暗室を作ろう

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あれこれあって、2年くらいまったく写真活動をしていなかった。
まぁ、とにかく、繰り返し繰り返し、<あれこれあって>中断するんである。
中断するのは簡単だけど、えんやこらと再開するのは妙に根性がいる、ような気がする、のだけれど、やってみるとどうということはない。
勿論、いろんなことを身体が忘れてしまっていて、びっくりするようなヘマをやる。
レンズの絞りを変えるの忘れて露光し始めちゃったりね。

今回は引越しもあったので、暗室の構築っていうのがあったから腰が重かったところもあるんだけど、実は暗室を作るのはそんなに難しい話ではない。

プリントやりたいな、と思ってるんだけど、暗室も作らなくちゃならないし・・・。というような事を時々見聞きするのだけれど、多分、やったこと無い人は「暗室」っていうのを大げさに考え過ぎなんじゃないかな。
でもって、やってる人の少なからずが、自分がやっていることを<大げさに言いたがる>というのが、その原因のひとつではないかと思ったり。

「オレ、自宅で暗室やってるんだぜ~」みたいな感じ。
「そうねぇ、表現への拘りっていうか、なんだろうな、オレってホニャララじゃないですか?」的な(笑)。
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冷蔵庫の中はフィルムしか入ってなくて、流し台の戸棚には薬品しか入ってないけど、それをなんとも思わないとか。
部屋の中は微妙に酢酸の香りが漂っているんだけど、なんとも思わないとか。
そういう、「幸せな家庭像」とはちょっと違う状態に気づいているんだが、なんとか正当化するために、自分のやっていることを過大評価したくなる気持ちはよく分かる。

「仕事と幸せな家庭像は家に持ち込まない」事にしているボクは、アパートの1室を暗室にすることにあまり躊躇がないのだが、ご家族のある方はそうもいくまい。

しかし、暗室って、普通だよ。
夜になったら部屋の中って暗いでしょ?

遮光
今回の我が暗室は、ダークカーテンすら使ってません。作業時には雨戸を締めて、小窓にダンボール貼っただけ。
昼間は、「ややっ!漏れてる漏れてる」と思うのだが、夜になると「なんだ、真っ暗じゃん」というくらいのもんで、実用上困らなければそれで良いんです。
昼間の明るいうちは外で写真を撮って、暗くて写真が撮れない時間帯にプリントする。というくらいのつもりでいいじゃないですか。

ともかく、電気を消して部屋を暗くして、光が入ってくるところに蓋をして回るだけのこと。
そして、そこそこやったら、妥協する。これが肝心。

照明
暗室にはセーフライト(赤い安全光)が必要だけど、これも別に、専用のものは要らない。

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ホームセンターかどっかでクリップライトみたいの買ってきて、電球に赤いペンキを塗ってしまえばそれでOK。2000円くらいで作れると思う。
出来れば濃い目に塗った方がいいけど、スプレー塗料で3度塗り4度塗りすれば十分です。

要は、作業中に印画紙に届く光の波長と強さ、その光に印画紙が晒される時間の問題なのです。
強めのライトだったら遠くに設置するとか、天井や壁に向けて間接照明にするとか、いろいろ工夫すればよろしいわけ。
アームライトやクリップライトみたいに、スイッチがついてるものだと、こまめに点け消しして暴露時間を減らせますし便利です。
自室を暗室に使うなら、普段は普通の電球でデスクライトとして使い、プリントするときだけ赤い電球に交換して、天井や壁に向ける、とかすればいいんですよ。

MG4DXspec右の図は、一般的な多階調印画紙(イルフォードのMG4DX)の感度を示したもの。
撮影用フィルターで言うレッドフィルターくらいの<赤さ>になると、かなり感度は低くなる。
ホントに感度が無い、完全な安全光を得ようと思うと、かなり厳しい話なんだけど、セーフライトってそういうもんですよ。
完全に安全ではないが、そのあたりの波長には印画紙の感度がかなり低くなっているので、少々の時間なら大丈夫、ということなんです。
(マジで多階調印画紙用の安全光にすると、かなり作業はしにくくなる)。
この、<少々の時間>というのが曲者で、じゃあどれくらいなんだ、というのは、自分でテストすればいいだけのこと。
写真用のセーフライトだと、20ワットの電球とこのフィルターの組み合わせで、高さ何センチから何分、とか説明書きにあると思うのだけれど、そういう決まりきった環境を作ろうとすると、どんどん暗室の敷居が高くなってしまうわけ。

高い敷居を乗り越えたい人は自分でどんどん敷居を高くして構わないけど、まずは<とにかく>プリントが出来る環境にするのがイチバン。
セーフライトは、「テキトーに赤くて、テキトーに明るくない」、くらいに考えておけば大丈夫です。
あとは、やりながら調整すればいいんです。

ちなみにテストっていうのは、印画紙を作業場所(主に現像バットを置くところ)に印画面を上にして置いて、その上に本でもなんでもいいんだけど載せて半分だけ覆って、たとえば5分放置。
それを現像してみる、というような手順。
覆ったところとそうでないところとで白に差が出なければ、5分は大丈夫、っていうこと。
ホントはこれだとダメなんだけどね。現像されないギリギリの露光っていうのは実画像をプリントする時に影響するから(フラッシングを参照)

セーフライトの色や明るさは、「印画紙を箱から出して、イーゼルにセットして露光を始めるまで」と、「露光が終わってイーゼルから取り出し、現像、停止液に入れるまで」の、その間だけ問題になります。
セーフライトを引伸しタイマーに繋いでいれば、露光中はセーフライトは消えますからね。
もちろん、露光を何回かに分けて、その間に覆い焼きや焼き込みの仕込みをするなら、そこでドタバタしてるとダメなわけですが。

イーゼルに印画紙をセットするまでは、出来るだけ手早く出来るように、モノの配置を工夫するとかしますが、現像中については、現像時間が長い処方や手法の場合は注意が必要ですね。
たぶん、セーフライトの目安って5分くらいの暴露を想定して考えるものだと思う(それくらいでテストする)から、通常の1分か2分の現像なら心配することはないのだけれど、リスプリントみたいに10分も20分もかかるなら、その間はセーフライトを切って真っ暗な中で攪拌するとか、現像バットの上に覆いをかけるとかして対応しますよ。

繰り返しになりますが、やってみて、問題があれば対応する、で良いのです。

光といえば
暗室自体の遮光性やセーフライトの他に、引伸し機からの光線漏れというのもあります。
ネガキャリアのところから横に光が漏れますね。
横に漏れている分には、印画紙には当たらないので問題ないのですが、横に漏れた光が壁に反射して印画紙に当たる。
この光は赤くないので、被ります。
さらに、印画紙に露光している時には、印画紙の表面で反射した光が壁にあたって、その反射が印画紙を被らせます。
引伸し機を壁の近くに設定している時は注意が必要です。
暗室自体の、例えば扉の下の隙間から廊下の明かりがわずかに漏れてきている、とかよりもずっと、こうした光のほうが影響があります。
まぁ、このあたりも気にしはじめるときりがないんですけど、壁が近くて反射がきつい(つまり、印画紙に露光してる時に壁が明るくなるのが気になる)なら、出来れば光沢のない黒い紙とか布とかを壁に貼ったり画鋲で留めたりしておきましょう。

水まわり
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今回でボクは3箇所目の暗室です。初めて、水道のある部屋を暗室にしました。
現像・定着してすぐに水洗に移れるし、自分が移動しなくていいので非常に快適です。
ですが、それまでの暗室は、自分の部屋で現像・定着して、洗面所に運んで水洗、という手順を踏んでいました。
水まわりが暗室内にあると最高ですが、無くても平気です。
水を使うときには暗くする必要がないからですね。
RC印画紙を長時間放置すると痛んでしまいますが、少しの間ならバケツでもなんでもいいので、定着済みの印画紙を水の中に溜めておいて、水道のあるところに移動して先の作業をすれば良いのです。
要するに、水まわりは必ずしも<暗室>に含まれるわけではないんです。

あと、水道水の質が良ければいいんですが、配管が古かったりすると不純物が多かったりします。
蛇口に取り付ける簡単な浄水器とか、あっても良いと思います。