スプリットグレードプリント法

多階調印画紙でのフィルターの決め方
このページで紹介する方法は多階調印画紙でのみ使える物なので、号数印画紙しか使わないという方にはなんの役にも立ちません(と、最初に書いておく)。
一方で、多階調印画紙を使われる方で、なおかつフィルターの号数を決めるのにいつも手間が掛かるんだよなぁとお思いの方には、非常に興味深いプリント方法だと思います。 また、特にコントラストが高すぎて階調を引き出すのが難しいネガなど、難物を上手くこなすのにも非常に適しています。
かくいうボクも、多階調印画紙はなまじ細かくグレードを変えられるだけにベストのフィルターはコレ!っていうのにたどり着くまで、テストプリントを繰り返して印画紙を大量に消費してしまうクチです。
号数印画紙の場合、2号、3号、4号というように1号刻みでしかそもそも印画紙がありませんから、例えば2号前後とわかれば、あとは現像液の種類や希釈率、2浴現像などで調整するしかありません。
しかし多階調印画紙では普通のフィルターセットでも0.5号きざみ、多階調ヘッドを装備した引き伸ばし機ならより細かく設定できるため、現像で調整するよりもフィルターで可能な限り調整する方が作業的には理にかなっているでしょう。
幸か不幸か、多階調印画紙のそうした機能から、2号じゃなかった3号だ、いややっぱり2.5かそれとも2号かと、あっちへうろうろこっちへうろうろ。

ストレートプリントを作る際、印画紙の号数(グレード)を決めるには、大きく分けて3つのアプローチがあります。
ひとつめは、中間調を基準にしてハイライトとディープシャドウそれぞれへの到達具合を確認する方法。 重要な要素が中間調に集中している、あるいは中間調だけがとにかく重要で、ハイライトやディープシャドウはそれなりでも構わないという場合には理にかなっています。
ただしこれは、印画紙の階調を最大限に使い切るためには不向きです。 きっちり追い込むべき両端がそれぞれ不確実なまま最終的な判断へ持ち込もうとする手順ですから、なかなか決定までたどり着きません。
ふたつめは、ハイライトを基準にする方法です。
多階調印画紙は、同じ露光時間でフィルターの号数を変え場合、ハイライト付近に比べてはシャドウの方により違いが出てくる物が多いです。例えば2号から2.5号にフィルターを変更した場合、ハイライトに比べるとシャドウへの到達具合が比較的増す傾向が見られます。 これはフィルター間のスピードマッチング(異なるフィルター間で印画紙への露光時間を統一するための感度調整)の仕方によるのですが、中間調をからややハイライト寄りに基準があるからかもしれません。
それゆえテストプリントでは、まずハイライト基準にして露光時間を大まかに決め、次にフィルターを変えながらディープシャドウへの到達具合を見てフィルター(つまり号数)を決定、最後に露光時間を再度調整する、というアプローチです。
みっつめは、逆にディープシャドウを基準にするという方法で、シャドウ基準の測光により撮影時の露光量が適切であれば、印画紙の最大濃度を確実に活かしたプリントを作成できます。
ただし、ディープシャドウ基準で露光時間を決めてテストプリントをし、フィルターを変更しながらハイライトへの到達具合を確認するという手順になるため、フィルターを変更するたびに露光時間もかなり変化します。
したがって、(ボクの持論では)印画紙の階調幅を最大限に引き出せる方法ではあるものの、テストプリントを繰り返す回数は多めになることが考えられます。
なお、ディープシャドウを基準にするのは、人間の目ではディープシャドウでの階調変化を視認しにくいため、コントラストが適正かどうかを見極められないからです。そこで、最短時間最大濃度法を使ってディープシャドウ側では露光時間を決めるのです。
いずれの方法にしても、露光時間とコントラストという2つを同時に最適な値にするまでに、たくさんのテストプリントを繰り返さなくてはなりません。 もちろん、適当に妥協してしまえばテストプリントなんて2枚か3枚で十分ですが、適当に妥協したプリントで満足してしまうならば、そもそもこうしたページを読んでいないでしょう。

例えば、多階調印画紙の特性を鑑みて、ハイライト基準で露光時間、シャドウ基準でグレードを決めるとします。
その場合、まずは見込みのあるグレードのフィルター、例えば2号フィルターで適正であろうと思えるネガであれば1号とか1.5号といった、それより軟調なフィルターを用い、中間調を基準にしたテストストリップを作り、そこから求めた露光時間で最初のテストプリントを作ります。 最初に軟調なテストプリントを作るのは、ネガ上にある階調情報をディープシャドウからハイエストライトまで一通り確認するためです。つまり、ディープシャドウはどの辺まで締めて行っていのか、ハイライトはどこまで階調を引き出すべきなのかを確認するのです。
次に、ハイライトを重視したテストストリップを作成し、露光時間を決め、そのフィルターと露光時間でテストプリントを作り、テストストリップで判断したとおりハイライト(露光時間)が適正であったか、ディープシャドウの濃度(コントラスト=グレード)が適正であったかを確認します。
このテストプリントでハイライトの濃度が希望通りでなかったら、露光時間を変更して同じようなテストプリントを作り、同様に検証します。
ハイライトが適正であったならディープシャドウを確認して、到達具合が足りなかったら、つまり最初の軟調なテストプリントからみて印画紙の最大濃度に持っていくべき部分がまだまだそこにたどり着いていなかったら、フィルターのグレードを上げます。 2号でのテストだったのなら2.5号なり3号という事です。 逆に黒く潰れてはいけない部分が潰れていたなら、より軟調なフィルターに変更します。
新たに選んだフィルターで、テストプリントを作ります。同じく検証し、満足できなければまた変更します。 同時に、ハイライトが最初に決めた露光時間では望ましくない濃度に変わるようでしたら、露光時間も変更してテストします。

このように、複数のフィルターを交換しながらテストを繰り返してベストのコントラストを導き出す道は、いつだって紆余曲折を経てなかなか満足できるところに着地しません。
みなさんも経験があるのではないでしょうか。 これでいいように思うけど、ホントにこれでいいのか、もうちょっと締めたら締まるのではないか、もうちょっと軟調にしたらハイライトがもう少し柔らかくできるのではないかと、いつまでたっても悩みに悩んで決められず、結局妥協してしまった事が。
もしかすると、求めていたコントラストは2.5号と3号の間にあったのかも知れません。 普通のフィルターセットを使っていたら(ボクもそうなんですが)、何度テストしてもたどり着かないわけですよね。
そうだと気が付いたら、3号フィルターで露光して、ちょっとだけ軟調になる現像液で調整する、というしかないように思えます。ちょうど、号数印画紙と同じように。
(2枚のフィルターを使って中間を得る方法もありますがここでは省きます)。

これから紹介するのは多階調印画紙でのプリント方法ですが、1号フィルターも2号フィルターも、3号も3.5号も使いません。
ハイライト基準で露光時間を決めますが、シャドウ基準でも露光時間を決めます。

スプリットグレードプリント法
すでに知っている方は知っているというやり方で、最近とみに注目を集めているようです。 「スプリットフィルタープリント法」とも言うようです。 実は以前からやり方自体は知っていたのですが、ボクは実際に試したことがありませんで、しばらく前から随分と気になっていたものです。
ようやくという感じで試してみたところ、あんまりうまくいくので少々驚いたというか、なんで今まで苦労してたんだろうなぁと後悔しているところです。
ボクもご多分にもれず、ずいぶんと多階調印画紙に振り回されていたもんですが、これからはこの方法でグッと楽にプリントが出来そうです。

さて、スプリットグレードというやり方は、多階調印画紙でしか働きませんが、なにも全体のコントラストを決めるためだけに用いられるわけではありません。
おそらく多階調印画紙を使われる方の多くは、全体の露光に使った物とは違うグレードのフィルターを使って焼き込みをしたりといった経験があると思います。 また、それは多階調印画紙ならではの技法だとおわかりになってだと思います。
1枚のプリントに対して、分割した露光で異なるフィルターを用い、覆い焼きや焼き込みで部分的に異なる階調を与えることが出来るのが号数印画紙にはない多階調の大きなアドバンテージなのです。これらをマルチフィルタープリントと呼ぶこともあります。

ここで紹介するスプリットグレードは、そうした焼き込みなどではなく、最初の方でハイライトからだとかシャドウからだとか言っていたような、全体のコントラストと露光時間を決定する方法のひとつです。
特に、ディープシャドウからハイエストライトまで印画紙の階調を目一杯使い切りたい、あるいはディープシャドウも重要で、なおかつハイライトも大切だという場合でも、容易に露光時間を決められる方法です。
先に書いておきますが、決めるのは露光時間だけで、フィルターの号数をテストプリントで探すことはしません。 あれこれフィルターとフィルターの間をさまよいながら、適正な号数を求めてテストを繰り返す迷路のような暗室作業とはお別れです。
なぜなら、露光時間さえ決まればコントラストは自然と最適になるからです。

やり方
スプリットグレードプリント法を実践するのは簡単です。 しつこいですが、印画紙は必ず多階調印画紙です。印画紙現像液は標準的なものでいいでしょう。
用意する多階調フィルターは、フィルターセットの中でもっとも軟調な00号と、もっとも硬調な5号の2枚です。 その間にある10枚は使いません。 多階調ヘッドの引き伸ばし機であれば、最軟調と最硬調のセッティングだけ使います。中間は使いません。

手順
splitgrade01まず、00号フィルターを使って、プリントする写真の中のハイライトに相当する部分がちゃんとわかるようにテストストリップを作り、ハイライトだけを考えた露光時間を決めます。
最軟調の00号フィルターですから、柔らかいハイライトからダルダルで締まりのないシャドウまでのプリントが出来る段取りです。
左の画像はその例で、右上のあたりの霧にかすんだ遠景だけを基準にして露光時間を決めました。中間調やシャドウ部分はまったくの無視です。
ちなみに、露光時間は16秒でした。

splitgrade02次に、5号フィルターを使って、プリントする写真の中のディープシャドウに相当する部分がちゃんとわかるようにテストストリップを作り、シャドウだけを考えた露光時間を決めます。
最硬調の5号フィルターですから、キリッとしまったシャドウ部分はプリントされますが、中間調からハイライトにかけてはすっかり白トビしてまったくなにも無いプリントが出来る段取りです。
左の画像がその例で、画面左下の階段の内部のシャドウ部分を基準にして露光時間を決めました。
ちなみに露光時間は12秒でした。

以上、00号フィルターでのハイライトだけ考えた露光時間、5号フィルターでディープシャドウだけ考えた露光時間が決まれば、テストは終わりで、すぐさま本番の露光に入ります。 本番の露光は、先の2つの露光を組み合わせて行います。
splitgrade03
印画紙をセットし、(どちらが先でも構いませんが)00号フィルターで決めた時間の露光をします。先の例ですと16秒です。
印画紙をそのままにフィルターを5号に変更して、今回の場合は9秒の露光をしました。
5号フィルターでのシャドウのテストでは12秒と出たのですが、なぜ9秒露光にしたかというと、シャドウ部分は00号による超軟調の露光でもちゃんと画像が出てしまうからです。 逆に5号での超硬調露光ではハイライトにほとんど影響しませんので、00号での露光を調整する必要はありません。

5号側の調整量ですが、まだ確実とは言えず憶測の域ではあるのですが、00号露光の露光時間の20%相当を5号露光から減ずるという計算です。
今回の場合、00号露光は16秒でしたので、3.2秒(約3秒)を12秒の5号露光から引いて9秒としました。
結果、3枚目の画像のように、いとも簡単にフルトーナルレンジのプリントができあがりました。

上のサンプルにある00号露光だけ、5号露光だけの2枚プリントは、仕組みをご説明するために作った物で、実際にはこうした単独の露光やプリントをする必要はありません。
あくまでも、00号でのハイライト露光時間、5号でのシャドウ露光時間の2つの露光時間を別々にテストして決め、本番露光をするだけです。
ハイライトの濃度も、ディープシャドウの到達具合も、フィルターの号数ではなくそれぞれに対する露光時間だけで決めてしまうのです。 そして、これが不思議なくらいちゃんと機能して、印画紙の階調をしっかり使い切ったプリントがひょいっと出来上がるというわけです。

サンプル2
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こちらのプリントでは、00号でのテストストリップから露光時間14秒、5号でのテストは30秒と、先とは逆に5号側に長い露光時間が必要となりました。
本番のプリントでは、00号の14秒の約20%を5号露光から引き、つまり00号フィルターで14秒、5号フィルターで27秒の露光を与えて現像したところ、見事にフルトーナルレンジのプリントとなりました。

また、先に出てきた橋の写真は、このすぐ後に全紙にプリントしてみました。 その際には小さな印画紙で00号のハイライト基準、5号のディープシャドウ基準だけテストプリントし、その結果だけで一気に全紙を露光したのですが、これもバッチリ1発で決まりました。

よく考えると
次のような手順で、より簡単確実に出来ますね。
まず、00号フィルターを使ってハイライト基準の露光時間を決めます。
次にシャドウ基準の露光時間を決めるためのテストストリップを作るわけですが、その際には00号で先に求めた時間の露光(もちろん00号で)をし、その上で5号フィルターに切り替え、段階露光をする。
これで1発。先に述べたような20%の露光時間の補正などは要らないわけです。
ただし、00号露光だけでもディープシャドウにはそれなりの濃度が出ますので、5号側での濃度の判断は難しくなりますから、どちらがいいかはちょっと微妙かも知れません。

露光時間のテストをハイライト側とシャドウ側とで2回行うと言うと、なんだかかえって面倒なようですが、コントラストを決めるフィルターの号数を求めるためのテストプリントが一切必要ないので、実際にはテストプリントの回数を大幅に減らすことが出来るのです。
実に簡単にハイライトからディープシャドウまで揃ったプリントを作成できるプリント方法、それが多階調印画紙ならではのスプリットグレードプリント法です。
多階調印画紙をお使いの方、特にフィルターの号数を決めるのに苦労しておられる方は、是非とも試してみて下さい。目からウロコ、かもしれませんよ。

なお、標準的なフィルターセットには00号から5号までしかありませんが、緑色のフィルター、青色のフィルター、あるいはフィルターに使えそうな半透明の緑と青の板状のものがあれば、超軟調と超硬調を再現できます。

問題点
非常に軟調なネガだと、この方法は働かないように思えます。 なぜなら、極端な話ですが5号フィルターで適正となるようなネガだと00号が入り込む余地がありません(当たり前ですが)。
そこまで行かないにしても、硬調側の露光が軟調側の露光に大きく影響を与えるほど軟調なネガだと、逆に先に硬調側(シャドウ側)の露光時間を決めて、その上でハイライト側の段階露光をするという手順になるでしょうか。
それと、どうやらこれもまた問題点としてあげられているようなのですが、スプリットグレードでばかりやっているとネガの適正なコントラストが分からなくなる、あるいは適正なネガのコントラストという事への理解がされなくなるという懸念にもうなずける面があります。便利なテクニックだけに、痛し痒しですね。

補足
本文中で、標準的なフィルターセットを使っている場合は0.5号ステップでしかフィルターを選べないため現像で調整するしかない、と書きましたが、露光時間を2分割して異なるフィルターを使い、それぞれ露光すると中間を得られます。 例えば10秒露光の場合、2.5号で5秒、3号で5秒の露光をすると、概ね2.75号になるわけです。
これもある意味スプリットグレードではありますが、概念と目的が異なるので別件として考えます。

もうちょっとアイデアを進めてみると、同じフィルムを同じ現像処理したネガ、つまり同じfb+fを持っているネガから同じ印画紙に同じサイズでプリントする場合(同じ引き伸ばし倍率という意味)、最短時間最大濃度法と同じ発想で、fb+fから最大濃度を得る5号フィルターでの露光量は等しくなります。この露光時間を仮に基準5号露光時間とでも呼びましょうか。
これは撮影時の露光量がディープシャドウ基準で適切であるという前提に立つ必要がありますが、仮にその前提が成り立つのであれば、被写体の輝度幅(コントラスト)によって大きく変化するハイライト側、つまり00号側の露光時間テストさえすれば、あとは基準5号露光時間から00号側のテストで得られた露光時間の20%程度を減じ、組み合わせることが出来る理屈です。
露光過多のネガで基準5号露光時間ではディープシャドウが締まりきらない場合は通用しませんが、逆に適正露光あるいは露光が少な目のネガであれば、かなり妥当な露光時間がハイライト側だけのテストで得られるはずです。
これはまぁ、かなりの理想論ですけどね。

応用
スプリットグレードに限ったはなしではないんですが、多階調印画紙は異なる号数(コントラスト)で焼き込みや覆い焼きをできるっていうのも魅力なんですよね。
この辺は軟調に、この辺は硬調にっていう感じで、ひとつの画面内に異なる調子を盛り込めるわけですが、スプリットグレードだとそれもやり易いというか、考え方が単純になるのでおすすめです。
したの画像は、スプリットグレードで作ったプリントの指示書(RC紙で作ったワークプリントにマジックで覆い焼きや焼き込みのメモを書き込んでおく)です。
基本の露光時間は、#0号で36秒、#5号で40秒ですが、それに対して#0号の露光時に覆うところ、#5号で焼き込むところ、#3号で焼き込むところが書かれてますね(他人事かっ)。