ワンランク上のプリントのために

ひと通りの処理がストレスなく出来るようになったら、よりよいプリントを作ることを考えてみましょう。
そのヒントを、書いてみます。

軟調なプリントから始めよう
プリントするネガを選んだら、印画紙のサイズに合わせてイーゼルを調整したりピントを合わせて、次に露光時間とグレード(印画紙の号数やフィルター)を決めるためのテストプリントを作りますね。
この時は、かならず軟調なテストプリントから始めましょう。 例えば、普段3号を基準にしているとして、今回のネガも見たところ3号で合いそうだと思っても、まずは2号でテストプリントしてみます。
何故かというと、3号でテストプリントしてシャドウからハイライトまで上手く階調が揃ったとしても、そのテストプリントからでは、それより深いシャドウやそれより明るいハイライトがどうなっているのかが分からないからです。
テストプリントから本番プリントへの調整が、硬調から軟調になるようではダメです。 あるいは、コントラストの調整が不要でもダメなのです。
かならず、軟調から始まって硬調側に調整していくようなテスト手順を踏むようにします。

露光時間を決めるためのテストも同じです。
普通、露光時間を決めるには段階露光した印画紙を現像して適切と思われる露光時間を選ぶわけですが、段階露光した中でいちばん長い露光時間が適切と思えたら、そのテストはやり直した方がよいです。 必ず、段階露光の中の最長時間より短い露光時間から選べるようなテストをしなくてはいけません。
なぜなら、いちばん長い露光時間が最適に思えたとしても、それより長い露光時間がダメかどうかを確認できていないからです。
これはハイライト側も同じです。 いちばん短い露光時間が適切に思えたら、そのテストはやり直します。 もしかしたら、より短い露光時間がより良いかも知れないのに、それを確認できないテストはダメ、というわけ。

シャドウ側はどこまでも最大濃度に到達せず、ハイライト側は印画紙の地の白ギリギリには届かないような軟調なテストプリントには、そのネガの中にある全ての階調情報が描き出されています。そうしたテストプリントをまず手にしないと、ネガの持っているポテンシャルを知ることが出来ないのです。
そのテストプリントはたしかにダルダルでネムくて見栄えのしないモノかも知れませんが、それはあくまでもテストプリントです。優秀な完成プリントと優秀なテストプリントは違います。 テストプリントにはテストプリントの役割があります。 一見すると軟調過ぎるようなテストプリントは、シャドウからハイライトまでピッタリ合ったテストプリントよりはるかに優秀です。
初期のテストプリントは、そのネガを良く知るために作るのだと考えましょう。

大きなプリントを作ってみよう
プリントのサイズ(印画紙のサイズ)は目的に応じて選ぶわけですが、ある程度のレベルに達するまでに、出来れば大きめのプリントを作るようにしてみましょう。
キャビネや大キャビネという小さな印画紙はプリントを始めた頃の練習にも手頃ですし、あるいは仕舞ったり人に渡すにも手頃ですが、小さなプリントから得られる情報はやはり大きなプリントからより少ないのです。
言い換えると、大きなプリントではさまざまなボロが出ます。 それを見て、直すところを直せば、また同じサイズのプリントを作った時により良いプリントを得られるようになります。 それは、プリント作業だけでなく、撮影から始まる一連の過程を見直す機会になるはずです。
例えば、被写界深度という言葉をご存じかと思います。 これはピントが合っているように見える距離の範囲を言い、レンズにもその目盛りが付いている事がありますが、実際には、ピントが合っている距離というのはごくごく狭い範囲でしかありません。 しかし、普通の人が普通のサイズのプリントを普通の距離から観ても「ピントが合っていないことが分からない程度のボケの範囲(許容錯乱円)」というのがあり、それによって得られるのが被写界深度です。
言い換えると、許容できるほどにしか拡大されていなければボケていない、許容できないほど拡大されるとボケてしまう、という事なので、プリントサイズが小さいほどピントが合って見える、プリントサイズが大きいとピントが合っていないように見える、という事になります。
小さなプリントだけ作っていると、ピントが合っているつもりでも実際はダメだった、というのが分かりません。
また、被写体ブレやカメラブレもプリントサイズが大きくなると目立ってきます。 小さなプリントではブレてなんかいないと思っていた写真が、大きなプリントではブレブレのボケボケというのも経験できるはずです。
サービス判やキャビネなどで「このレンズはシャープだ」とか「手持ちで○○秒までスローシャッターが切れる」などと言っていては笑われてしまいます。
お店でプリントしてもらうカラープリントでは、大きなプリントは大変な金額になってしまうのでなかなか出来ませんが、自家処理のモノクロプリントでは比較的安価に大きなプリントを作ることが出来ます。 自分の撮影のレベルを確認するためにも、大きなプリントを作ってみるのはよい経験です。
フィルムの粒子などの都合もあってあまり大きな拡大率というのは難しいですが、35ミリフィルムからですと、普段からせめて8×10インチの印画紙(六切り)を使いたいところです。 そして、時には14×17や16×20と言った大きめの印画紙に引き伸ばしてみると、どのくらいカメラというのは撮影時にブレているものなのか、どれくらいピントの精度というのは信用できないモノだったのかが分かります。 そのフィルムがどれくらい粒状性が良く、どれくらい滑らかなトーンを描けるのかが分かります。 あるいはその逆が。
14×17インチに引き伸ばしてまだシャープなネガと、8×10インチならシャープなネガは、さらに小さな5×7インチにプリントしてもシャープさが違います。
14×17インチに引き伸ばしてまだ階調が滑らかなネガと、8×10インチなら階調が滑らかなネガは、さらに小さな5×7インチにプリントしても滑らかさが違います。
プリント作業も同様です。 引き伸ばし時のピント合わせ、引き伸ばし機のセッティングなどは、拡大率が大きくなるとより問われてきます。
階調について言えば、小さなプリントでは階調情報が圧縮されているのでボロが出ませんが、大きなプリントでは階調の末端まで見て取れる(逆に言うと見えてしまう)ので、より丁寧な作業が求められるようになるのです。
小さなプリントでシャドウの中に直径3ミリの黒く潰れた部分があっても気になりませんが、同じ部分が大きなプリントで直径10ミリになったら実にみっともないものです。
その10ミリにも階調が載るように、プリント時には露光時間やコントラストの調整が、それ以前にフィルム感度の特定やフィルム現像の調整などが必要になります。
自分の技術の至らないところを見つける、そのために大きなプリントを作ってみましょう。逆に、大きなプリントを作ることで、自分の撮影技術やネガの素晴らしさを確認することになるかも知れません。 それはきっと大きな自信につながるはずです。

同じネガをプリントしてみよう
自家プリントを始めた頃というのは、たくさんのプリントを観てみたくて次から次へとプリントしてしまうものです。 プリントを得ると撮影も楽しくなりますし、モノクロ写真の魅力というのにどんどんはまってきて、撮影のペースも上がるかも知れませんね。 同時に自分のプリント技術も上達していくはずです。 なまじ撮影もどんどんするのでプリントしたいネガは溜まっていくばかり。
しかし、違う写真をプリントしても、どれくらい自分が上達しているのかは分かりにくいものです。逆言うと、どれくらい自分が上達していないかもわかりません。
そこで、あるところで最初の頃にプリントしたネガをもう一度プリントしてみるのは非常に大切です。
試しに、最初にプリントしたネガを思い出してみましょう。 もしかすると多くの人が、結構思い入れのある写真、とっておきの写真を記念すべき1枚目のプリントとしたのではないでしょうか。記念にバインダーやクリアファイルに保存してありませんか?
しばらくプリントをやって、最初の頃より要領も良くなった、露光時間やコントラストの見極めも確実に出来るようになった。 そう感じたら、最初の1枚と同じネガをプリントしてみましょう。
もちろん、最初の1枚でなくても構いません。 暗室作業を始めた頃にプリントした、できれば思い入れのあるネガが良いでしょう。
そのネガを、今の自分の技術でプリントしてみます。 もしかすると、技術だけでなく好みも変わっているかも知れませんし、今日の気分が前回プリントしたときとは違うかも知れません。 いずれにしても、同じネガから微妙に違うプリントになるのではないでしょうか。
さて、以前作ったプリントと客観的に見比べて、今回のプリントは良いでしょうか、同じ程度でしょうか。 どこがどう違いますか、どこがどう良いのでしょう。あるいは、どこがどう悪いのでしょう。
それを、自分の感覚や自分の言葉で説明できるように考えてみます。
そうすることで、自分の考えるより良いプリント、客観的に見てより良いプリントというのが分かってくると同時に、今以上に何をどうすべきなのかが見えてきます。

その写真が、自分にとって良い写真、好きな写真、思い入れのある写真であるなら、またしばらくしてからプリントしてみましょう。 あるいは、新しいプリントテクニックを覚えたり、今までと違う印画紙や今までと違う現像液を手に入れたときにもそのネガをプリントしてみましょう。
自分にとって基準となるネガがあると、自分の技術の進歩、工夫の効果、良いプリントというものの捉え方の変化がわかります。
同じネガから今以上のプリントは作れないと思っても、またしばらくするとより良いプリントが出来るようになるものです。

写真は、最終的にはプリントというかたちで完成します。
プリントにたどり着くまでには、被写体の選択、撮影する時間帯や光線具合、撮影機材、感剤の選択、絞りやシャッター速度と言った要素や、露光量、フィルム現像にまつわるあれこれ、そしてプリント作業と、さまざまな要素が影響を与えています。
その中で、プリント作業、という部分ではたしてどうなのかを見るために、同じネガを、間をおいて繰り返しプリントするのです。