PC-TEA 標準現像液

Patrick Gainer’s PC-TEA Film Developer
トリエタノールアミン(TEA)を溶剤兼アルカリ剤とした、画期的にシンプルで保存性抜群、微粒子かつ十分なシャープネスを得られる、実に斬新な設計の現像液処方。

ボクがtokyo-photo.netで紹介してからの数年で、だいぶ日本でも利用者が増えたようですが、自分が工夫して試している・友人のだれそれが処方した、といった図々しい表記もネット上に見られるようなので、改めて書いておきますが、PC-TEAは元NASAの技術者で、写真愛好家のPatrick Gainer氏が考案し、主にPhoto.netやAPUGなどのネットコミュニティを介して広まったものです。
Gainer氏はあまりそういうことを気にしないでしょうが、こうした、非営利の個人の趣味家の功績である新処方を「処方として」紹介するときには、処方名に作者の名前を併記するなど、敬意をあらわしたいものです。 日本の写真・暗室系サイトには、そうした配慮に欠ける残念なものが本当に多いですね。

    Patrick Gainer’s PC-TEA 保存液100ミリリットル
    トリエタノールアミン(TEA) 100 ml
    フェニドン 0.25 g
    アスコルビン酸 10 g

TEAは粘性があって扱いがちょっと大変です。
かなり過熱しないとフェニドンやアスコルビン酸を溶かすことは出来ません。 こんなに!?と思うくらいの温度に熱しながら溶解してください。
過熱すると、TEAからわずかに湯気が立つように見えますが、これはTEAの中の微少な水分が蒸発しているためのようです。また、色がキャラメル色に変色してきますが問題はありません。

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使用液は、現像直前に1:50の比率で水に希釈して作ります。
TEAは低温では非常に粘性が高いので計量が難しいですが、過熱すればスポイトで扱えるようになります。

保存液中に水を含まないので、薬品の酸化が起きません。 そのため、非常に保存性は良く、何年でも保つと思われます。
保恒剤として亜硫酸ナトリウムを持っていても、水に溶いた段階、つまり保存液を作成した段階から劣化が始まる、従来のほとんどの現像液処方とは異なるコンセプトです。
亜硫酸ナトリウムは、いわゆる微粒子化効果のために、微粒子現像液の類には大量に使われていますが、それをまったく持たないPC-TEA現像液でも、優れた粒状性とシャープネスを兼ね備えたネガを得られます。
亜硫酸ナトリウムによる溶解作用での微粒子現像という、これまでの常識はいったい何だったんだろう、と思うかも知れませんね。
また、TEAの水溶液は安定したアルカリ性を示すため、別途アルカリ剤も含まれていません。
使われているフェニドンとアスコルビン酸は、過生成を最大限に得られる配分で、効率が良く、無駄をそぎ落とした処方の構成です。
コダックXTOLなどにみられるフェニドンとアスコルビン酸の組み合わせは、MQやPQにならってPCと呼ばれるようになりましたが、酸化しやすさを補うために、処方が複雑化しやすいきらいがあります。しかしPC-TEAでは、薬品の酸化を仲介する「水」を排除する、という単純なトリックで、根本的にこの問題をクリアしています。

ボクの経験では、PC-TEAは補完現像効果や境界効果が高いようには見えません。 良好な粒状性とシャープネスを得られる、標準現像液という位置付けかと思います。
境界効果が少ない分、安心して使えるという面もあります。
また、標準で1:50希釈という高濃度の保存液ですから、保存に場所もくいませんし、なにより抜群の保存性が有り難いです。
難を言えば、使用の際の計量の度に過熱しなくてはならない、というところでしょうか。
Pyrocat-HDの作者Sandy King氏はPC-TEAについて、このTEAの扱いにくさと、ベースフォグがやや多めであることを欠点として挙げていて、後者については少量の臭化カリウムを加えることを提案しています(Patrick Gainer氏本人は少々のフォグは気にしないという立場のようです。ボクもですが)。
TEAの粘性についてはどうしようもない部分があるので、保存性だけ特に重視して選ぶなら、プロピレングリコールなどを使った別の処方の方がいいかもしれません。
なんといっても、PC-TEAは、TEAがアルカリ剤も兼ねるという、シンプルさが魅力です。

Gainer氏はこの派生として、こんなアイデアもあるよ、という示唆をしています。

    Patrick Gainer’s Pyro-TEA 保存液100ミリリットル
    トリエタノールアミン(TEA) 100 ml
    ピロガロール(Pyrogallol) 7 g

あるいは、

    Patrick Gainer’s Cat-P-TEA 保存液100ミリリットル
    トリエタノールアミン(TEA) 100 ml
    フェニドン 0.2 g
    ピロカテコール(Pyrocatechol) 10 g

いずれも、亜硫酸ナトリウムを使わないTEAベース処方ならではの染色現像液ですね。

Cat-P-TEAはボクもしばらくメインで使ってましたよ。