印画紙現像液によるコントラスト調整



印画紙上のコントラストを調整する方法として、もっとも一般的でもっとも素直な方法は、いうまでもなく印画紙のグレード(号数)を変えることです。 仮に3号の印画紙を基準にするなら、希望よりも軟調なネガに対しては4号などの硬調な印画紙を、逆に硬調なネガに対しては2号などの軟調な印画紙を使います。
これはいわゆる「号数印画紙(グレーデッド)」でのはなしですが、多階調印画紙でも考え方は同じで、3号フィルターを基準にするなら、希望より軟調なネガには4号などの硬調になるフィルターを、逆に硬調なネガに対しては2号などの軟調になるフィルターを使います。
号数印画紙は、その号数(グレード)によってコントラストが異なるように作られていて、多階調印画紙は投影される光の色によってコントラストが変化する様になっています。 いずれにしても、ネガの硬調さ軟調さを印画紙への露光までの間に調整するわけです。
この点での多階調印画紙の優位は、号数印画紙の場合は1銘柄の印画紙が2号、3号、4号などと分かれて作られているために、複数の印画紙を持っていなくてはならないのに対し、多階調印画紙はフィルターを替えることで1つの印画紙をさまざまな号数として扱うことが出来るのという点がひとつ。
またもうひとつは、号数印画紙が1号単位でしか作られていないのに比べ、多階調印画紙は一般的なフィルターのセットでも0.5号刻みになっている事。 つまり、2号と3号の間に2.5号というように細かく調整できます。 さらに、引き伸ばし機によっては10分の1号刻み、あるいは無段階に階調を変えられる機能を持っている事もあります。
加えて、多階調印画紙用のフィルターは00号という超軟調から5号の超硬調まである事も優位な点です。そんなの必要ない、と言ってしまえばそれまでですけどね。

では、号数印画紙を用いた場合で、2号では軟調すぎ、3号では硬調すぎたという場合、どうすればいいのか、という事を考えます。 テクニック的な序列で言うと順番がちょっと前後するかも知れませんが、プレフラッシングという方法も号数の間を埋めるテクニックのひとつです。 ですが、より簡単で先に覚えたいのは現像液の種類を変えてコントラストを調整する方法でしょう。

フィルム現像の場合、軟調にするには現像時間を短くし、その分を露光量を増やして補います。これを一般には「減感する」と言います。 逆に硬調にするには現像時間を長くしますが、多くの場合これは露光量が少ない事の補正、つまり増感現像として行われます。
フィルムも印画紙も同じような感光材料に露光して現像する事にはかわりがありませんが、印画紙現像はより短時間で行われるため、露光量と現像時間の組み合わせによる調整はやや特殊な技法に属します(これは色調の調整にも使われます)。
また、フィルム現像と印画紙現像の違いには、フィルムの場合はそのフィルムで得られる最高濃度にまで現像することはまずあり得ないのに対し、印画紙現像は多くのケースで、その印画紙と現像液の組み合わせで得られる最高濃度、あるいはそれに近いところまで現像しきっていくという点です。
つまり、フィルム現像は現像途中、しかもかなり手前で現像をうち切るのに対し、印画紙現像は基本的には出来るだけ目一杯現像すると考えて良いと思います。完全に目一杯ではありませんが、概ねそうだというハナシです。
では、印画紙をかなり目一杯現像するという中でどうやってコントラストを調整するのか、ですが、現像に使う印画紙現像液の性格によって行うことになります。

2種類の現像液を使い分ける
もしかすると普段、印画紙現像液は1種類しかお持ちじゃないかも知れません。 それは富士の「コレクトールE」かもしれないし、コダックの「デクトール」かもしれません。 いずれも標準現像液と呼ばれている印画紙現像液で、特に「デクトール」は世界標準と言っても過言ではない定番です。
例えば多階調印画紙で、3号フィルターを使って露光し、これら標準現像液で現像したプリントがコントラストが強すぎたとします。 その際は、2号なり2.5号フィルターを使って露光して同じく現像しますよね。
ところが同じ3号フィルターを使っても、標準現像液より軟調になる現像液で現像すると2号なり2.5号のような結果になるのです。
フィルムでは「シャドウのために露光し、ハイライトのために現像する」という言い方をします。現像がより影響を与えるのはフィルムではハイライト部分だからですが、印画紙で現像が影響しやすいのは逆にシャドウです。 フィルムでハイライトにあたる部分は濃く、印画紙で濃いのは逆にシャドウですからあたりまえですね。
軟調になる現像液、つまり弱い印画紙現像液は、ハイライトではともかくシャドウを現像しきっていく事が出来ないのです。 それゆえ、ハイライトはそれほど変わらずに、シャドウ部分の濃度があまり上がりません。
コダックで言えば、「セレクトールソフト」という現像液がこうした穏やかな現像液になります。

次のサンプルは先に挙げた2種類の現像液を使った物ではありませんが、実際に同じ多階調印画紙に対して同じフィルターで同じ時間露光し、標準現像液と軟調現像液でそれぞれ現像したプリントです。
サンプルプリントでは効果をわかりやすくするため、現像での調整が利きやすいFB紙(バライタ紙)を用いました。
スキャン時にコントラストを調整しては意味がないので、スキャナの自動調整をオフにし、その後のコントラスト調整も行っていません。
この様に、現像液によって濃度やコントラストが変わるのだ、という参考にしてください。
ハナシを分かりやすくするために、以下「標準現像液」を「硬調現像液」と称します。
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2種類の現像液を混ぜてしまう
さて、同じ号数の印画紙(同じ号数のフィルター)であっても、硬調現像液と軟調現像液ではまるっきりコントラストが異なる事がおわかりいただけたと思います。 しかし、上のサンプルではちょっと極端に違いすぎるように見えますね。 では、この中間のコントラストを得るにはどうすればいいか。
ひとつ目は、両者を混ぜてしまう、という方法。
なんだか乱暴に聞こえますが、強弱の異なる現像液を用意して混ぜ合わせるという方法は広く認められていて、そうしたシステムとしての処方も存在します。

これは最初からこうした目的に合わせて作られた処方ですが、市販の「セレクトールソフト」と「デクトール」を混ぜても同じようなことが出来ます。 もちろん、「セレクトール」の軟調から「デクトール」の硬調までの範囲であれば、混ぜ合わせる比率によってコントラストが変化します。 また、現像液は希釈することでも軟調に傾きますので、希釈率の変更というのもコントラスト調整に使えます。
「セレクトール」にしても「可変調現像液」の「A液」にしても、軟調側の現像液は現像主薬にメトールのみを用いているのに対し、硬調側の現像液は「デクトール」も「可変調現像液」の「B液」もメトールとハイドロキノンを組み合わせた現像力の強いMQタイプになっています。
特に軟調側はメトール単用であるために軟調にし易い(一定以上に濃度を上げにくい)、というのがポイントだと思います。

2浴現像
プリントセッションの際、1枚のプリントを作っているときにコントラストがうまく決まらず、調整しようと先述のように現像液を混ぜてしまうと続きがやりにくいですよね。 一度混ぜた現像液をまた分ける、と言うことは出来ないわけですから。
しかし、もうひとつ別に、コントラストの違う2種類の現像液の中間を得る方法があります。 それが軟調現像液と硬調現像液の2浴現像です。
2浴現像というくらいですから、現像液のバットを2つ並べて片方に軟調現像液、もう一方に硬調現像液を用意します。
まず最初に軟調現像液で現像します。 この段階では中間調からハイライトはまずまず出ますが、ディープシャドウからシャドウは締まりがないままの軟調です。
次に、軟調現像液から引き上げた印画紙を硬調現像液に移し、現像します。
印画紙の現像はほぼ目一杯行われると最初に書きましたが、メトール単用の軟調現像液では目一杯現像したとしてもシャドウ側(つまり濃い方)ではそれなりで留まってしまいます。
しかしMQ処方を採用した硬調現像液(標準現像液)に印画紙を移せば、軟調現像液では現像できなかったシャドウ側をさらに現像することが出来るのです。
しかし、最初から硬調現像液(標準現像液)で現像したほどにはいきません。 そのため、まず軟調現像液、次に硬調現像液という順番で現像すると、結果は両者の中間となります。

次のサンプルは2浴現像によって中間を得た例です。
「軟調現像液のみ」「硬調現像液のみ」の2枚は、先ほどのものと同じです。
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中央の「軟調から硬調への2浴」というのが2浴現像した結果です。
先に軟調現像液で目一杯現像している、つまり、左端のプリントと同じところまで現像した後に、それのみであれば右端のプリントとなる現像液に移して現像を続けたという事になります。

バライタ紙とRC紙
こうした現像液でのコントラスト調整は上のサンプルのようなFB紙(バライタ紙)でのみ可能で、RC紙ではあまり関係が無いと思いがちです。 実際に、多くのFB紙は幅広い調整が可能ですし、RC紙はそれに比べると調整幅が劣ります(最近のFB紙ではRC紙に似て調整幅が少ない物も多いようですが)。
しかし、まったく出来ないわけではありません。 次のサンプルは、調整幅が少ないもののRC紙でも可能だという事を示しています。 使用している印画紙はもっともポピュラーな多階調RC紙であるイルフォードのMG4RCデラックスです。 こちらも多階調印画紙ですが、同じフィルターを用い、露光時間も同じにして、現像液だけでコントラストを変えてみました。
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RC紙はFB紙にくらべて、いわゆる「現像の押し」が利かないと言われます(最近のFB紙にはRC同様に押せないものが多いです)が、それでも現像液によるコントラストの違いははっきりと出ていると思います。
また、FB紙でのサンプルと比較すると、ハイライト付近での変化があまり見受けられず、シャドウからディープシャドウにかけて違いがはっきり出ています。
また、比較すると、FB紙では軟調現像のみの状態から2浴目の硬調現像液でかなり大きな変化を出している、つまり硬調側に近くなっているのに対して、RC紙では軟調側近くに留まっているという点も異なります。 このあたりが「押せる」「押せない」の違いかもしれませんね。

ボクの経験では、この2浴現像での2浴目(硬調側)は現像が比較的ゆっくり進みます。
また、ハイライト側を先に軟調現像液で確保して、2浴目ではシャドウからディープシャドウだけを注視すれば良いため、現像具合を確認しながら現像をうち切る(観察現像)が容易です。 特に現像の進行が早いRC紙では観察現像によって途中で現像をうち切るという方法が実用的ではありませんから、RC紙での現像調整でより使い易い手法というふうにも思いますし、通常の1浴現像や、1浴現像で最初から硬調現像液(標準現像液)を使って観察現像するのに比べて、柔らかめのハイライトと締まったシャドウの両方をうまく得られるとも感じています。

さて、いかがでしたでしょうか。
みなさんのプリントワークでも役に立つことがあるかもしれませんね。
いろいろなプリントテクニックがある中で、印画紙現像液を使い分けるというものは手軽で簡単な部類に入ります。
使用する現像液も、今回のボクのサンプルプリントでは違いを分かりやすくするため自家調合の物を使っていますが、実際には「セレクトールソフト」と「デクトール」などの市販品で十分可能です。
なお、2浴現像での軟調現像液として「セレクトールソフト」を使用する場合、より軟調現像効果を発揮するためには1:3といった高い希釈率が適しています。 「デクトール」側は標準的な1:2希釈などで良いでしょう。
是非お試しを。