実践的なキャリブレーション

ゾーンシステムもスポットメーターもグレーカードもフィルム濃度計も使わないキャリブレーション
モノクロ写真を始めてしばらくすると、やれEIだの、やれ減感だのと、妙な事を見聞きし始めます。
理屈が分かるとなんて事はないんですが、リバーサルフィルム、お店で現像するカラーネガフィルム、あるいはデジタル写真、などの感覚がすっかり身にしみてしまうと、フィルムの現像を自分で「調整」し、印画紙の種類や調子を選んでさらに「調整」も出来るモノクロ写真の感覚が、かえって理解しにくくなってしまう事があるようです。
このサイト内には、これに関連した事があちこちに書いてあります。 同じ事を、視点を変えたりアプローチを変えたりして繰り返し解説しているつもりですので、あるいは大部分は重複しているかも知れませんが、このページでは、「撮影感度」と「フィルム現像」の調整を、もっとも実践的かつ簡単に行う方法を書いてみようと思います。
実を言うとtokyo-photo.net内では、こうした感度やコントラストについては実践的な側面よりも理屈や仕組みに重きを置いています。
というのは、測光や現像、プリントと言った過程はひとりひとりで異なるはずですし、そもそも、写真というのは撮影も観賞も非常に主観的なもの。 理屈が分かれば、あとはどう応用するにも簡単ですし、どう応用するかが写真技術だろうと思うのです。
ですので、このページを書くに当たっては少々悩みました。 理屈を出来るだけ抜きにして、実践方法だけを紹介するのにはボク自身抵抗があるんですね。
そのあたりを一応片隅に置いていただいて、簡単かつ実践的な撮影感度とフィルム現像量の調整方法です。
まず最初に、ちょっとだけ理屈っぽい事を書いて、その後実際に何をどうするかを説明します。

露光過多と露光不足
以前、どうもプリントがネムイ感じ、つまり軟調なのが悩みで、フィルム現像をどうしたらよいだろうかと仰るある方の作品を、ネット上でですが拝見した時、問題はフィルム現像ではなく撮影時の露光量だと一目でわかりました。
モノクロ写真を始めたばかりの方の多くは、どうしても自家処理部分の不安が大きいせいか、なにか問題や悩みがあるとそれを自家処理の部分、つまりフィルム現像などに負わせ勝ちのようです。 逆に言うと、それ以前の写真技術の基本である、測光、つまり露出の正確さなどを意外と疑わない傾向にあるのではないかと想像しています(この1文、すっごい当を得てると思うよ)。

ボク自身、こんな経験があります。まだモノクロ写真を始めたばかりの頃です。 晴天の屋外で人物を撮るのにISO感度400のフィルムしか持ち合わせておらず、しかもカメラはシャッターの最高速が1000分の1秒と遅いものでした。 表現上、浅い被写界深度が欲しくて絞りをf2としたかったのですが、露出計が示すEI200としての測光値ではシャッター速度が2000分の1秒となっていました。
f2.8で1000分の1秒なら適正露出ですが、その時はf2にこだわってしまい、f2で1000分の1秒、つまり1段の露光過多で撮影。 たかが1段の露光過多ですし、ネガフィルムはラチチュードが広いので露光多めで宜しい、という言葉を信じていたんですね。問題なくプリントできるはずです。
ただ、その日は思いついて、念のために段階露光もしておきました。同じコマをf2.8の1000分の1秒でも撮影しておいたのです。
プリントしてみると、どのコマもからもちゃんとプリントできました。 ハイライトからシャドウまで同じように揃ったプリントです。
しかし、見た目の印象は異なっていました。明らかに、露光量の少ないコマの方が画面に締まりがあり、イキイキとして見えました。
なるほど確かに、トーンの揃ったちゃんとしたプリントは出来ましたが、1段露光過多のネガからはベストなプリントは出来ないんだと思いました。 その時はじめて、露光過多もやっぱりダメなんだと気がついたんですね。
すでにISO400のフィルムをEI200とし、現像量を少なくしてダイナミックレンジを広げる、つまりいわゆる「減感」まではしていましたが、それは主に露光不足によるシャドウディテールの喪失やハイライトの白トビを防ぐためのものでした。少々の露光過多は問題ないだろうと、その時点ではまだ甘く考えていたのです。

露光不足が何故ダメかは、ネガフィルムの基本的な仕組みから明白ですよね。 露光量の少ない部分、つまりディープシャドウ部分はネガ上に画像が記録されませんから、プリントできずに黒く潰れてしまうわけです。
一方のハイライト側は、プリント時の露光時間を長くしたり、あるいは軟調な印画紙(低い号数)を使えばかなりの部分を引き出すことが出来ます。
現像量(コントラスト)についても同様で、印画紙の号数を変えることによってディープシャドウからハイライトまでのトーンを一通り揃えることは出来ます。
しかし、露光量も現像量もぴったり合っているネガからのプリントとは、明らかに見た目が違うのです。
現像量についていえば、軟調なネガからは硬調な印画紙にプリントすることになりますが、その場合にはトーンの滑らかさが失われます。 逆に硬調なネガから軟調な印画紙にプリントすると、見た目のシャープさが失われます。
では露光量が違うと何故プリントの見た目が変わるのでしょうか。
例えば、ネガの濃度を1~7として、そのうち1~4を印画紙の1~4に投影するのと、ネガの4~7を印画紙の1~4へ投影するのとでは、何故違うのでしょうか。
それは、フィルムの特性曲線がスタートから真っ直ぐな直線ではなく、ゆっくり立ち上がるからで、フィルムによってはその後急激に濃度が上がったり、またフィルムによっては途中から濃度の上がり方が緩やかになっていくから、です。
そうした、直線ではない、それぞれ特徴のある曲線を有したフィルムの性格から、同じ範囲の輝度差を記録しても、ネガ濃度のどのあたりにそれがあるかによって、プリント上の違いを生みます。

chara_ex-300x198左の図は、フィルムの特性曲線をわかりやすくちょっと大げさに書いてみたものです。 黒い曲線がフィルムの濃度を示す線で、グラフの横軸はフィルムへの露光量、つまり被写体の明るさです。 したがって、グラフの右に行くほど露光量が多い、つまりハイライト、左は露光量の少ないシャドウとなります。
赤と青とで線が書いてありますが、横軸が被写体の明るさですから、赤と青の横線の長さは被写体の輝度幅になります。
また、赤と青の縦の線は、フィルム濃度になります。 印画紙上に投影される画像の濃さの幅ですから、プリントのコントラストを変化させるのはこの縦線の長さ、という事になります。
つまり、横線の長さが同じで縦線の長さが短かったら、同じ被写体の明るさの幅にたいしてフィルムの濃度幅が大きくなっていないわけですから軟調、逆に横線の長さにたいして縦線の長さが長かったら、それだけ硬調という事になります。
そのため、フィルムの現像量(現像時間)を変えてネガのコントラストを増やしたり減らしたりすると、黒い曲線の角度が変わります。 黒い曲線の角度が急になると硬調、緩やかだと軟調です。

実は、この図の赤と青の線は、縦の長さが同じです。 つまり、ネガの濃さのうち、同じだけの幅を取りだしています。 どういう事かというと、同じ号数の印画紙に投影して同じだけの白と黒の差を作るという意味です。
さらに、実は、赤と青の線は、横の長さも同じなんです。
つまり、ほぼ同じ被写体の明るさの幅(輝度幅)を、同じ号数の印画紙上に再現してしまうのです。
それなのに、赤と青の線は、それぞれ違う場所にありますね。
青の方はシャドウ側に偏っていて、赤の方はグラフの右、つまりハイライトの方に偏っています。 青は撮影時の露光が少な目、赤は撮影時の露光が多いというのを表している図なのです。
この様に、違う場所に同じだけの被写体の輝度幅を配置しても、つまり撮影時の露光量が違っていても、同じように印画紙上に再現できる自由度を、ラチチュードという風に言い換えることが出来ます。
青い線と赤い線が撮影時に2EVの違いだとしたら、その中間から見ると露光の少ない多いそれぞれに1EVずつ、つまりプラスマイナス1EVのラチチュードがあるという事が言えます。
念のため、赤と青の中間から見てプラスマイナス1EVです。 赤から見たら、マイナス2EVのラチチュードあると言えますし、青から見たらプラス2EVのラチチュードでしょう。
仮に赤と青の中間が、撮影感度400での測光値なのだとしたら、青を基準にしてプラス2EVのラチチュードを持った撮影感度は800です。 逆に赤を基準にしてマイナス2EVのラチチュードを持った撮影感度は200です。
マイナス2EVのラチチュードを持った感度200、プラスマイナス1EVのラチチュードを持った感度400、プラス2EVのラチチュードを持った感度800。
どれも同じものを差しているのです。
さぁ、撮影感度って一体何なんだ、フィルムの感度って一体何なんだ、という事になりますね。

chara_ex-300x198ここでもう一度、先の同じ図を見てみましょう。
赤と青とでは、横線の長さも同じ、縦線の長さも同じです。 しかし、それぞれの範囲にある黒い線、つまり肝心のネガ濃度の曲線は形が異なります。

青い線が囲っている範囲の黒い曲線は、左の方、つまりシャドウの部分が緩やかで、途中から急になっています。 この、グラフの左端に見られる緩やかな部分を「脚部」と呼びます。 ネガの濃度の上がりはじめは緩やかで、ある程度してから急にググッと濃度が上がり始めるのです。
これが何を引き起こすかというと、ディープシャドウ部分は軟調で、なかなかコントラストが上がらない、という事です。 コントラストが上がらないというのは画像がはっきりしないという事ですから、ディープシャドウのディテールというのは黒く潰れて見えるわけ。
逆にプリントの明るい方から順に見ていくと、ディープシャドウはなかなか真っ黒にならず、微妙な濃淡が残る、という事でもあります。
反対にハイライト側に向かっては、青い線が囲んでいる範囲ではストレートに伸びていますので、ハイライトまでずっとコントラスト上がり続ける事になります。

赤い線が囲っている範囲では、黒い曲線は左の方はすでに真っ直ぐに伸び始めた後ですので、ディープシャドウから中間調までしっかりしたコントラストが描かれます。 逆に言うとディープシャドウより暗い部分はスコッと真っ黒になります。
反対にハイライト側は途中から曲線の角度が緩やかになっていますので、ハイライトが白トビしにくいという風に良く解釈することも出来ますし、逆にハイライトにキレが無くネムイ描写になるという事も言えます。
ちなみに、ハイライト方向の角度が穏やかになる部分を「肩」と呼びます。 「脚部」はどんなフィルムにもありますが、「肩」の有無やその特性はフィルムによってかなり異なります。

被写体の同じ輝度幅を記録して、印画紙にそれぞれ全てを投影しているにもかかわらず、撮影時の露光量が少なかった青の方と、露光量の多かった赤の方とでは異なったプリントを生み出すわけです。
全体的に見ると、青の方は全体が濃く見え、赤の方は明るく見えるはずです。
chara_ex3-300x198chara_ex2
この様に青と赤、それぞれの始点と終点を直線で結ぶと、それは平均線として同じ角度(同じコントラスト)を持っているのですが、青の方は実際のネガ濃度が平均線の下にあり、赤のほうは平均線の上に実際のネガ濃度があります。
プリントしてみると、青の方は全体として濃い上にシャドウ側により濃さが偏り、赤の方は全体として明るい上にハイライト側に明るさが偏ります。
この偏りの量や配置を、平均線と実際のネガ濃度曲線の差が示すわけです。
フィルムのこうした特性曲線は、それぞれメーカーが提供するデータシートに記載されているので、機会があったら是非見てみる事をお勧めします。
トライXやネオパンプレストなど、脚部と肩をしっかり持っている(特性曲線が緩やかなS字を描く)フィルムは、同じ被写体の輝度域を再現しても中間調前後の角度が急、つまりトーンセパレーションが良いので、画面にメリハリがあって、なおかつディープシャドウは潰れにくくハイライトは飛びにくいという特徴があります。
トライXやネオパンプレストの特性曲線に、上の図のような平均線を引いてみると、シャドウ部分では平均より暗く、ハイライト部分では平均より明るくなるのが分かるはずです。
潰れにくく飛びにくいため、被写体の輝度幅にある程度のバラツキがあっても容易に吸収しますし、プリントしやすいと言われるわけ。
ただし、露光量が少ない場合と多い場合とで見た目の印象が大きく変わってくる事になります。 特に露光過多だといわゆるネムイ、カッタルイ描写になりやすいです(言っちゃなんですが、非常によく見かけます)。
逆に直進性に優れた(ハイライト側に肩を持たない)フィルムは描写が安定していて、特にハイライトのディテールの描き方に魅力がありますが、中間調のセパレーションが特に良いという事ではないので、やや印象が大人しく見える被写体も多いかも知れません。

実を言うと、トライXやネオパンプレストなどのこうしたネガ濃度曲線(特性曲線)の非直線性は、ゾーンシステムのような単純なシステムではネックになります。シャドウ側、中間調、ハイライト側で、それぞれの1ゾーンがネガ濃度上で同量にならないからです。 そのため、ネガの特性曲線の直線部分だけを極力使うように設計されており、出来れば直進性の良いフィルムの使用が望ましいわけ。
また、印画紙の特性曲線もネガフィルムと同様に直線ではありませんので、その組み合わせは非常に複雑なものとなります。 (フィル・デイビスのビヨンド・ザ・ゾーンシステムはこれらを解説しています)

それはさておき、同じ被写体の輝度幅、ダイナミックレンジを同じコントラストとして印画紙に再現しても、その中身は撮影時の露光量の違いによって異なることがおわかりになったでしょうか。
先の図にあった、暗めになる青と、明るめになる赤の、どちらが正解という事はありません。 それらは表現意図や好みによって使い分けられる個性であるわけです。
ただし、とあるフィルムのとある部分を理想とするならば、例え同じコントラストを再現したとしても、ベストな状態を得られる露光量はクリティカルであるはずです。 よく言われるラチチュードというのは、実際に同じ描写が出来る範囲ではありません。
なんどか同じ事をサイト内に書いていますが、望ましい描写のためにチューンナップされたモノクロの自家処理では、ラチチュードなるものはありません。 これがカラー写真ですと、意外と色の中の階調再現というのは気にされないものなので、特にカラーネガでのスナップ写真ではラチチュードというのもたしかに言えると思いますが、ハイクオリティのカラー写真や、モノトーンでの階調再現がほとんど全てであるモノクロ写真では、同じ階調を表していても、その表現がどう違うかというのが大切なのです。

ちなみに、ボク個人の好みは(今回の図は極端でしたが)青のように、フィルムの脚部をディープシャドウ部分に取り込んだ、プリント上に黒っぽい微妙な濃淡が多い表現です。そこで露光量は出来る限り少な目に抑える撮影を心がけています。
そのため、ちょっとでも露光量が多いネガだと、プリントして「締まりが無いなぁ」と思ってしまう一方、狙いより露光不足だといきなりディープシャドウのディテールを失ってしまうんですけどね。
逆に、明るい雰囲気を生む多めの露光が好きな方もおられるでしょう。

能書きはこれくらいにして
さて、前置きが長くなってしまいました。 え? 今までが前置きなのかって?
先に書いた、最初に理屈を少々、というのが今までの部分です(笑)。
いよいよ、実践的なキャリブレーションの方法です。

ゾーンシステム的な発想に基づくなら、撮影時に基準にすべき撮影感度は先に挙げたフィルムの特性曲線上で、意図した表現に使える最低限の濃度、つまり脚部の終わりちょっと手前くらい(ゾーンシステムで言うfb+f+0.15くらい)を基準にして決め、現像量(コントラスト)は印画紙のコントラストが求めるネガ濃度にハイライト側のネガ濃度を持っていく様に設定します。
これも繰り返しですが、「シャドウのために露光し、ハイライトのために現像する」、です。
なお、印画紙のコントラスト、つまり号数は、ネガの特性曲線上でハイライトのトーンセパレーションが極端に失われない範囲、つまり肩の部分の影響でハイライトがひどく軟調にならないところまでが合うように選ばれていると望ましいです。 ネガ濃度で、シャドウとなる濃度と、ハイライトの手頃な濃度の差が合う印画紙のコントラスト(ISOレンジ)という事です。
一般的には、シャドウとハイライトのネガ濃度差として0.9~1.2程度、印画紙では2号から3号(ISOレンジ90~120くらい)、という事になるかと思いますが、今回はそういう数字は一切使いませんのでご安心を。

さて、ゾーンシステム的なキャリブレーションというと、スポットメーターかTTLメーターが必須となります。そして実際の運用にはスポットメーターが必須です。
テストで入射光式露出計を使う場合はグレーカードを撮影するのですが、はっきり言って入射光を測ってグレーカードを正しく撮影するのは非常に難しいです。やめましょう。
幸いなことに、このページで紹介するキャリブレーション方法では、どんな露出計を使ってもどんな測光方法を使っても平気です。
基本的に、自分なりの測光方法が確立していて、安定した露光が出来ていればOKです。 あまりに初歩的なことなので言いたくありませんが、ちゃんと測光出来ない撮影技術のレベルだと、キャリブレーションもヘッタクレもないのでカンベンしてくださいね。
自信がない方は、出来の良い多分割評価測光を持ったAEカメラを1台調達して、それを基準にしてもいいかも知れません。 AE撮影はなにも恥ずかしい事じゃありませんよ。 断言しますが、ボク自身はAE大好きです。 入射光式露出計(はっきり言って難しいよ)を使った下手な測光より、確実なAEの方が写真を撮るためには偉いでしょ。

さて、キャリブレーションのやり方です。
基本的には、実際にありそうな場面を実際に撮影して、実際にプリントしてみるという、非常に実際的な手法です。
その実際の場面ですが、なにも同じような場面ばかり撮影するわけはないので、いくつか特徴的な場面をそれぞれテストしてみる必要があります。例えば次のようなモノ。

    その1、普通の天気の普通の順光。
    その2、曇天どんより。
    その3、屋内、人工照明やルームライトがムーディー。
    その4、夜の屋外、ネオンやヘッドライトがキラキラ。

ま、まずはその1、普通の屋外からですね。

人物写真を主に撮る人は人を撮ってテストすればいいわけですし、街角スナップを主に撮る人は街角を、自然風景を主に撮る人は・・・できれば大きめのフィルムでゾーンシステムを導入する、と。

撮影感度は、とりあえずISO感度通りでもいいですし、すでに別のEIを用いているフィルムならそれでもOKでしょう。
初めて使うフィルムや現像液なら、大体のところの目安として、ハッキリクッキリが好みならISO感度、滑らかトーンが好みならその半分ってところ。
実際に自分が撮りそうなシーンの代表例みたいなシーンを見つけだし、実際に自分がやる測光方法で測光し、その前後を段階露光します。
念のため、出来るだけ偏りのない被写体(シーン)が良いでしょう。 もちろん、例えば被写体が黒っぽくて、TTL測光では普通に考えてマイナス補正が必要なら、それもした上で露出を決めます。自分が普段やっている通りにね。
測光値そのままと、マイナス1EV、プラス1EV。 ひとつのシーンにたいして、前後1EVずつとか、あるいは前後0.5EVずつとかで、計3コマ撮影します。 計3コマでしたら、AEカメラの多くはAEB(自動段階露光)機能を持ってるので非常に楽チンです。ボクはこれですね。 EOS3の多分割評価測光に自動段階露光を組み合わせちゃいます。
余力があったら、プラスマイナス0.5EVと1EVなど、1シーンに5コマでも良いです。

さて、勿体ないようですが、この5コマなり3コマのセットを、フィルム上に次々繰り返していきます。
なんと、24枚撮りのフィルムであれば、5コマのセットを5セット弱、3コマのセットなら8セット、まったく同じシーンで使っちゃうのです。
経験から撮影感度や現像量を調整する場合、とあるフィルムが軟調だったので次のフィルムは現像時間を延ばしてみたとか、とあるフィルムが露光不足だったので次のフィルムから撮影感度を下げてみたとかやってる人が多いようですが、同じシーンを同じ時に撮影してサイドバイサイドで(並べて)比較しないとなんとも言えないのが実際です。 違うシーンを撮影しておきながら、それらを比べてどっちが露光過多でどっちが現像不足かなんて、比較する基準にならないですよね。

撮影ができたら、暗室かダークバックの中でフィルムをパトローネから、とりあえず3分の1くらい引き出して切りとり、リールに巻いて現像タンクに入れ、現像します。 この現像時間は標準のモノでイイでしょう。
次に、残りのフィルムからまた3分の1分くらいを引き出して切りとり、リールに巻いて現像します。今度は標準の現像時間プラス15%か20%くらい、現像時間を長くしてみます。
残りの3分の1を、今度は標準の現像時間マイナス15%か20%くらい、現像時間を短くして現像します。
さぁ、これで何が出来たかというと、例えば、テスト撮影時の撮影感度がEI400で、プラスマイナス1EVの段階露光をしたとすれば、EI200、EI400、EI800での撮影であり、例えば標準の現像時間が8分で、他に6分30秒と9分45秒の現像をしたとすると、全部で9パターンのテスト撮影・現像が一気に出来上がりです。
1本のフィルムに5コマの5セット弱とか、3コマの8セットだと、適当に手探りで3分の1ずつくらいに切りわけても1固まりに全部のコマが揃うはずです。 もし仮に、とても厳密に長さを測ってフィルムを切り取れるのなら、1本のフィルムで複数のシーンをテスト出来るのですが、多分それは無理なので、3つに切り分けても大丈夫なように同じシーンだけで1本使ってしまうわけ。
3分の1だけ引き出す、というのに自信が無ければ、とりあえず1回全部引き出してから三つ折りにし、折り目の部分で切り分ければ確実でしょう。

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ある程度プリントに慣れていると、この現像上がりを見比べただけで、どれが自分にとって適正なネガかが分かってしまいます。
どのコマも使えそうになかったら、また最初の条件(基準の撮影感度や基準の現像時間)を変えて再テストしますし、実際のところ、1回目の現像結果を見て、2回目の現像時間のアタリを付けますから、2セットか3セットあれば大体手頃な撮影感度と現像時間を見つけだせてしまうのです。
仮に3セット目でピッタリくるのが見つからなくても、どれとどれの中間くらいとか、これよりちょっと露光多めとか、やや現像短めとか、そういうアタリを付けられてしまうのです。

というのは、ネガを電灯に透かしたりライトボックスで見たりするだけでネガの良し悪しを掴める程度の経験を前提にしていますが、そこまでまだ行かなくても、少なくともシャドウが素ヌケっぽいコマはダメだな、という位は分かるはずです。
つまり、露光が少ないか現像が少ないか、あるいはその両方かのコマがダメなのであれば、まずそれは省くことが出来ますよね。
露光が多い分では、ネガ上でいちばん薄い部分ですらしっかり濃度があるなぁというのは明らかに露光過多ですから、それも省いちゃいます。
それから、残ったうちで、この辺が使えそうかなぁといういくつかのコマを、実際にプリントしてみます。 最短時間最大濃度法を使えば理想ですが、普段そういう事をしないのであれば、自分が普段やっているようなテストプリントから本番プリントという流れでやればいいと思います。
きっと、どれかひとつだけではなく、いくつかのコマでもちゃんとプリントできるはずです。 出来れば複数のコマで、しっかりとプリントを作ってみましょう。
撮影時の露光量が違うコマは、印画紙への露光時間を変えるとプリントできるはずです。前半で書いていたような、青と赤の描写の違いをプリント上で確認するわけ。
現像量の違うコマは、印画紙(フィルター)の号数を調整すればプリントできるはずです。2号とか3号とか、自分が標準としている号数にどれも収まらなかったら、ちょっと現像時間が違いすぎたようです。もう1回テスト撮影からやり直しですが、もしかしたら1号フィルターが一番好みの描写をするかも知れないですよ。
そして見比べてみます。 例えば3つの異なるコマからそれぞれプリントして、どれもまったく同じに見えたとしたら、残念ですが、プリントを見る目がなさ過ぎです(ゴメンナサイ)。 別の趣味を探した方がいい、とまでは言いませんが、もうちょっと目を養いましょう。
どれかひとつが自分の好みや表現意図にあっていたら、そのコマの現像時間が貴方の標準現像時間であり、撮影時の撮影感度と露出補正量から、貴方の標準的な撮影感度(EI)が決まります。EI400のプラス1EV補正だったならEI200ですね。

もちろん、こうして標準の撮影感度(EI)と標準の現像時間を求めるのがこのテストの目的ですが、同時に、標準より露光過多のネガはどんな風に見えるのか、現像不足のネガからはどんな特徴を持ったプリントが出来るのかなど、今後に役立つ良い経験になるはずです。
軟調なプリントを見て、それが現像不足によるものなのか露光過多によるものなのか、ピッと判断できると気分いいよ。
さらに、露光量をどうするとこういう表現になる、現像量を変えるとこうなるなど、今後の写真表現の広がりも得られるでしょうしね。意図的に露光過多にしてハイライトを滲ませたり寝かせたりとか、意外と表現上で効いてくるんですよ。

そして、なにより肝心なのは、このテスト方法は全て、自分の標準的な被写体(撮影対象)を基準にして、標準的な測光方法や現像方法、プリント手順で行われるという事です。
絶対に普段撮影することのないグレーカードや、描写としてなんの参考にもならない無地の壁を撮影することはしませんし、他にはあまり役にも立たないフィルム濃度計を使うこともありません。 理屈だけに基づいた厳密なテストの結果が、自分の実践と食い違うが為に、自分の実践内容をわざわざ修正する必要もありません。

さて、とにもかくにも標準的な晴天屋外かなにかでのテストが済んだら、今度は夜の街にでも出かけて、昼間とは異なる人工照明でのテスト撮影もしてみましょう。
被写体(シーン)の中の輝度の差が激しい夜の街や、光源が異なる屋内などでは、同じように測光・撮影しているつもりでも、実際にプリントしてみると標準と同じ撮影感度と現像時間では上手くツボにはまらない事を発見するでしょう。 もちろん、夜の撮影には超高感度フィルムを使うのが常なのであれば、そのフィルムでテストするわけです。 このテストを夜にも行うことで、夜用の撮影感度と現像時間の標準を見つけられます。
曇りの日もまた、晴の日とは違う標準があるはずです。 逆に真夏のピーカン照りでも春の晴天とは違うでしょう。
あまり細かく環境を分類してもキリがないですが、いくつか、大雑把に区分けして、それぞれでの撮影感度と現像時間を決めておくのは非常に有効だと、そう思うはずですよ。
そして、この実践的なキャリブレーションも、なかなかどうして簡単で確実で役に立つモノだと思うはずです。
もちろん、標準現像だけでなく増感現像であっても同じ方法でOKです。

実を言うと、フィルムと現像液の組み合わせが初めてだったりすると、ボクはこのやり方で、しかも大雑把な初期テストでアタリを付けて、それからもうちょっと細かいテストに進むか、大体OKな組み合わせで実践投入するかしてしまうのです。 特にゾーンシステムを使うつもりのない35ミリフィルムでのスナップ撮影用としては、この方法が一番だと思ってます。段階露光と1回か2回のテスト現像だけで、これでOKとか、もうチョイ現像押しとか、プリントもせずにキャリブレーション完了なんです(よい子はマネをしないように。ネガを見ただけで判断できる様に経験を積んでからにしてね)。
さんざんゾーンシステム的な事をサイトに書いてきてなんですけど(笑)。
もう少し厳密に、撮影感度や現像時間をテストするならば、こちらのページをご覧下さい。