リスプリント

普通のプリントとはちょっと違う、いや結構違う。リスプリントはどこか幻想的。 写実性に囚われてしまいがちな日頃の写真活動に、一風違った新鮮な楽しさがやってきます。
なにしろ、普通のプリントテクニックや基本をあっさり無視しちゃう工程が楽しい。 印画紙の号数だの多階調フィルターだの、そんなのには縛られない自由さがイイ。

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リスプリントにチャレンジ
どこかで聞いたことがあるような、どこかで見たことがあるような、う~ん、リスプリント。そんなのあったよねぇ。
そんな感じかもしれませんが、これは結構昔からありまして、なかなかに盛んだったらしい。 しかし昔は盛んだったとしても、最近はあまり見聞きしないリスプリント。 どうも、コダックがリスプリント用印画紙の製造を終了してから廃れてしまったそうです。

ところが、ここ数年また人気が盛り返してきております。
特にヨーロッパではかなり盛んで、北米でも人気急上昇。これは著書やワークショップで精力的に活動しておられる第一人者Tim Rudman氏の功績によるものと思いますが、なにせ英語圏での活動だけです。 日本ではさっぱりハナシを聞きません。

おっと、「聞きませんでした」と言いなおします。

実際、ボクが最初にこのページを書いたときには、グーグルでヒットした(この意味での)「リスプリント」は2件だけでした(しかもこのページを含めて)。
しかし、石の上にも三年(?)。このページやフォーラム、あるいはブログで「リスプリント、リスプリント」といい続けた効果があったのか無かったのか(まぁ、正直に言えばこのページの成果だと自負してますけど)、ボクの周りにはすでに何人もリスプリントの魅力にハマっている仲間が居ますし、ネットの日本語サイトでもリスプリントの話題を見かけるようになってきました。

今現在、リスプリント用に特化した印画紙はあまりなく、特に日本国内では皆無と言って良いわけですが、じゃあダメかというとそんなことない。
Tim Rudman氏も、かつて無いほど印画紙や現像液の選択の幅が広くなったと仰っていますが、わりと普通に使ってる銘柄の印画紙でも出来ちゃうのです。



念のため
リスプリントと聞くと勘違いしやすいですが、白と黒のスーパーハイコントラスト、線画の複写の「リス」ではありません。 いわゆる文字や線を複写するためのリスフィルム(コピーフィルム)とは関係ないのでご注意を。
関係あると言えば、リスプリントの現像に使われていたのがリスフィルム用現像液だって事です。

リスプリントってどんなの
やり方を物凄く簡単に言ってしまうと、メチャメチャに露光過多な印画紙を現像途中で引き上げる。 そんだけ。
これだけ聞くと、ふむ、なるほど軟調現像、温黒にもなるよね。
ただ、リスプリントでは全体にわたって同様に軟調なのではなく、多くの場合、シャドウ部分で硬調、ハイライト部分は軟調になります。
これは、使う印画紙と現像液の性質によりますが、全体を軟調にしたり、非常に硬調な中にやわらかなハイライトとなったり、露光量や現像具合で同じネガから同じ印画紙上に実に様々な表情を生み出すことが出来ます。
印画紙や組み合わせる現像液によっていろいろと異なりますが、非常に温黒調になったり、あるいは冷黒調になることもあります。ハイライトがやわらかく滲んだようになる組み合わせもあれば、少ないケースですがガリガリにシャープな描写になることもあります。

こうした多様な表現には印画紙の粒子の大きさなどが影響するそうで、露光時間を長~くしたり短くしたり、現像液の希釈度合いを変えたりすると、同じ現像液と印画紙の組み合わせでも表現が変わります。 セッション中に現像液が疲労してくるとまた変わり、疲労した方が「イイ感じ」のリスプリントになるから実に悩ましい。
さらに、セレニウムやゴールドなどの調色がしやすく相性がよいのです。
つまりは、プリントする人の個性やアイデアやイマジネーションを思いっきり発揮できるという、芸術性・創造性に溢れたプリント技法というわけ。

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リスプリントに要るもの
まずはネガ。 リスプリントになれてきたら、狙った表現のために撮影対象から選んでいくのがいいと思いますが、まずはごく普通のネガでOKです。 普通の印画紙に普通にプリントできる普通のネガで良いのです。
いかにもリスプリントらしいリスプリントには、いかにも赤外写真らしい赤外写真が相乗効果を生み出しますから、赤外フィルムで風景を撮ったりしてる人は是非、リスプリントにも応用してみたいところ。逆にリスプリントの雰囲気にハマってきた方は、赤外フィルムにも挑戦してみてくださいね。
他、カラーネガからのリスプリントも、なかなかに魅力と応用の可能性がありますよ。

印画紙
さっきも書いたようにリスプリント用と銘打った印画紙はあまりなく、日本国内で普通には入手できません。 しかしながら、ごく普通の印画紙でもリスプリントに適したものが結構あるようです。
一般に、RCペーパーでは難しく、やはりFB紙がほとんどになるようですが、RCが絶対ダメというわけでもなく、逆にFB紙ならどれでも可能というわけでもありません。手持ちの印画紙で上手くできるのがあるかどうか試してみるのもいいかも。 見つけたら是非教えて下さいね。
銀の含有量が多い、現像促進剤が含まれていない、などなど、いろいろ向いている印画紙の特徴はあるようです。
印画紙のグレード(号数)は結果に違いを生みますが、露光時間・現像時間の調整で軟調~硬調まで非常に幅広く変化させられるため、普通のプリントにおけるグレード(号数)は意味をなしてないと言っていいでしょう。 2号印画紙にスーパー硬調なプリントもできるし、メッチャ軟調なプリントも出来ちゃいます。

現像液
これが普通の印画紙用現像液とは違います。だけれども、もともとは特にリスプリント用の処方というのはなく、リスフィルム・コピーフィルム用の現像液を、それも、ぐっと薄めて使うのが一般的でした。
最近のリスプリント人気で、海外の薬品メーカーがリスプリント用現像液を販売するようになり、海外通販で入手されている日本の愛好家もいらっしゃいます。
「FOTOSPEED LD20」や「MOERSCH EASYLITH」が有名ですね。
ボクはリスプリントを始めてからずっと富士写真フイルムのミニコピーフィルム用現像液「ハイリソドール」を愛用していましたが、残念ながらこれは廃盤になってしまいました。

普通、印画紙用の現像液(フィルム用も普通そうですが)は、現像主薬としてメトールとハイドロキノンを組み合わせたもの(MQ現像液)、フェニドンとハイドロキノンを組み合わせたもの(PQ現像液)、もしくはメトールだけのもの、といった分類にほとんど収まりますが、リスプリント用の現像液は、現像主薬としてはハイドロキノンしか持っていません。
そんなわけで、自家調合する場合、実はリスプリント用の現像液の処方は非常に単純なのですが、現像トレイの中では空気に触れる面積が多いため短時間で酸化して能力を失ってしまうのが難点です。
普通、ハイドロキノンを酸化から守るために亜硫酸ナトリウムなどの保恒剤が用いられるのですが、リスプリント用の現像液では、亜硫酸ナトリウムをほとんど使いません。ハイドロキノンを酸化させちゃうところが、実はリスプリント用現像液のポイントなのです。

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基本的な仕組み
現像促進加工されているRC印画紙だとあまり意味ありませんが、FB紙(バライタ紙)にプリントするときは観察現像する人が多いですよね。 まぁ普段は決めた時間で現像しているとしても、現像液の中で印画紙に画像が出てくる様子は誰でもお馴染みのハズ。
さぁ、その様子を思い浮かべてみましょう。
印画紙によって違うけれど、RC紙では現像液に印画紙を入れた途端、全体が急激に浮かび上がってくるように見えるんじゃないかな。でもFB紙では違いますよね。最初はまるで画像が出ないけれど、うっすら画像が出始めた後、 ぼんやりとしていたのが濃くなって、それから全体像がはっきりしてくる感じですよね。 画像が出てくる初期の段階はゆっくりだけれど、だんだん加速するように見えるはず。
現像は、いきなりボンッ!と終わるのではなくて、じわじわ進むわけです。フィルムの現像では、その時間が掛かることを利用して、現像時間によってコントラストを調整するわけです。
リスプリントは、さらに極端な現象、”infectious development”を利用し、印画紙に画像が浮かび上がってくる過程のなか、現像をうち切るタイミングを調整することで表現を変化させます。

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普通の現像液では、現像することによって現像主薬であるメトールやフェニドンが酸化します。感光したハロゲン化銀を還元するためですね。
その際ハイドロキノンは、自分が酸化することで、メトールやフェニドンを還元します(自分を犠牲にして、彼らの酸化を帳消しにしてやる、みたいな事ですね)。
さらに、現像液中の亜硫酸ナトリウムがハイドロキノンを還元してくれるので、なんだかんだで現像力が長続きするように、現像液の処方は工夫されているわけです。

ところが、リスプリント用の現像液には、ハイドロキノンを還元してくれる亜硫酸ナトリウムがちょっとしかありません(普通の現像液と比較するとほとんど無いに等しいくらい)。
メトールやフェニドンといった強力な現像主薬もありませんので、ハイドロキノンがチマチマと弱っちい現像力で現像を進めていきます。
リスプリントの現像過程では、初期の段階ではほとんどプリント表面には現像の様子が現れません。最初にディープシャドウ部分だけがぼんやり出て、やがてなんとなく全体像が浮かんで来た後も、非常に軟調なままゆっくり現像が推移します。

しかし、印画紙の乳剤層の中では化学変化がじわじわと進行していて、ある程度のところから爆発的に、目に見える画像を生む化学反応が加速します。
チマチマと現像してるうち、ハイドロキノンは酸化してベンゾキノンってやつになっていきます。ボクは化学がさっぱりわからないのですが、ハイドロキノン(C6H6O2)がベンゾキノン(C6H4O2)になるっていうことは、水素(H)が2個無くなるってこと。
この途中の、水素を1個失ったという中途半端な状態、半キノン(Semiquinone)は安定性が無くて、この状態では長く存在できないのですが、現像液中にこの半キノン状態がある一定量以上になると、ガツンと現像が進む、ということらしいです。
生殺しみたいに中途半端に還元されているハロゲン化銀と、生殺しみたいに水素を1個だけ失った半キノンとの組み合わせは、互いに不安定なので強力に反応します。そこでガツンと現像が進み始めると、その周辺ではハイドロキノンが次々と酸化していくので、その途中で半キノンになり、さらにガツンと現像を進め、さらにその周囲のハイドロキノンが、というように、連鎖反応みたいなことを起こしていくんじゃないかと想像します(化学オンチの想像だけどね)。

この、現像工程の終盤に起こる加速度的な変化は、まずディープシャドウ部分が先行して、それからシャドウ、続いて中間調と、露光量の多かった部分から始まって露光量の少なかった部分へと、急激に範囲が広がっていきます。
薄い全体像が一様に濃くなっていくのではなく、濃いところだけが先に濃くなるわけ。バナナの皮が変色していく様子に似ている、というと分かり易いかしらん。

この、急激に濃い部分が拡大していく途中で現像をうち切るため、リスプリントはシャドウで硬調、ハイライトで軟調になるんですね。
先にシャドウが出来上がってくるから、シャドウ部分が希望の濃度になったところで現像をうち切れば、中間調~ハイライトは非常に軟調のまま終わってしまう。
ここからまだ現像を続けると、濃度が上がってくる部分はディープシャドウ~シャドウ~中間調~ハイライトへと徐々に食い込んでくる。
リスフィルム(コピーフィルム)用の現像液は、黒いところは黒く、白いところは白くを強調するために、こうした”infectious development”の作用が強い処方になっているのでしょう。

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準備
まずはネガを用意。先にも書いたように普通のネガでもオッケー。
現像液は、リスフィルム用の現像液を、フィルムを現像するときよりも薄めて使います。 あれこれ試すのは先にして、スターティングポイントとして3倍程度に薄めてみましょう。
リスプリント用に販売されている現像液を入手可能なら、まずはインストラクション通りで試してみるのが良いと思います。
なんで現像液を薄めるかというと、現像途中で進行状況を確認しながらうち切るタイミングを見計らう必要があるため、現像の進行をごくごくゆっくりにしないといけないからですね。 一般に、印画紙現像液はフィルム現像と違ってフルに現像しきることが求められますが、リスプリントは全部を現像しきらない、というのがミソなのです。
調子や色調にも希釈率が影響しそうです。薄めの方がリスプリントっぽさが強調されます。

初めてリスプリントをやるなら、まずはプリントしたいネガを普通の現像液でテストプリントしてみるのもいいかもしれません。 後で違いを見比べることが出来るし、露光時間の目安にもなります。
リスプリントでの露光時間は非常に幅広く出来るのですが、まずはスターティングポイントとして、通常のプリントをするときのプラス2~3段、つまり露光時間にして4倍~8倍でやってみましょう。 8秒露光で普通のプリントが出来る場合、30秒~60秒ということになります。
こんなに長い露光時間が必要なのは、薄めた現像液を使い、現像を途中でうち切ってもちゃんとした濃度を得るためです。 また、後述しますが、露光時間の長短でプリントの表情は大きく変わります。

やってみよう
印画紙に露光します。先ほど書いたように最初は普通のプリント方法の露光時間を参考するのが良いと思いますが、露光時間はかなり長くなります。
現像液に印画紙を投入、いつも通りに攪拌します。 通常のプリントだと、RC紙なら数秒のうちに、FB紙でも1分もすれば画像が出てきますが、リスプリントの場合はもともと印画紙用ではない現像液をさらに薄めてあるので、1分では現像がろくに進まず真っ白です。 2分たってもほとんど真っ白か、ごく僅かになにか出たかなという感じ。
なので、最初の3分くらいはセーフライトによるカブリを防ぐためにも画像面を下にして攪拌を続けるのがいいかもしれません。 見てても面白くもなんともないですし。
印画紙や現像液、その希釈率にもよりますが、一般的に画像が出始めるのは現像開始から3~5分というところのようです。 また、加速度的な現像が始まるのはもっと後になりますから、実際には印画紙を観察するのはその先からで構わないのです。

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なかなか出てこない画像ですが、徐々に徐々にディープシャドウ部分が浮かび上がってきて、それらがある程度の濃度に達すると、そこからは急速に現像が進行していきます。 さらに一気に加速して、ぼんやりと眺めているとあれよあれよと真っ黒へ。
重要なシャドウ部分をよく観察して、現像をうち切る、つまり印画紙を素早く現像液から「抜き取って」停止液に移すタイミングを逃さないように注意しましょう。
この「抜き取り」のタイミング(Rudman氏の言葉で”snatch point”)を変えることでプリントは多様に変化しますから、まさにココがポイントです。
現像の進行が早くて、どうも「抜き取り」のタイミングを逸してしまう場合、現像液の現像力が強すぎです。 さらに希釈して現像の進行をゆっくりにしましょう。
3分とか5分を過ぎてからごく僅かに画像が出始めたとしても、実際に「抜き取る」のはボクの場合8分とか10分過ぎということが多いようで、セッション後半で現像液が疲労してきているとそれをゆうに超えることもざらです。 もちろんこれらは現像液の希釈率や印画紙の性格、あるいは狙っている表現によって異なってきます。 ボクは30分を超える現像をしたこともあります(さすがに居眠りしそうになりました・笑)。
停止~定着~水洗の処理は通常のプリントと同様。 通常のプリントよりもフィクスアップ(定着液によって画像がやや薄くなる)が起きやすいという人もいるので、定着時間を無駄に長くしない、可能ならアルカリ定着液を使うなどが望ましいと思われます。
また、定着液に移した段階で色調が変化することがあります。多くの場合は画像が濃くなったように見えるので、乾燥後のドライダウンも含めて、観察現像の見極めには少なからず慣れが必要です。
調色性に優れると言われるリスプリントですから、その先で工夫しても楽しいかもしれません。そもそも標準的なトーンが欲しくてリスプリントをやるわけじゃないんですから、調色やブリーチなど、テクニックを駆使して独特の表現を目指しちゃいましょう。

基本的なコントロール
露光時間が長いと、それに応じて現像時間は短くなってきます。この場合、全体として軟調になります。
露光時間が短いと長い現像時間が必要になりますが、露光の絶対量が少ないハイライト部分に現像が至るのに非常に長く時間がかかり、シャドウ部分の現像が先に進行する傾向が強くなるので、ハイライトの濃度を得ようとするとシャドウは真っ黒になりがちです。
現像時にハイライトの調整をしようと思ってもなかなかに困難です。 露光時間が短い場合、ハイライトを待っている間にシャドウが潰れてしまい、逆に露光時間が長かった場合にはハイライトが出そろってもシャドウが薄いままになるからです。
従って、ハイライトの濃度は露光時間によって調整する事になりますね。フィルムとは逆に、「ハイライトのために露光し、シャドウのために現像する」と覚えておきましょう。
シャドウ部分の濃度を現像時に観察しながら「抜き取り」のタイミングで調整し、その結果ハイライトが狙った調子にならない場合は露光時間を変えてみましょう。 ハイライトが濃すぎたなら露光時間を短く、ハイライトが薄すぎたなら露光時間を長く、です。
攪拌による調整がどのくらい有効かはまだ研究しなくちゃなりませんが、シャドウ部分がそれなりに出てくるまでは普通に連続攪拌しないとムラになっちゃうはず。 その後攪拌を控えめにすると、画像面に接している現像液の疲労度合いの違いにより、現像の進行度合いをシャドウとハイライトとでいくらか制御できるのではないかと推測しています。

c872256371df3f8a53fd6105978ee99cサンプル ~ コントラストの調整
まず念頭に置いていただきたいのは、この参考例はいずれも同じネガから、同じ印画紙にプリントされたものだという事です。(印画紙:オリエンタル ニューシーガルG2)
左は露光時間を長くして全体に軟調になったケース。 中央は露光時間をやや短くし、水面に映った格子状の陰がくっきり出たところで現像をうち切った例。 右端は露光時間をさらに短くし、花が浮かび上がるようにその他の濃度を上げていった場合。 一見すると単に硬調なだけに思われかもしれませんが、普通のプリント手法では困難。
この様に固定階調の印画紙でも、露光時間と現像時間(抜き取りのタイミング)で自在に表現を変えることが出来ます。 通常のプリント手法で、多階調印画紙でコントラストを変えた場合とも異なる結果になります。

Tips
最初はなかなか画像が出てこないので焦ります。慌てず騒がず待ちましょう。
露光時間、現像時間ともに非常に長くかかるので、セーフライトの安全性チェックをした方がいい事も。
かといって暗すぎては観察現像がしにくく「抜き取り」のタイミングがわかりません。 お使いのセーフライトによっては、現像の最初の数分は現像トレイに遮光紙を被せてしまうとか、セーフライトを切ってしまうとかしないとならない場合もありそうです。
最初のテストプリントの時に、現像が加速し始めるまでの時間を計っておき、次からはその時間までは画像を見ていても意味がないので、ボクはトレイの上に遮光性のある紙を被せてフタをし、ただ黙々と攪拌しています。
そんなわけで、退屈しないように音楽をかけるのが習慣。
リスっぽさを求めるなら、現像液が疲労してくるセッション後半の方がイイ感じのリスプリントになるはずです。 そこで、セッションの最後に疲労して茶色くなった現像液をボトルに保存し、次回のセッション時に新鮮な現像液にこの古い現像液を少量加えると良いようです。 早い段階からいい感じになってきます。
現像時間が長いため、どうしてもカブリ(ペーパーフォグ)が出やすくなるはずです。 それが問題になる場合、自家調合の経験がある方は臭化カリウムを少量加えるとかの工夫もありだと思いますが、ハイライトの描出が結構変わってきますので、トライアンドエラーで自分好みの配合を探して行きましょう。

最初のウチは戸惑うかもしれませんが、全体として長い時間のかかる現像工程ながら、肝心の”snatch point”あたりでの現像は、思いのほか速く進みます。 どうしても抜き取りのタイミングが掴めなければ、もう1枚バットを用意してさらに薄めた現像液を張り、”snatch point”が近くなったというタイミングで移してしまうという方法も考えられるでしょう。
ボクは、ギリギリのあたりでは攪拌をやめ、じっと抜き取りのタイミングを計っています。攪拌を休止すると現像の進行が遅くなるのです。 また、いったん印画紙を現像液から抜き取ってしまうと、希釈されていて疲労しやすい現像液のせいもあってか、わりとすぐに現像が止まってしまいます。その状態で観察して、現像が足りなければ再度現像液に戻して攪拌を再開するなどの方法をとる事もあります。
いずれにしても、ドライダウンの読みも含め、ある程度の慣れはどうしても必要ですね。






向いてる印画紙
ボクがずっと愛用して来たのは、Rudman氏 も好適な印画紙として名前を挙げていた Oriental New Seagull G です。 純黒調を謳うシーガルも、ボクの場合にはリスプリントで焦げ茶色とも言える強い色調になります。
しかし、残念ながらこの印画紙は販売終了となってしまい、ボクも買いだめしたのですがさすがに在庫が底を突きました。 念のため、オリエンタルの後継製品 “GF” はダメです。リスプリントでは上手く使えませんでした。富士の Rembrant V などもそうですが、比較的新しい世代の、FBなのに現像が押せないタイプの純黒調印画紙はリスには不向きのようです。

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チェコの Foma印画紙を日本の専門店でも多く見かけるようになってきましたが、FomaはFOMATONEをはじめ、殆んどの銘柄がリスプリントに向いていて、海外のリスプリント作家にもユーザーが多いようです。
上のプリントはFOMABROMです。
ダークで素粒子感の強い、かなり印象の強いプリントになります。
そのままだと焦げ茶色ですが、セレニウム調色で冷黒になりました。
露光量は少なめで、現像時間が長め。

日本国内でも広く売られていた Forte の印画紙は大体がリスプリント向きだったのですが、これも Forte の廃業で無くなってしまい残念。
ボクは Fortezo Museum を買い溜めしちゃいました。なかなかこれに匹敵する印画紙に出会えません。

それから Ilford Multigrade FB Warmtone も現像液の相性はありましょうが、まずまず使えます。 Rudman氏はこの印画紙はBRD(ブリーチ再現像)で独特の表現をするとしています。 いったん通常の現像液で現像し、再ハロゲン化ブリーチをしてからリス現像するという処理です。
際立った効果を得るにはそうした工夫が要りますが、日本国内でも入手が容易なのは魅力ですね。
日本での販売は無くなってしまいましたが MG FB Cooltone も同様に使えるそうです。普通のMG4FBは不向きです。
多階調印画紙はセーフライトを明るくするとかぶりやすいので、その辺がネックかもしれません。 しかし、普段から強めの温黒調を好んでるのなら、通常のプリントとリスプリントで同じのが使えますから、IlfordのMG FB Warmtone はある意味便利だと思います。

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FOTOKEMIKA EMAKS - Maco自体がリス向きとアナウンスしてきたMACO EXPOと同じ印画紙だそうです。もともとFOTOKEMIKAが供給していたもの。ADOXプランドのNuanceという名前でも売られていたかな。
EMAKSは通常のプリントでも深みのある黒の素晴らしい印画紙ですが、リスプリントももちろん出来ます。
露光時間やや長めで現像時間は手頃。
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優しい印象の綺麗なセピア色で、セレニウム調色すると純黒に近づきます。
ボクのお気に入り印画紙です。
(残念ながらFOTOKEMIKAが製造を終了)

求む情報! 他の印画紙でやってみてヨカッタ!のがあったら是非教えてください。 これはダメだったという情報でも歓迎です。無駄に試さなくて済みますからね(笑)。

b31b1779ef486bd445adf2c2eb9d1b5aサンプル ~ トライアンドエラーで仕上げていこう
稚拙な作品で申し訳ないがガマンしてもらって、まずは上からスタート。 Oriental New Seagull G2 を使い、露光時間やや長にしてみました。 自然なトーンになるよう現像で調整したものの、もともと陰気なシーンなこともあってやや重苦しい感じになってしまったので、露光時間を短くして再プリント。 樹の幹を濃く描出しながらも現像を早めにうち切って、細かい葉で構成されている周囲の雰囲気を柔らかく残してしてみたのが中央のプリントです。 ハイライト部分はなんとなくチャラチャラして落ち着かず、シャドウも締めすぎた感じがします。 ちなみに、画面に明るい部分が占める割合が多くなったため色調も違って見えますね。
これらワークプリントで得たイメージを念頭に、Kentmere Art Classic を使った完成プリントが右端です。 柔らかすぎたような気もしますが、印画紙の質感にもマッチして満足。 スキャンの具合で伝わりにくいと思いますが、茶系にやや緑が入ったカーキ色なのが分かるでしょうか。

現像液
市販のリスフィルム用現像液(コピーフィルム用現像液)であればとりあえずOK。 今は廃盤となった富士フイルムの「ハイリソドール」をボクは使ってきましたが、コダックの「コダリスRT」とか、いろいろなメーカーがリスフィルム現像液を販売していましたので、まだ手に入るものもあるだろうと思います。富士の「コピナール」はどうもダメなようです。
先述しましたが海外通販が出来る方ならリスプリント用の現像液も売られていますから選択肢は広がります。
「FOTOSPEED LD20」は使用薬品の輸送規制で海外通販が難しいかも知れませんが、「MOERSCH EASYLITH」や「Rollei Super Lith」は入手可能です。北米からの購入では人気のFreestyle Photographic Suppliesなどでも各種扱っていますし、Freestyleもオリジナルブランドのリス現像液を販売しています。

また、Ryuji Suzuki氏が提案するリスプリント用現像液処方があり、入手が容易な薬品だけで構成されている処方が紹介されていますので参考にしてみて下さい。
ボクもこの処方ベースにして、自分好みに調整したものをときどき使います。
Ryuji Suzuki’s Burning Lithprint Developer
hydroquinone 3.0g
sodium sulfite 3.0g
potassium bromide 2.0g
trisodium phosphate 10g
target pH about 11 (plus or minus 0.2 units)

この処方のように、非常に単純な構成の現像液でリスプリントは楽しめます。
ハイドロキノン(hydroquinone)はもちろん現像主薬で、これが酸化していく過程で強力な”infectious development”が起きるわけなので、保恒剤である亜硫酸ナトリウム(sodium sulfite)は敢えて、一般的な現像液と比べて極めて少なめにします。基本的には、これに対してハイドロキノンを多めにする・少なめにする、亜硫酸ナトリウムを多めにする・少なめにする、というバリエーションで、使っている印画紙で好みの描出や手頃な現像時間を得られるように工夫していきます。
臭化カリウムがカブリ防止ですが、ハイライトの描出に結構影響します。
先に述べたように、基本的には、露光時間によってハイライトの濃度が概ね決まり、現像時間でシャドウのコントロールをしますが、シャドウももちろん露光時間の影響を受けます。ある露光時間で望ましいシャドウの描出を得ている時に、ハイライトをもう少し明るくするには、臭化カリウムを多めにすると効果があるようです。そのかわり、少しザラザラした感じにもなるので、コントラスト高めで荒々しさを増したいときに面白いと思います。
リン酸三ナトリウム(trisodium phosphate)はアルカリ剤ですが、もちろん、他のアルカリ剤でも構いません。Ryuji Suzukiさんはph11を想定していますが、それより低くても構わないと思います。印画紙現像液のアルカリ剤によく用いられる炭酸ナトリウムを60g~80gくらいでも構いませんし、ボクは炭酸カリウムが好きなのでそれをよく使います。
亜硫酸ナトリウムが極端に少ないので、この処方では、数枚の印画紙を現像しただけでかなり疲弊してしまいます。実際、オープントレイでは、1枚目と2枚目ですら現像時間がかなり変わり、描出も変化します。数枚で使い捨て、という運用でも構わないでしょうが、例えば2枚現像したら亜硫酸ナトリウムを1g足して少し回復させる、またハイドロキノンを足して、というように、延命しながら寿命を引き伸ばす使い方もありだと思います。
また、この処方は使用液での薬品量ですので、それぞれ倍の量で作って、2倍に薄めて使用液にする、なども可です。どのくらいまで濃く作って置けるかは、アルカリ剤をどれくらい溶かせるかにかかって来ますが、炭酸カリウムであれば炭酸ナトリウムよりもはるかに高い濃度に出来ますから、ボクは炭酸カリウム480gを使って1+7希釈で使う保存液を作っていたこともありました。

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