スポッティング

ネガにチリや埃がついていて取れないとか、ついうっかり見逃しちゃったとかで、プリントしてみると印画紙に光があたっておらず、白く抜けてしまっている場合、スポッティングといって顔料を印画紙にのせてリカバリーします。
プリントの工程としてはまぁ、普通にあるものなので、入門書の類などには必ず紹介されています。しかしtokyo-photo.netではサイトの開設以来10年にもなる今の今まで、これについて書いていませんでした。

というのは、ボク自身は、ほとんどといっていいくらいスポッティングというのをしないからです。
そもそも、スポッティングがどうしても必要という場合は、ネガがダメかプリント時のネガのクリーンナップがダメなわけで、ボクの場合はそれらのネガやプリントをボツにしてしまうからですし、実際問題、これはスポッティングしなくては、という事態にほとんどぶつからないからです。
もちろん、まったく無いわけではありませんし、そうですねぇ、100枚に1回あるかないか、たぶん無いな、という感じでしょうか。
それでもいちおう、スポッティングの練習はしましたよ。

とまぁ、前置きはあと少しにしますが、プリント入門のための情報源としてまずまず役だっているらしいこのサイトなので、とりあえず書いておくことにしました。

「とりあえず」というのは、実はボクがスポッティングに使っている「スポトーン」という製品は、往時は世界標準といっていいくらいメジャーなものだったのですが、数年前に製造を終了してしまっているからです。
なので、クリティカルには参考にならないのかもしれないのです。
たしか、似たようなものが海外では出回っていると思いますので、探してみてはどうかな、と思います。
日本国内では、LPLだか堀内カラーだか、プレート状になっているものが売られていてよく見かけます。しかし、ボクも以前に試したのですが、即、「こりゃダメだ」と思ってやめてしまいました。スポトーンとは比較にならない駄物ですので、ちょっとお勧めしかねるところです。
スポトーン亡き後、海外のネットコミュニティなどでは、「日本の墨がいいぞ!」なんてなことが盛んに言われていたので、試してみてもいいかもしれません。
ボクは手元にスポトーンを持っていますし、スポッティングというのをあまりしない上に、1度に使う量というのが極めて少ないのがスポッティング用の顔料なので、このペースだと数世紀はなくなりそうもありません。
暇で暇でしょうがなくて、他にやることが無くなったら墨を試してみることがあるかもしれませんので、その時にはまたご報告してみたいと思います。

で、まずは、スポトーンを使ってのスポッティングです。

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先日プリントしたもので、「ありゃ?チリがついてたか?」というのがありました。
いつもだとそれはボツにしてプリントしなおすのですが、「スポッティングの記事をいずれ書かないとな」というのが頭にあったので、これを採用することにしました。

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わかりますかね? 白いドットがありますでしょ?
画面の真ん中らへんね。このままではイケマセン。人様にお見せ出来る状態ではないです。

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スポッティングには水彩画用の細い面相筆を使います。0号とか00号とかいうやつですね。
けっこう繊細な作業なので、出来るだけいい物を手に入れたほうがいいです。

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「スポトーン」は小瓶入りで、当時、3本セットで売ってました(もちろんバラでも売ってたと思うけど)。これは、印画紙の色調(純黒、冷黒、温黒など)に合わせて使い分けたり混ぜあわせたりして調整するためです。
それぞれを見るととても黒には見えないし、ブラウンにも見えないのだけど、印画紙に使うと不思議と目立たなくなるんです。
印画紙の乳剤面に載せると、綺麗に染みこんで同化していきます。
非常に細かい顔料なんだと思います。
先に書いた良くない製品っていうのは、そのあたりがどうもいけません。

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対象になるプリントと同じ印画紙の切れ端に、使うスポトーンを少量、筆で吸い上げて落とします。
それと、綺麗な水も1滴、そばに落としておきます。
スポトーンを混ぜて、水で薄めて、様子を見るわけです。

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今回のプリントは温黒調のリスプリントなので、調合はちょっと難易度高めですかね。純黒は単純なので簡単ですが、温黒調だと色調の幅が広いですから難しいんです。
温黒調の場合、オリーブ色をベースにして混ぜあわせ(スポトーン以外では参考にならない情報ですみませんね)、水で薄めながら、実際にプリントの色調・濃度と見比べながら調整します。
実際のプリントのスポッティングする部分よりも、薄めにするのがポイントですよ。こんなに薄くて意味あるのかなぁ?と思うくらい薄くて良いです。
色調についても、プリントと同じように見える茶色よりも、スポトーンの場合はオリーブグリーンといった感じです。

言うまでもなく、プリント表面に手で触ってしまわないよう、マットボードなどをスポッティングする部分の近くに置いて作業します。

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筆に調整したスポッティング液を含ませたら、印画紙の切れ端の上で余分な液を取ります。もう1回しごいたらかすれちゃう、という程度のところまでね。
例えば、軽く吸わせて、1回、2回、3回と印画紙の切れ端でしごいて、4回目ではかすれてしまう、というのを確認したら、3回しごいてから実際のスポッティングにとりかかります。
筆は垂直に立てて、筆先で、ほんの少し触ったか触らないかくらいでスポッティングします。
白く抜けているところにだけ触るようにしますよ。
繰り返しますけど、絶対に!筆先が曲がるほど押し付けてはいけません。ほんっとに、触ったか触らなかくらいの感覚です。
印画紙に触っている状態で筆を動かしてはいけません。垂直に立てた筆をそうっと下ろして、触ったか触らないかくらいで戻します。

スポッティング液は、印画紙の乳剤面に染みこんでいきます。
斜め横から見ると、スポッティングした直後は印画紙表面に浮いて見えますが、ちょっとすると染みこんでわからなくなります。
その状態で、観察して、もう少し足すか、ここでやめるかを考えます。
どんどんやってはいけません。1度だけそっと筆先で触って、少し待ってから観察して、足りなければまた筆先にスポッティング液を染み込ませて、同じようにそっと触ります。

絶対に!白く抜けているところの周り、つまり抜けていないところに触ってはいけません。
白く抜けているところとその周囲との境目ギリギリにスポッティングしようと思わないこともポイントです。
もし、周囲の抜けていない(画像のある)ところにスポッティング液が載ってしまうと、その部分は元の画像にプラスしてスポッティングの濃度が載り、<特別濃い部分>となってしまい、それこそエッジ効果のようなもので非常に目立ってしまいます。
逆に、境界ギリギリはスポッティングせずに置いても、人間の目は気づかないのです。

濃度も同様です。周囲と同じ濃さまでスポッティングしようと思ってはいけません。ちょっと薄いくらいで良いのです。
スポッティングは、とにかく、<控えめ!控えめ!>を心がけてくださいね。

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はい、出来ました。
ここがスポッティングした部分ですよ、って矢印でもつけようかと思ったのですが、自分でもどこだったか分からなくなってしまいました・汗

これで参考になったのかならなかったのか・・・

しかし、スポトーンっていう特定の材料かどうかはともかく、スポッティングについては繰り返しになりますけれど、良質な面相筆で、控えめの濃さ、控えめの色調、控えめの大きさで、慎重に慎重に、あくまでも控えめにやるのがコツです。

もちろん、そもそもスポッティングなんか必要ない状態のネガや、プリント時のネガのセッティングが大切なんですけどね。