引き伸ばしプリントの基本的な流れ

インターネットの普及で多くの方がホームページやブログを開設するようになり、写真作品の発表もネット上の画像がメイン、という事が非常に多くなったように思います。
そのため、銀塩モノクロフィルムによる撮影といっても、ネガフィルムからのスキャンで間に合ってしまうという事にもなり、あるいはフィルム現像はするけれどプリントはしない、という方も案外多いかも知れません。
それはそれで決して悪いことだとはボクは思いません。 フィルム現像は道具類への投資も少なく場所も取りませんし、そもそも暗室すら必要ありませんからかなり手軽です。 それでも、全てが電気仕掛けのデジタル撮影よりはるかに写真らしい写真でしょう。
いっぽう、ウェットプロセスによるプリント作成は暗室も必要ですし、それなりの場所も取ります。 設備・道具・消耗品類への投資、作成の手間など、手軽とは言いにくい部分がやはりあります。
しかし、それでも敢えてボクは、ネガフィルムはあくまでも写真が出来上がる前の材料でしかなく、プリントでなければ出来上がった写真ではない、と言いたいです。
それは、写真というのは本来パソコンの画面の上の電気信号ではなく、手にとって眺めたり、あるいは大切な人に贈ったり贈られたり、壁に掛けて楽しんだり、机の上のフォトフレームで微笑んでいたりする、姿と形、質感のあるものだと信じているからです。 写真は本来、無機質なプラスチック製のプリンターからはき出される紙ではなく、人の手によって1枚1枚心を込めて作られるものだと信じているからです。

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というのはまぁ、ちょっと格好良く言ってみただけなのでさておいて(笑)、このページでは引き伸ばしプリントの基本的な手順をご紹介します。
最近はネットオークションなどで中古の引き伸ばし機や道具類が安価に出回ってますし、暗室を作る場所とご家族のご理解さえ得られれば、以前より手軽に始められるようになったのかも知れません。
ここはひとつ、思い切って。素晴らしい銀塩ウェットプロセスによるプリント作成に挑戦してみましょう。

    引き伸ばしプリントに必要な道具類はこちらのページでもご紹介していますので、これから揃えようと言う方は参考にしてみて下さい。 薬品についてはこちら、印画紙についてはこちらのページです。
    薬品・感剤(印画紙)は、初めのうちはできるだけポピュラーなものを選んだ方が無難です。 また、特に印画紙については多階調のRC紙(レジンコート紙)を選んで下さい。
    多階調より号数紙の方がいい、などなど、いろいろ聞いたり読んだりすると思いますが、現在の多階調紙の性能を考えればボクはそうは言い切れません。
    また、バライタ紙(FB紙)は工程に時間がかかり、練習には非常に不向きです。 RC紙で十二分にプリント作成を学んでから試してみればよいと思います。 ついつい「バライタじゃなくちゃ、RCなんて・・・」という気になってしまうものですが、プリントの基礎がそれ以前ではしょうがないですからね。正直、10年早いって人、多いです(生意気言ってスミマセン)。
    多階調のRC紙では、イルフォードのマルチグレードIVRCデラックスを個人的にはお勧めします。表面の仕上げに3タイプありますが、ボク個人的にはパールが好みですし無難だと思います。
    現像液も同社の液体タイプが手軽で良いでしょう。 印画紙用の定着液は、フィルムの場合と同じくイルフォードの「ハイパムフィクサー」や中外写真薬品の「マイフィクサー」をお勧めします。これらは非硬膜化タイプの迅速定着液で処理時間が短く、硬膜化タイプより水洗の手間も少なく済みます。
    また、そもそも印画紙に硬膜化タイプの定着液はお勧めできません。 定着液としては富士の「フジフィックス」「スーパーフジフィックス」が日本ではポピュラーな製品なのですが、出来れば避けて下さい。

プリントするコマとプリントサイズを決める
コンタクトプリントやネガシートをパラパラとめくって、さ~て今日はどれをプリントしようか、などと思案する時間は結構楽しかったりします。 プリントするコマを選んだら、プリントサイズを決めましょう。
使用する印画紙が5×7インチ(大キャビネ)の場合、35ミリフィルムでしたらばプリントの画像サイズは4×6インチくらいが手頃でしょう。 8×10インチ印画紙(六切)でしたらば、ギリギリ大きなサイズで6×9インチでも良いですが、ボクは5×7.5インチとしています。
プリントを作るたびにバラバラでは後で見返したときにみっともないので、11×14インチ印画紙(大四切)でしたら8×12インチなど、自分なりにプリントの画像サイズを決めておいた方がいいでしょう。
もちろん、35フィルムのフォーマットが2:3なのでそれに従っているわけですが、なにもそれにこだわることはありませんので、左右を切っても良いなら印画紙の縦横比に近い大きさでも構わないわけです。

下準備をあれこれと
まずは、薬品を用意しなくてはなりません。
暗室にバットを並べ、現像液、停止液、定着液の順に置いていきます。 右利きでしたらば、左から右へ流れていく順番がやり易いはずです。 液の量は、バットが8×10インチ用でしたらばそれぞれ1リットルもあれば十分です。
現像液は使用直前に保存液を薄めるタイプがほとんどですね。 停止液は酢酸を薄めたもの、定着液は使用液をあらかじめ作っておくことが多いでしょう。
ピンセット(トング)も用意し、それぞれのバットのところに置いておきます。 定着液のバットの横にはもう1枚、空のバットを置いておくと便利です。
液温の管理ですが、フィルムの現像ほどシビアではありませんので、室温が18℃から26℃くらいの間でしたら特になにもしなくてよいと思います。 それより寒い、それより暑いなどでしたらば、バットの下に一回り大きなバットを置いて水を張り、温度管理をしたりするのでしょうが、あまり快適な作業環境とは言えないですよね。 できれば部屋ごとエアコンで快適な温度にしたいものです。

引き伸ばし機・ネガ・イーゼルの準備
引き伸ばし機が繋がったタイマーの電源を入れます。 一応、タイマーのレバーを「FOCUS」位置にしたりスイッチを入れたりして、引き伸ばし機の光源ランプが点灯する事を確かめましょう。 万が一、準備万端整ってから電球が切れてた!何て事があったらガッカリですからね。

    ネガをセットする
    プリントするネガを、ネガキャリアにセットします。 この際、ホコリがネガに付いていないかチェックします。
    ホコリが見つかったら、ブロアブラシで拭き飛ばすなどするのですが、ボクは静電ブラシで掃く方が好きですしお勧めします。 光の加減でホコリを発見しやすい、発見しにくいという事がありますので、ネガをいろんな角度から見てみると良いです。
    ブロアブラシや静電ブラシで除去できないチリやホコリは、フィルムの乾燥段階で付着してしまった物です。乾いた状態ではなかなか取れませんが、レンズクリーニング用のペーパーで拭くとサッと取れたりします。 ネガに少々の浅い擦り傷が付いてもプリントには表れませんが、慎重にやりましょう。
    ネガ上のホコリを取り除く作業は、時に果てしない気がしてしまうことがあるかもしれません。しかし、後でプリントをスポッティングするより遙かに簡単で短時間で済みます。 ホコリの跡があるプリントほどみっともない物はありませんから、手抜きをせずに念入りに。
    納得いくまでホコリを駆逐したら、ネガキャリアを引き伸ばし機にセットします。
    イーゼルをセットし、ピントを合わせる
    プリントの画像サイズにブレード(羽根)を合わせたイーゼルを引き伸ばし機の台板に置き、印画紙を1枚、裏返しにしてイーゼルにセットします。
    引き伸ばしタイマーのレバー「FOCUS」位置にして画像を投影します。 この時、投影像を見やすいようにレンズの絞りは開放にしておきます。
    投影像のピントを大まかに合わせながら、画像の位置とサイズがイーゼルのブレードに合うように引き伸ばし機のヘッドを操作して調整します。
    ほとんどの引き伸ばし機では、ピント位置を変えると拡大率も微妙に変わるので、投影像の大きさと大まかなピントは同時に調整していかなくてはなりません。
    イーゼルに印画紙を裏返してセットしたのは、白い紙に像を投影した方が見やすいからでもありますが、ピントの位置は印画紙の厚さだけでも前後してしまうせいです。
    投影像の目視で大きさとピントをひとまず合わせたら、次にフォーカススコープ(ピントルーペ)を使って正確にピントを合わせます。
    引き伸ばしレンズの絞りを開放から2段ほど絞って、フォーカススコープを覗きながらピントを調整します。 フォーカススコープでは、拡大された像を見てもっともシャープに見える位置を探します。 引き伸ばし倍率にもよりますが、35ミリフィルムからのプリントでしたらば、ネガ上の粒子もはっきり見えるでしょう。
    ネガの薄すぎる部分や濃すぎる部分よりも、中間的な部分の方が見やすいです。
    ピントを合わせたら、投影像の大きさがプリントの画像サイズと合っているか確認します。 画像の周囲をシャープな直線にするには、投影画像の周囲が少しだけイーゼルのブレードにかかっていないとなりません。 また、ちゃんと水平が取れているか、斜めになっていないかをチェックしましょう。
    逆に言うと、撮影時にカメラが少し傾いていて水平が取れていなくても、イーゼルを斜めにすれば調整できるわけです。

基本的に、同じフォーマットのネガから同じ画像サイズにプリントするのであれば、引き伸ばし倍率は同じですので引き伸ばし機のヘッドの位置は毎回同じはずです。 引き伸ばし機の支柱に印を付けておくと次回から手間を減らせます。 ただし、トリミングをする場合には引き伸ばし倍率が変わりますので、ヘッドの位置ももちろん変わります。

印画紙の現像
作業の順番が前後しますが、印画紙の現像はテストプリント、本番プリントそれぞれに共通の工程なので、先にご説明しておきます。
印画紙の現像は、フィルムの現像と違って基本的には目一杯現像する事になります。 そのため、現像しすぎというのは生半可な事では起こりません。 フィルム現像よりもはるかに簡単で、少々大雑把なものです。気楽にやりましょう。
そもそも、暗室内と言ってもセーフライトが使えますから、フィルム現像と違って真っ暗とか手探りというわけではありません。 それに、ネガさえあればプリントは何度でもやり直せるのです。 失敗を恐れることはありません。

現像
露光した印画紙をイーゼルから取りだし、現像液のバットに入れます。 バットに入れる際は、画像面を下にした方が無難なのですが、実際のところどちらでもあまり気にしなくていいように思います。ボクは下向きです。
印画紙を入れたところで、キッチンタイマーなどで計時を始めます。
基本的には製品の説明に従うことになりますが、標準的な現像液でのRC印画紙の現像時間は60秒~90秒、長くても120秒ほどと、短い物です。 これは最低限それだけは現像しようという意味だと思ってください。 少々長い方が無難です。かりに指定が60秒となっていても、90秒現像した方が無難ですし問題もありません。

    最近のほとんどの印画紙では、生半可なことでは現像しすぎという事はありません。現像不足よりもはるかにいいでしょう。 また、フィルム現像ほどシビアではありませんので、秒単位でタイマーとにらめっこする必要はありません。時間が来たからと慌てて印画紙を掴んで折ってしまったり、うっかり落としてしまったりしないよう、焦らずノンビリやりましょう。
    正直、ボクはタイマーで測ることもせずに口で適当に時間を数えてます。 仮に90秒の現像時間なら、80秒でも100秒でもなんら問題ありません。それくらい大雑把だと思って結構です。
    心配でしたらば、画像面を上にして観察していてもいいでしょう。 RC印画紙ですと現像液に入れて数秒のうちに画像が出始め、徐々にはっきりとしてきます。 段々と濃くなりますが、ある程度の時間が経つと変化が無くなり、それ以上は濃くなりません。全体の現像時間は、現像の進行が進まなくなるまでにかかった時間の1.5倍ほどあれば十分かと思います。

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    画像の現像の状態を見ながら現像をうち切るタイミングを決める方法を、観察現像と言います。セーフライトが使える印画紙ならではですね。

製品に書かれている推奨現像時間は、多くの場合処理温度20℃を基準にして決められていると思います。 それより多少高い温度でしたらば問題ないと思いますが、温度が低い場合は若干現像時間を長目にした方がよいでしょう。

    攪拌
    フィルム現像ほど量やタイミングの繰り返し精度は必要ありませんが、現像ムラを防ぐために印画紙現像でも攪拌を行い、基本的には連続攪拌です。
    方法は、ピンセット(トング)で印画紙の端を掴んで揺するという方法でも良いですが、それだと掴んだ部分の印画紙を傷めてしまいやすく、好ましい方法とは言えません。 ボクのお薦めは、バットの縁を持って少しだけ上下させ、液を揺らす方法です。 波の出るプールみたいのを想像して頂いても良いでしょう。
    バットの手前の縁を持ち上げると液が奥へ移動していきますので、波が向こう正面に届くあたりで降ろし、反射した波が帰ってきたらまた縁を持ち上げます。 激しくやると液がバットの縁を乗り越えてこぼれてしまいますから加減して。
    この時、液と一緒に印画紙が行ったり来たりしてしまうと、印画紙の縁がバットの内壁にぶつかって角が潰れてしまいます。 そうならないよう、片手でバットを揺らし、もう片方の手にはピンセット(トング)を持って、ピンセット先で印画紙の表面をそっと押さえておきます。
    印画紙の縁がバットの内壁にぶつからないようにする、というのは、ピンセットで印画紙を掴んで揺する場合でも同じです。 印画紙の角が潰れてしまうと、みっともないというだけではなく、そこから薬液が紙の内部に染み込んでしまい、保存性が悪くなるという理由もあります。 特にRC印画紙では注意が必要です。

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停止
印画紙現像、特にRC印画紙では現像しすぎというのがほとんどありませんので、あわてて現像を止める必要はありませんが、印画紙現像における停止浴は、現像を止めるという他に、続く定着液に現像液を出来るだけ持ち込まないという意味もあります。
基本的に現像液はアルカリ性で、アルカリ性でなければ現像は進みません。 そこで停止液を酸性として中和し、現像の進行を急激に止める仕組みです。 そして、続く定着液が一般的には酸性なので、アルカリ性を排除することで、定着液の能力が失われないようにするわけです。

    現像時間が過ぎたら、ピンセットで印画紙の縁をつかみ、持ち上げます。 印画紙を吊すように持っていると、印画紙に付いていた現像液がポタポタと流れて落ちていきます。 最初はジャーッと流れますが、残りが少なくなるとポタポタポタから、ポタ、ポタ、という感じになってきますので、頃合いを見て停止液のバットに印画紙を入れます。 8×10印画紙で、だいたい5秒か6秒くらいではないでしょうか。
    その際、少しでも早くしようと印画紙を振ったりしてはいけません。 なにも慌ててやらなくてはならない作業ではありませんし、無理な力を掛ければ印画紙を傷めてしまいます。 印画紙に折り目でもついたらその時点でゴミですから、やさしく丁寧に扱いましょう。

停止浴での攪拌も現像と同じ要領での連続攪拌です。 正しい濃度の停止液であれば、時間は10秒ほどもあれば十分。 これも正確に秒単位で10秒という性格のものではありません。 タイマーなどを使うこともなく、口で数えるだけでも十分な精度でしょう。
時間が過ぎたら、同じ要領で定着液のバットに移します。

定着
フィルムと同様に、現像処理の最後は定着です。 定着というのは、現像の際に現像されなかった銀を除去する工程です。 現像ですと銀が現像されて画像になるのが目で見えますから、観察していれば進行具合がわかりますが、定着処理は現像されていない銀に作用するものなので見た目が変化しません。しかし正しく定着されていないとプリントの保存性に大きな影響があります。
定着液の能力がちゃんとある事、つまり使いすぎて疲労しすぎていないこと、必要とされる定着時間をちゃんと守ること、などに気を付けましょう。

    停止浴から定着液に印画紙を移したら、やはり同じ要領で攪拌します。
    実際には長すぎる定着浴には害があるのですが、これも生半可なことでは起きません。 秒単位の緻密な時間管理は必要ありませんが、定着不足は絶対に避けたいので、製品のメーカーが推奨する定着時間、処理枚数の制限は守りましょう。
    イルフォードの「ハイパムフィクサー」ですと、1:4希釈でのRC印画紙の定着時間は30秒、1:9希釈でも1分と短いものです。 この時間をケチってもしょうがないでしょう。

定着時間が過ぎたら、印画紙をピンセットで持ち上げて液を出来るだけ落とし、空のバットに入れ水洗に移ります。

水洗
RC印画紙の水洗は非常に簡単で、短時間で終わります。
印画紙を入れたバットに水を注ぎ、軽く揺らして攪拌し、排出します。 これを2、3回繰り返した後、流水で2分ほど水洗すれば十分です。
多い水量で激しく洗えば、30秒ほどでもOKですが、印画紙を折ったり曲げたりしないよう気を付けましょう。
なお、水洗に使う水の温度は5℃以上と、イルフォード社は指定しています。

    この水洗時間は、RC印画紙で、非硬膜化タイプの定着液を前提としています。 繰り返しになりますが、印画紙に硬膜化タイプの定着液は好ましくありません。 もし硬膜化タイプの定着液を使っているのなら、定着液のメーカー指定の水洗時間、あるいは水洗促進剤の使用も含め、指示に従ってください。

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乾燥
RC印画紙の乾燥は大量処理用に専用のドライヤーもありますし、一般家庭にあるヘアドライヤーを使って短時間で済ます事も出来ますが、洗濯ばさみ等で吊して自然乾燥が一般的でしょう。 テストプリントでは、早く乾燥させるためにスポンジで表面の水滴をとり、ドライヤーを軽く当てて乾かしてしまうことがよくあります。

    自然乾燥では、乾燥時に水滴によるムラが出来ないように水滴防止剤(富士ドライウェル等)を使いますが、水滴防止剤を使うと表面に艶が出て、それが作風とマッチしないことがあるかも知れません。 そうした場合にはスポンジで表面の水滴を取り除いてから自然乾燥させても良いでしょう。
    ボクはイルフォードのRC紙ではパールという半光沢の表面仕上げのものを使っているのですが、水滴防止剤もスポンジも使わずに自然乾燥させても、気になるムラなどは出ないようです。

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もし可能ならば、乾燥に移る最後の最後に、フィルターを通した綺麗な水にいったん浸けてから乾かすのが望ましいです。水道水の中の不純物がプリント表面に残る事を避けるためです。 水滴防止剤を使うのであれば、使用液は出来れば精製水で、少なくともフィルターを通した水で作ります。
RC印画紙は自然乾燥させるだけでほぼ平らになりますので、乾いてしまえばこれで完成です。

露光時間と号数をテストする
印画紙はフィルムと同じ感光材料ですので、光を当てる量を変えると現像後の画像の濃さが変わります。 光の量は、これもフィルムと同じで、時間(カメラで言うシャッター速度)と絞りで調整します。
ただし、カメラでの撮影は立体像を撮影するのに対して、プリントでは平面から平面へ出来るだけシャープに投影するのが目的です。 絞りを開けて背景をぼかす、というような事はありません。
では、撮影と同じように出来るだけ絞って深度を稼いだ方がシャープかというと、ネガや印画紙の平面性などによるピント位置の精度低下をカバーする意味はありますが、あくまでも平面から平面ですからあまり重要ではなく、光学的な事情で絞りすぎるとかえってシャープさが無くなってしまうこともあります。
ベストな絞り値は、基本的に引き伸ばしレンズの光学性能が最大限に発揮される絞り値であって、ほとんどのレンズでは、開放から2~3段絞ったところになるようです。 50ミリレンズに多い開放f2.8でしたらば、f5.6からf8です。

    実際、ボクがテストしたところでは、ボクのニッコール50ミリはf5.6でもっともシャープな像を結び、通常のプリントで実用的には差は見られないだろうという範囲はf4からf11の間でした。
    そこで、レンズの絞りは開放から2~3段絞り、露光時間で印画紙に当てる光の量を調整します。 3段絞っても露光時間が短すぎて作業しにくい場合には、もう1段絞っても特に問題はないでしょう。

印画紙にもフィルムと同じように感度があります。 撮影と違って光源(引き伸ばし電球)の明るさは常に同じですので、ネガの状態が一定であれば、同じ感度の印画紙に同じ引き伸ばし倍率なら露光時間はだいたい同じくらいに収まるわけですが、ネガの状態によってやはりバラツキが出てきます。
また、プリントでは露光時間の他に、号数をあわせて決めなくてはなりません。
これは、ネガ上の濃度の差、つまりシャドウ部分とハイライト部分の濃さの差が、撮影した被写体(シーン)に含まれる明るさ差によってマチマチだからで、それを印画紙に投影して現像したとき、黒から白まで丁度良く配置されるようにしなくてはならないからです。

    印画紙の号数
    一般に、2号から3号の号数が標準とされますが、号数が小さいほど印画紙は軟調で、号数が高いほど硬調です。 言い換えると、ネガ上の濃さの差が大きい(つまり硬調な)場合、軟調な号数の印画紙を組み合わせ、逆にネガ上の濃さの差が小さい(つまり軟調な)場合、硬調な号数の印画紙を組み合わせる事になります。
    号数印画紙では2号印画紙は2号、3号印画紙は3号と、わけて作られていますが、多階調印画紙では、1種類で00号から5号まで、フィルターを変えることで幅広く調整することが出来ます。
    ここでは、多階調印画紙を使っているという前提で話を進めていきます。

引き伸ばし機の種類(散光式か集散光式か)やフィルムのフォーマット、あるいは人それぞれのスタイルによって異なってきますが、35ミリフィルムでは3号を標準と考えていいと思います。
しかし、標準が3号だという場合、まずはそれよりも軟調になる2号フィルターを引き伸ばし機にセットして、テスト露光をしてみます。
テスト露光は、段階露光という方法で行います。 暗室内の通常灯を消して、セーフライトだけにします。

    段階露光
    例として、露光時間が10秒くらいになるだろうという前提にしてみます。
    印画紙をイーゼルにセットして、1枚の印画紙に7秒、8.4秒、10秒、12秒、14秒の露光を、縞になるように与えてみます。 露光時間のコントロールは引き伸ばしタイマーで管理します。
    まず印画紙全体に7秒の露光を行います。
    ついで、遮光性のある紙か板で印画紙の5分の1程を覆い、1.4秒の露光をします。 つまり、印画紙の5分の4に、先の7秒プラス1.4秒で計8.4秒の露光をしたことになりますね。
    印画紙を覆う範囲を広くしていく要領で遮光板をさらに5分の1ほどずらし、1.6秒露光します。 最初に覆った部分は7秒のまま、次に覆った部分は8.4秒、残りの5分の3は計10秒となりました。
    同じ要領で遮光板をずらし2秒、さらにずらして最後の5分の1に2秒。
    これで、1枚の印画紙に7秒、8.4秒、10秒、12秒、14秒の露光を与えた状態になります。
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    この印画紙を現像すると、5分の1ずつの幅で濃さの違う、縞々のプリントが出来上がります。

露光時間の検証
明るい場所で縞々のテストプリントを見て、5段階の中で適切と思われる濃さの部分があるかどうか確かめます。
上の例で言うと、Cにあたる真ん中の部分が適切に見えたら、露光時間は10秒。 Dが適切に見えたら、露光時間は12秒です。 DとEの中間くらいが良いように思えたら、あいだを採って13秒という事にしておきましょう。

    どれも適切に見えなかったら、つまり、7秒露光のAでも濃すぎる、あるいは14秒露光のEでも薄すぎる場合、目安の露光時間を変えて再度同じテストをします。
    Aでも濃すぎた場合、一番長い露光時間が7秒にならないような露光時間のセットを考えてテストしますし、Eでも薄すぎた場合には、一番短い露光時間が14秒より長いセットで行います。
    もっとも、今回のように7秒でも露光が多すぎるというのは全体の露光時間として短すぎ、作業がし難いので、レンズの絞りをもう1段絞るなどした方が良いと思います。
    絞りを1段絞ると光の量は半分になりますので、先ほど7秒だったものは14秒に等しくなります。人それぞれではありますが、8×10印画紙くらいの大きさでしたらば、10秒前後から20秒弱くらいの露光時間が作業はし易いと思いますので、そのあたりを目安にしてみましょう。
    また、仮にもっとも露光時間が短かったAの、7秒が適切に思えた場合、あるいは逆に、もっとも露光時間が長かったEの14秒が適切に思えた場合には、出来れば少しずらして再度テストをする方が望ましいです。
    Eがベストに思えた場合には、12、14、17、20、24と言った露光時間でしょうか。
    というのは、Aが適切に見えた場合、それより短い露光時間の方がより良いかもしれないのに、この段階では確認していないからです。 Eの場合は逆に、それより長い露光時間がより良いかもしれないのです。
    段階露光によるテストでは、一番短い時間と、一番長い時間をのぞいた範囲でベストが見つかるようにします。

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それはさておき、ここでは仮に、12秒が適切に見えた、という事にして次に進みます。
新しい印画紙をイーゼルにセットして、12秒露光し、現像します。 プリントの出来上がりはどうでしょうか。

コントラストの検証
この段階では、まだテストプリントを作っているところですので、完成プリントとは違う見方をします。
先ほど、標準が3号であるならそれより軟調になる2号フィルターでテストをすると書きましたが、それには理由があります。
テストプリントは完成プリントとは違う役割があり、特に最初に作るテストプリントは、ネガ上にある情報を出来るだけ全部見るために作るのだと考えてください。
この段階では、シャドウの一番暗い部分が真っ黒にならず、ハイライトのもっとも明るい部分が真っ白にならないような、軟調なプリントを作るのが第一段階です。

    今回の例では、12秒の露光でシャドウもハイライトも目一杯になっていないプリントになれば、まずは成功です。 どちらかが目一杯になってしまっていたら調整します。
    ハイライトが真っ白になってしまっていたら、露光時間を長くして再度プリントしてみます。 しかし同時にシャドウが真っ黒になっていたら、そもそも硬調過ぎるわけですので、今度はフィルターを1号にしてテストをやり直します。
    シャドウが真っ黒になってしまっていたら、露光時間を短くして再度プリントしますが、ここでもやはり、同時にハイライトも真っ白でしたらそもそもが硬調過ぎるわけなので、フィルターの号数を小さくします。
    シャドウもハイライトも目一杯にならず、つまり真っ黒も真っ白も画面内に無い状態でしたらば、ひとまず第一段階のテストプリントは出来上がりです。
    あまりにもシャドウが薄くハイライトが濃い、つまり軟調すぎるようでしたら、逆にフィルターの号数を上げてテストをやり直した方が良いでしょう。

軟調なテストプリントが出来たら、それを元に写真の内容を検討します。
このテストプリントには、画面内のもっとも暗い部分がどこで、そこにはどれくらいディテールや質感があるのかが示されています。 同時に、画面内のもっとも明るい部分がどこで、そこにはどれくらいディテールや質感があるのかも分かります。
それらを検討して、完成プリントではどの部分をもっとも濃く、またどれくらい濃くして良いのか、どの部分をもっとも明るく、またどれくらい明るく(つまり薄く)して良いのかを考えます。

多くの人が、こうした軟調なテストプリントを作ることをせずに本番プリントへ進んでしまいます。 そのため、せっかくネガが持っている階調を十分に引き出すことを出来ていなかったり、逆に質感もディテールもないディープシャドウやハイライトを中途半端な濃さでプリントに出してしまったりするものです。
まず最初に、軟調なテストプリントによって、プリントしようとするネガフィルムの全ての情報を見ることは非常に大切な過程ですし、上達の早道と言えます。

プリントを「作る」
これまでの工程で、画像のもっとも暗い部分、つまりディープシャドウも、もっとも明るい部分、つまりハイエストライトも、それぞれ印画紙の階調幅目一杯にならないという、軟調なテストプリントを作成しました。
そのテストプリントをよく見て、完成プリントの姿を考えます。

モノクロ写真というのは、色がない分だけ黒から白に至るまでのグレーの階調が非常に大切です。 黒から白までの変化がはっきりせず、メリハリに欠けるプリントはよく「ネムい」と評されますが、逆に黒と白ばっかりのガチガチで滑らかさがないのも困りますよね。

もちろん、それぞれに表現意図があって、それが上手くキマっていれば素晴らしい写真、素晴らしいプリントには違いありませんが、意図的にそういった表現を狙うのではなく、単にプリントが下手だからそうなってしまう、というのでは恥ずかしいですよね。
せっかくの写真が恥ずかしいプリントにならないよう、少しでも質の高いプリント作りを目指しましょう。

軟調なテストプリントの中で、ディープシャドウに相当する部分。 そこにあるディテールや質感が、黒く潰れない方が良いのか、それともある程度は質感を失っても黒々とした濃さにして、プリントに強い印象を与えた方がよいのかを検討しましょう。

逆に、ハイライトに相当する部分。 そこにあるディテールや質感が、はっきりとわかる濃さにした方良いのか、あるいは詳細があまり分からなくても良いから明るくして、画面全体にキレや清涼感を出した方が良いのか。
そうした判断は、プリントを作るあなたが決めるべき事です。

特に勘違いしやすいのは、ネガ上の最も薄い部分、つまり画面の中でもっとも暗くなる部分を印画紙上でもっとも濃くし、ネガ上の最も濃い部分、つまり画面の中でもっとも明るくなる部分を印画紙上でももっとも薄いグレーに「しなくてはいけない」、あるいは、黒から明るいグレーまでの階調が「ひととおり揃ってればいい」といった事です。
どちらもその通りで、それで自分の意図する表現になるのであれば最高です。 しかしあくまでも、印画紙上でもっとも濃い黒にするのは、あなたがもっとも濃い黒にしようと考える部分です。 もっとも明るいグレーにするのは、あなたがもっとも明るいグレーにしようと考える部分です。
同時に、印画紙の最も濃い黒はそれぞれに限度がありますし、もっとも明るい部分は印画紙の地の白以上に白くはなりませんから、そうした限られた印画紙の階調幅を、自分の意図の中で出来るだけ使い切る、というのも非常に大切です。
写真を撮る事を英語では “take a picture” だと学校では習いましたが、特にモノクロ写真、特にモノクロプリントは、”take” ではなく “make”。自分の意志で「画」を作る物です。

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本番プリント
第一段階のテストプリントは軟調な物でしたから、本番プリントはそれよりも硬調になっていかなくてはいけません。 テストプリントを2号フィルターで作ったのなら、2.5号とか、3号で完成プリントに持っていく事が多いでしょう。 そうしたフィルターをセットして、あとはこれまでにもやってきた手順で露光時間を決めてプリントします。

    露光時間の決め方や、コントラストの決め方は他にも方法があり、このサイトでもいくつか紹介していますが、特定の号数のフィルターを使って段階露光を行い、大まかな露光時間を決めてプリントし、その結果から露光時間や号数を微調整するというやり方は、もっともオーソドックスな基本的手順なので、まずはこのやり方になれるのが良いと思います。
    コントラストが高すぎるとか、撮影時の露光量が多すぎる、逆に少なすぎると言った、ネガの状態によってはオーソドックスな方法ではうまくいかない、と言うこともありますが、ひとまずそうした難物のネガはパスして、プリントしやすいネガで完成プリントを得る楽しさを満喫するのも悪くないと思います。
    最初から欲張らず、ひと通り基本的なプリント手順を覚えて、ある程度無難にこなせるようになってから、新たなテクニックを学べばよいと思います。

本番プリントの作成では、画面の暗いところが、自分でこれくらい濃い黒で良いだろうと考えた様に黒く、明るいところが自分でこれくらいは明るいグレーでよいだろうと考えたところまで明るくなるように、露光時間と共にフィルターの号数も変えながら調整していきます。
慣れてくると、今の状態からどれくらい露光を増やしたり減らしたりすれば狙ったところに収まるかとか、フィルターを何号変えれば思い通りになるかといった、予測がつくようになりますので意外と簡単に出来るものですが、最初のうちはあれを変えてはこれを戻し、こっちを戻してはあっちを変えて、というように、行きつ戻りつするかもしれません。
それが悪いこととはボクは少しも思いません。 そうした経験を積んだ上で初めて、先に挙げたような予測が出来るようになるものです。
露光時間が足りなかったとか多かったとか、号数が低かった高かったといった、作業途中で出来るテストプリントを失敗プリントと呼ぶ人もいるのですが、それは明らかに間違いです。 ボクらはワークプリントと呼んでいますが、それらは失敗ではなく、あくまでも完成プリントへの過程で生まれる必要不可欠な物なのです。
ときどき、テスト露光1回でプリント完成とか、毎回同じ号数と露光時間でちゃんとプリント出来るといったような事を自慢げに言う人を見かけますが、よほどの達人ででもない限り、そうした人たちのプリントは大した物ではないでしょう。 露光時間の検証のところでも書きましたが、それよりも短い露光時間、あるいはそれよりも長い露光時間の方が良かったかも知れないのに、それを確かめていないようではベストなプリント作りは望めません。 コントラストについても同じです。
常により良い可能性を探し、容易に妥協しないという姿勢が望ましいです。 行きつ戻りつは、すればするほど上達します。完成プリントは、たくさんのワークプリントから生まれる物だと思ってください。

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