が一般的なので、ファイバーベース紙(略してFB紙)を「バライタ紙」とも呼びます。
また、処理の迅速化のために紙の表面をコーティングして薬液が支持体に染み込まないよう加工した、「レジンコート紙(RC紙)」というのが作られました。

    ファイバーベース紙
    バライタ紙という呼ばれ方が一般的です。 紙の質感がよく現れるため品があり、作品作りによく使われます。
    FB紙は現像処理中に薬液が紙に染み込んでしまうため、水洗に長い時間がかかり、また紙の性格として水分を含むと伸び、乾くと縮むため、乾燥時にシワが出来たり丸まったりしてしまい、乾燥後はフラットニングという平らにする作業が必要になるなど、全体的に扱いが難しいという面があります。
    また、伸び縮みのせいで、濡れているときと乾いているときとで画像の濃さが異なって見えるため、慣れないと思い通りの濃さのプリントを作るのが難しいです。
    1枚を仕上げるのに時間がかかり、また扱いも難しい事から、プリント作業を練習している段階では避け、処理が迅速に行えるRC紙で十分な経験を積んでから、いよいよ作品作りという段階で活用した方がよいのではないかとボクは思います。
    なお、旧来FB紙は現像が押せるとかコントロールが大きく利くと言われてきましたが、最近の製品はRC紙とあまり変わらない物も多くなりました。このあたりを求めてFB紙を使おうと思う場合には、印画紙選びに注意が必要です。
    レジンコート紙
    RC紙またはWP紙などと呼ばれます。 RC紙は支持体がコーティングされているため、表面の乳剤層だけに薬液が染み込んで現像処理されるので、現像・定着といった処理はもちろん、水洗にかかる時間が圧倒的に短く済みます。
    また、FB紙と違って水分を吸って伸び縮みする幅が少ないので、乾燥時の扱いも簡単で、乾かせばそのままほぼ平らな状態で観賞に使えます。
    表面の質感がどうしてもFB紙に比べて紙らしく無いので、高品位な作品作りではFB紙が好まれるようですが、逆に印画紙表面の白が鮮やかだったりという良さもあります。
    なにより、扱いが簡単で処理が迅速に行える事から、練習はもちろん、普段使いに最適です。 また、水洗時間が短いことから、貴重な水資源を消費しない事も重要なポイントに挙げられます。

    よく、保存性はFB紙が高く、RC紙は耐久性が無いと言われますが、銀画像の耐久性が変わるわけではありません。レジンコートの耐久年数が50年ほどではないかと言われているからですが、これもはっきりした事は言えず、現在のRC紙は保存性という点で避けるべき物でもないようです。
    カラー写真のプリントで100年プリントなんてなのがありますが、あれだってレジンコート紙なのです。 初期のRC紙が耐久性に劣っていたため、いまだにそうした事を大きく気にされるようなのですが、近年かなり進歩している事は間違いありません。
    もっとも、正しく処理するのが難しいFB紙を中途半端に使っていたら、簡単に正しい処理が出来るRC紙にも耐久性で劣ってしまうことも考えられますけれどね。
    いずれにしても、写真では、プリント自体がアーカイバルであるという発想には限度があると思います。 FB紙は100年保つなんていう言われ方にしても、保管状況がほとんどの要素を占めてしまうのです。プリントを保存するには、飾ったりしてたらダメなんですから。
    作品販売や歴史的資料、美術館での収蔵などでは大問題ですが、個人レベルでプリント作成を楽しむアマチュアでは、あまり気にしてもしょうがないとボク個人的には思っています。

DSCF8775色調
あまり選択肢が無くなってきましたが、印画紙には「純黒調」「温黒調」といった種類分けもあります。 「純黒調」は文字通り黒が黒々しているもので、「温黒調」は茶色がかった温かみのある黒という意味です。
印画紙がもともとそうした色調が出やすいように作られているわけですが、どちらかと言うと色調は現像液でコントロールするものです。 一般に、「温黒調」の印画紙の方がこうした現像液での調整が良く利くようになっています。

光沢
他、印画紙には表面の艶の出方でも種類分けされます。 光沢(グロッシー)、半光沢(セミグロス)、無光沢(マット)といったものです。 大きな写真用品店の暗室用品売場には、印画紙のプリント見本が並べられてることがあるので、見比べて選ぶと良いでしょう。

見本を見比べられない方のために少し個人的な見解(好み)を申し上げておくと、FB紙のマットはマット過ぎてしまい、グロッシーは嫌みもなく好感が持てますので、FB紙ではグロッシーが良いかと思います。
いっぽう、RC紙のグロッシーはテカテカして安っぽく見えてしまいます。また、濃い黒の部分が逆に白っぽく光って見えてしまう事があり、大きな弱点です。
イルフォード社の製品ですと、RC紙にはグロッシー、パール(半光沢)、サテン(マット)があるのですが、中間のパールが手頃なのではないかと思いますし、ボク自身も愛用しています。

総じて、FB紙の方がRC紙より上、号数紙の方が多階調紙よりも上。つまり、FBの号数紙がベストという言われ方をしてしまうと思うのですが、ボクはこれには同意しかねます。
ボク自身、FBの号数紙で好きな製品があって愛用していましたが、それが生産終了になってからは、ほとんど全て多階調紙を使うようになり、使うようになって考えが変わりました。
また、美術的にFB紙の方が良いというのもよく分かりますが、RC紙がそれほどダメだともボクは考えていません。
正直、下手なFB紙のプリントより綺麗なRC紙のプリントというのをたくさん見ていますし、こういう言い方はどうかとも思いますが、10年早いよ、というFB紙のプリントもお見受けします。 プリント作成の技術がさしたるレベルではないのに、RC紙はダメだ、多階調はダメだと言ってしまう事が多いのではないでしょうか。
初心者の方、あるいは中級くらいまでの方でしたらば、RCの多階調紙でプリントの練習や研究をなさることを、ボクは強くお勧めします。
そして、いよいよ作品作りだという段階になって、FB紙や号数紙に取りかかればよいのではないでしょうか。

具体的な製品では、イルフォード社のMultigrade IV RC Deluxをお勧めしておきます。
サイズラインナップや表面仕上げも豊富で、日本国内でも入手が容易ですし、世界標準と言ってよい製品です。
ボクも、このイルフォードの製品を主に使っています。
イルフォードのマルチグレードシステムでは同シリーズのFB紙もあって、感度やコントラストに統一感があり、移行も比較的容易です。
RC紙のMG4DXとFB紙のMG FBは感度が同じで、RC紙で露光時間などのテストを手早くやって、FB紙で本番、という事も出来てしまいます。また、温黒調(ウォームトーン)のMG FB WTは感度が丁度半分なので、MG4DXでテストして、露光時間を倍にすればほぼ大丈夫、という便利さです。

他には、オリエンタルのVC-PRIIはグロッシーのみで、濃い黒が白っぽく見えやすい弱点がありますが、価格が安く魅力的です。
富士のフジブロバリグレードWPでは2種類の光沢を選べます。