撮影用フィルター

今や多階調印画紙が主流なので、モノクロ写真で「フィルター」というと、うっかりプリント時に使う多階調フィルターと思ってしまうかも知れないけれど、今回のお話しは撮影用フィルターについてです、念のため。
以前からカラー写真をやっていた方は、既にある程度フィルターになじみがあるかも知れませんね。 レンズを買うと、お店で必ずと言っていいほど「フィルターはどうしますか」と聞かれるから、初心者の方でもスカイライトフィルターかUVフィルターを保護フィルターがわりにレンズに付けているかも。 風景写真を撮るときに空がキレイな青になりますよ、なんて、PLフィルターを持ってたり。
初心者からちょっとすすんでくると補正フィルターを使ったりしますね。 曇りの日にはコレ、蛍光灯下ではコレ、夕方になったらコレとか。だいたいそうだなぁ、6種類くらいはどなたでも持っているかしら。 本格的にやりこんでいるハイアマチュアだと、細かい色補正フィルターをずらっと揃えていたりしてね。 ゼラチンフィルターは決して安価ではないから、投資額もスゴイことになってしまいます。

ではモノクロ写真ではどうかというと、撮影用フィルターはとても重要なアイテム、必需品です。
多くの人がまずはカラー写真をいくらかでもやっていて、それからモノクロ写真を始めると思うのですが、暗室用品ではなく撮影用品としては、カメラやレンズ、三脚などは既に持っているわけなので、モノクロ写真用として新たに用意するモノの筆頭がフィルターである、と言っていいのではないかと思います。
モノクロ写真を始めたばかりの人は、どうしてもフィルムの銘柄や現像液の違いやら、印画紙の銘柄だのと言った事についつい関心が向いてしまいがちなのだけれど、ボクは何度も繰り返し言っているように一つのフィルム一つの現像液を使いこなすことをまず課題にすべきであって、モノクロ写真でのフィルターの役割の大きさをまずは知っておいた方がいいのではないかと思います。

フィルターのカタチ
さて、フィルターを形で大きくわけると3種類ありますね。 円盤状で、レンズの先端にねじ込むタイプがもっとも一般的で、みなさん馴染みがあるかと思います。
次は角形のシートになっていて、レンズの先に取り付けたフィルターホルダーに差し込んで使う物。
後はレンズの中間や後部に差し込む物で、これはレンズの前玉の直径が大きすぎたり張り出していたりして先端にフィルターを取り付けられないという構造上の問題(被写界深度がとてつもなく深い超広角レンズなども)で、レンズが最初からそういう設計になっています。

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カラーでもモノクロ写真でも、フィルターワークを本格的にやろうという場合に種類が細かく揃っているのは角形フィルターです。
角形フィルターは、フィルターホルダーとそれをレンズに取り付けるアダプターさえ揃えれば、同じフィルターをフィルター径が違うレンズでも共用できるというメリットがありますす。
また、異なる直径のレンズに取り付けられるスプリングやゴムを利用したホルダーもありますし、フィルター用のポケットを備えたフードもあります。
何種類かフィルターを揃えると金額的にもバカにならないので、撮影に使うレンズの径がまちまちだったり、細かいフィルターワークを行いたい場合には検討する価値があります。
しかし反面、角形フィルターのホルダーは大きくてかさばるため、カメラに付けたままでの携行には不向きですから、いつでもどこでも気軽に使うというわけにはいきません。
また、ホルダーそのものもピンキリで高い物は高いので、それほどたくさんのフィルターを使い分けないのであれば、角形フィルターは避けた方がいいでしょう。

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レンズの先端にねじ込むタイプの円形フィルターは、手軽ですし、枚数がそれほどでもなければ携行も楽です。
使っているレンズの先端径がバラバラだと、必要な種類を揃えるのが大変になってしまいますが、カメラメーカーは主要なレンズのフィルター径を可能な限り統一するように作っていますから、同じフィルター径のレンズであれば使い回す事が出来ます。
あるいは、フィルターは普段使うレンズの中で一番径の大きなフィルター径に合わせて購入し、径の小さなレンズにはステップアップリングを使って取り付けるという事も出来ます。
ただ、フードを使っているとねじ込み式のフィルターは着脱が面倒、という事も言えそうです。

フィルターの種類
撮影用フィルターには主な物として、「色補正(CC)フィルター」、「シャープカット(SC)フィルター」、「色温度変換(LB)フィルター」、「減光(ND)フィルター」、「偏光(PL)フィルター」などがあります。
モノクロ用としては、カメラ用品店のフィルターコーナーに行くとずばり「モノクロ用フィルター」というジャンル分けで棚に置いてあるので分かりやすいですね。
円形フィルターではたいして種類もなく、メジャーなメーカーさんのケンコーでもマルミでも、俗に言う「黄色」「オレンジ」「赤」「黄緑」で、せいぜい5~6種類ほど。
いわゆる黄色は「Y2」、オレンジは「YA3」、赤は「R1」「R2」「R64」、黄緑は「PO0」「PO1」という品番がついています。
カラー写真撮影用のフィルターは色補正フィルターが主ですが、モノクロ写真ではシャープカットフィルターが一般的に使われます。
「Y2」「YA3」「R1(R2)」と言ったあたりが使用頻度の高い種類で、効果で言うと黄色が弱くオレンジが中間、赤が強い、という事になります。 そのうち、Y2とYA3の2種類をまずはモノクロ写真の基本フィルターとして買い揃えましょう。
困ったことに、角形フィルターを見ると違う品番が使われていて、どれがどれに相当するのか分かり難いですね。 モノクロ写真の本や技術資料などではコダックの品番で言うことがほとんどですので、できれば「#8」「#25」と言った品番を覚えてしまった方がいいでしょう。 豊富な種類のフィルターを販売している富士写真フイルムが対応表を作っていて、HPや写真用品店の店頭で見ることが出来ます。以下は一部抜粋です。
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フィルターの働き
DELTA400SpectralSensitivity右はイルフォードのDELTA400 Professionalの分光感度曲線です。 下の数字は波長で、数字が小さい(波長が短い)ほど紫、数字が大きい(波長が長い)ほど赤。
波長がとても短いのは紫外線といって目に見えません。 また、とても波長が長いのは赤外線といってこれも目に見えません。
ご存じかも知れませんが、もともとモノクロ写真フィルムの感光材料は青い光までにしか感光しなかったのです。 それをいろいろと工夫して緑の光にも反応するようにし(分光増感)、さらに赤い光でも撮影出来るようになりました。 それをオルソパンクロマチックと言います。フィルムの名前で「○○パン」と言うのを良く見かけますが、青色光~赤色光まで感光するフィルムであることを表しています。
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この表は光の波長と可視光の色彩を対応させたものです。
人間の目に見える「可視光」は、だいたい400nmから700nm台半ばくらいまでと言われています。 オルソパンクロマチックと言っても、可視光全部に同じように感光するわけではない事がこの表でわかりますね。 どのメーカーのフィルムでも、データシートには必ず「分光感度曲線(Spectral Sensitivity)」が載っていますので、参考までにいろいろ見比べても面白いでしょう。 それぞれ特徴がありますよ。

さて、シャープカットフィルターの働きですが、フィルターはこれら光の波長のとある部分から下の(波長の短い)光を吸収してフィルムに届かなくします。
完全に遮断することは出来ませんが、富士のシャープカットフィルターのデータでは90%以上を吸収する事になっていますからかなりの部分と言えるでしょう。
では、どの辺りからかというと、上のフィルターの品番を並べた表で「富士写など」となっている欄の品番にご注目。
「SC-46」は波長460nmから下、「SC-48」は波長480nmから下をカットする、という意味なのです。 非常に分かりやすいですね。HOYAも同様の分かりやすい品番を付けています。
実際には「○○nm」から下といっても断崖絶壁のようにシャープではないのですが、まぁ目安というところです。

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フィルターの効果
光の波長と目に見える色彩の関係、それとフィルターの働きを結びつければ、モノクロ写真でのシャープカットフィルターがどのような効果を生むか想像が付きますよね。
例えば「Y2」フィルター、つまりコダック#8、富士SC-48である黄色のフィルターを使用すると、紫外線から青色光までを吸収してしまいます。
光がフィルターに吸収されてフィルムに届かなければ、フィルムが感光する度合いが減りますので、現像したネガ上では薄く、プリント上では濃くなります。 撮影時に目で見ていた景色の青っぽい部分が暗くなるのです。
青っぽい部分、代表例は「青空」でしょうか。 黒白での風景写真で、空が濃くて白い雲がクッキリ写っているのをよく見かけますが、あれはフィルターを使って空の青色を吸収(フィルムに届かなく)する事によって可能になる表現技法です。
紫外線も含め青い光にはもともとフィルムは良く感光しますから、フィルターを使わずに撮影すると白い雲と青い空は黒白のモノトーン上ではあまりメリハリがつかないのです。
青より波長が長い緑や黄色はほとんど普通に透過しますから、全体にそれほど不自然さはなく、白の雲が目で見ていたように空の青の中に浮かぶため、フィルター無しでの撮影より違和感がない事が多いです。 そのためモノクロ写真での常用フィルターとさえ言われることがあります。 カラー撮影での「UVフィルター」や「スカイライトフィルター」の様な感覚かも知れません。
実際、UVフィルターというのは可視光よりも波長の短い紫外線域の光をカットするシャープカットフィルターなのです。「SC-39」がこれに相当します。
「Y2」フィルターより「YA3」フィルターの方がさらに吸収してしまう範囲が広いですから、空の青はより暗くなり、さらに緑の波長もいくらか吸収し始めますので木々の葉も濃く表現されてきます。 明らかにフィルターを使ってる!という写真になりますので、意図的にでないと使えないフィルターです。
「R1」フィルターになるとかなり極端なフィルター効果となり、悪く言うとおどろおどろしい写真になってきます。 空が真っ黒のモノクロ風景写真は#25や、場合によっては#29のフィルターを使って撮影されている事が多いようです。
赤外線フィルムを使った赤外写真も同様の仕組みで、可視光よりずっと長い波長(赤外線)にまで感光する赤外フィルムに長い波長までカットするフィルターを組み合わせて使い、可視光に相当する波長を遮断するわけですね。

その他のフィルター
カラー撮影用の「色補正フィルター」なども利用することが出来ます。
色補正フィルターはCCフィルターという呼ばれ方をしますが、光の三原色である「赤・緑・青」のフィルターについて非常に分かりやすい考え方をすると、例えば青いフィルターは青以外の色を選択的に吸収し、緑のフィルターは緑以外を吸収、赤いフィルターは赤以外を吸収する。という風に捉えると簡単です。
これを利用して、画面の中の緑を明るくしようと思ったら緑のフィルター、青を明るくしようと思ったら青のフィルターを使えばいいのです。
また、CCフィルターには赤・緑・青(光の三原色)の他に「マゼンタ・イエロー・シアン」「色の三原色」もあり、相対する色を吸収します。
例えば、イエローのCCフィルターは青を暗く、マゼンタのCCフィルターは緑を暗く、シアンのCCフィルターは赤を暗くするわけです。
CCフィルターは強度によって段階分けされていますので、効果の出方を選べるほか、単体はもちろん、組み合わせによって様々な表現が可能です。
例えば、空の青を濃くしようとシャープカットフィルターを使う際、Y2はともかく効果の強いYA3を使うと森の緑も黒くなってしまいがちです。 しかし緑のCCフィルターでも青が濃くなり、同時に緑は相対的に明るくなりますから、CC-GとSCの40番台を組み合わせて使う、という考え方も出来るわけです。
もっとも、フィルターを複数重ね合わせると光学的な性能が低下しますし、フィルター面での反射からハレーションが出てしまったりするので、一般に重ね合わせは2枚までとされています。

カラー撮影では光源の色温度によってカラーバランスが変化しますので、晴の日、日陰、曇りの日、白熱電球、などなど、色温度変換フィルター(LBフィルター)を使います。
モノクロではあまり色温度を意識しない事が多いですが、色温度変換フィルターもまた波長によって透過率の異なるフィルターですから、表現の変化に使うことが出来ます。
LBAと呼ばれるアンバー系の補正フィルター(暖色にする)では、波長の短い青方向を暗くし、赤方向が相対的に明るくなります。 逆のLBC、ブルー系補正フィルター(冷色にする)では青方向が明るくなり、赤方向が暗くなります。

モノクロなのにカラーを考えないとならないとはやっかいですが、そもそもモノクロ写真というのは、モノクロのモノを撮影するわけではなく、色のあるモノをモノクロに置き換えるわけなので、カラー写真の撮影と同様に色についての知識や認識も必要なんですね。
別の見方をすれば、カラー写真の場合はプリント時にまだ調整が出来ますが、モノクロ写真の場合は撮影した後はグレーの階調しかネガフィルム上に残りませんので、色に対する働きかけは撮影時のフィルターワークしかチャンスがないとも言えます。

もうひとつ、NDフィルターはニュートラルデンシティの略で、全波長域に渡ってほぼ均等に光を吸収するフィルターです。したがって、色によって影響力は変わらず、全体的にフィルムに届く光の量を減らします。
意図的に遅いシャッター速度が必要な場合(流水などの撮影でよく使う手です)、感度の高いフィルムを屋外で使い、レンズの絞りを大きく開けたい場合などに使います。

カラー写真の撮影では人気のあるPLフィルター(ポラライジングフィルター)というのは、非金属の反射で生まれる偏光と呼ばれる光を遮断するものです。 水面やガラス面の写りこみを除去したり、空気中の乱反射光を取り除いてコントラストを上げたりに使われます。
特にカラーでは、空の青さを強調するのに頻繁に用いられるフィルターですが、モノクロでも同様の効果があります。
ただ、空気中の光の乱反射の影響は、光源である太陽と自分との位置関係で大きく変わりますので、角度によってはあまり効果がなかったり、画角の広い広角レンズでは画面の左右で効果が異なるといった弱点があります。

フィルター係数
フィルターは光の波長によってある程度の部分を吸収し、フィルムに届かなくするわけですから、それだけ露光量は減ってしまいます。 したがって、撮影時にはその分を補ってやる必要があります。
一般的に、TTL測光ではあまり考えずにカメラ内蔵の露出計の指示値で大丈夫ですが、TTL測光ではない場合にはフィルターが吸収している(であろう)分の補正が必要です。
また、そもそも実際の撮影対象を考えれば分かるように、画面内の光の波長(色)の分布がまちまちです。 画面に青が多いシーンと、赤が多いシーンとでは、青を選択的に吸収するフィルターでの効果がまるで違う事はわかりますよね。
それに、表現意図があるからフィルターを使用するのであって、測光値そのままを使用しない場合も多いかと思います。
したがって一律に補正量を決めることは出来ないのですが、大まかな目安はフィルターに付属の説明書やフィルターメーカー・フィルムメーカーのデータに記載されています。
「Y2」フィルターではプラス1EVの補正、「YA3」フィルターでは2EV、「R1」フィルターでは3EVと言ったところですが、多くの場合、YA3で2.5EV、R1では3.5EVくらいは必要だろうと思います。

これらは昼光を基準としていて、色温度に偏りが大きくある人工光源、例えば赤味成分が多いタングステン光では、相対的にSCフィルターによる吸収の影響を受けにくく、目安の補正量も異なります。 そのため、フィルムの説明書などには昼光とタングステン光とで分けて補正量が書かれています。
また、TTL測光であっても、極端に被写体の色が偏っていたり、フィルターによって極端に偏らせていると、緑を中心にした標準的な色の分布を基準にしている露出計の前提からはずれてしまうため誤差が出やすくなりますし、露出計の特性によっても影響の出方が違います。
加えて、フィルムによって分光感度の分布が異なりますから、ますます補正量というのはケースバイケースになってしまします。
なんにしても、フィルターを使用した撮影では、可能な限り段階露光する事が望ましいでしょう。