脱!ビギナーのための特性曲線

特性曲線 ~ 表現のための感剤選び
世の中的にはモノクロ写真、というより銀塩フィルム写真そのものが廃れていってしまっているような感じだけれども、幸いにしてまだまだフィルムや印画紙の選択肢はいろいろあって、どれを使ったものだか悩んでしまう。
実際のところ、読んだり聞いたりした評判や、使ってみての印象とかしか無かったりするのが現実ですよね。
ところが、人に聞いたり何かを読んだりした情報っていうのは、言ってる人書いた人の主観がかなり多いしわけですし、人それぞれ好みの個性や価値観が違いますし、特にモノクロ写真を始めたばかりの初心者だと使ってみてもそれが良いのか悪いのか、自分の狙いにあってたのかあってなかったのか判断つきかねるはず。
そこで、フィルムや印画紙のデータシートに載っている特性曲線から何か読みとれないか、というのが今回のお話し。
カメラ買うときはシャッター速度がいくつまでだのAFセンサーがどうだの、パソコン買うときはハードディスクが○○ギガだのCPUがなんだのとスペック表見るでしょ? 車買うときには隅から隅までカタログ読むでしょ? フィルムや印画紙を選ぶときもデータシートを見ようじゃありませんか。
でもまぁ初心者向けと言うことで、なるべく簡単にするため詳細は省きます。なのでマニアの方のツッコミは固くお断りしま~す。

お馴染みネオパン400プレストの特性曲線
(富士写真フィルムの資料から)
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縦軸はフィルム濃度で、上に行くほどネガが濃い。
横軸は相対露光量で、右に行くほど露光量が多い。
つまり、左の方がシャドウ部分、右に行くとハイライト。
当然、グラフ的には右に行くほど縦軸の濃度も上がるわけです、ネガ(反転画像)ですからね。
この特性曲線では、現像時間を変えた場合の様子が分かるように、3本の曲線が載ってますね。 現像時間7分、8分半、11分の例となってます。
グラフの左の方で、濃度が0になってないのはフィルムのベース自体が完全には透明じゃないからです。 現像したときにもっとも薄い部分、つまり未露光のまま現像された部分がこの左端の一番グラフが低い所になります。
濃度の数値は対数で表されているので、ただ数字を見ても感じが掴めないですよねぇ。
この数値を体感するには、慣れるってのもあるけれど、印画紙のISOレンジと並べて考えてみるのも早道です。
印画紙のパッケージやデータシートに、ISOレンジというのが載っているのをご存じでしょうか?
例えばごく一般的に広く使われていると思われるイルフォードのマルチグレード4RCデラックスのデータシートには、次のように書かれています。
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これとフィルム濃度を結びつけて考えるのは簡単。 単純に、フィルム濃度を100倍しちゃいます。 印画紙上に表現したいシャドウからハイライトまでのフィルム濃度の幅を100倍、ね。
でもって、印画紙のISOレンジが多階調フィルターや印画紙の号数によって異なる、軟調なものほど数字が大きく硬調なものほど数字が小さいのは、印画紙上に当たった光の多い少ないによってどう印画紙が反応するかを表しているからで、例えば0だと全く反応せずにプリントは真っ白になるとして、真っ黒になるにはどれだけ光が要るかというようなイメージ。 当然、軟調な印画紙(フィルター)ほどこの光の量は多く必要ですね。
フィルムの濃度が高いというのは光が通り抜けにくいわけだから、画面内の一番フィルム濃度の低い所と一番フィルム濃度の高い所の差が多い(ネガ上のコントラストが高い)場合には、ネガを通り抜けて印画紙に届く光の多い少ないの幅が広くなる。 逆にフィルム上の濃度の差が少なければ、印画紙に届く光の量の幅も少ない(軟調)。
印画紙のISOレンジというのは、言ってみれば、印画紙が「これこれの光の量の差があれば白から黒までピッタリだよ」と要求しているわけです。
で、さっきのハナシに戻ってフィルム濃度を100倍する。 あるいは逆に、ISOレンジを100分の1にする。
ネガ上で、シャドウ部分とハイライト部分の濃度の差が1.1だったとすると、これを100倍して110。 ISOレンジの表に照らし合わせれば、2号フィルターでぴったりシャドウからハイライトまでを印画紙に表現出来るわけだ。
まぁ、引伸機の光源によって違うし印画紙の現像処理などそれ以外の要素がいっぱいあるからハナシはそう単純明快機械的にいくワケじゃないんだけど、一応の目安になるので覚えておきましょう。
さて、縦軸の数値の見かたはとりあえずこれでいいかしら。
2号フィルターでストレートにプリントできる濃度幅が、上に載せた特性曲線にあるグラフの縦軸目盛り2個とちょっと。OK? ハナシについてきてる?
お、余裕ですね。ではもう一つだけついでにココで書いておきましょう。
縦軸のどこからその1.1なり1.3なりをスタートして良いのかというと、ゾーンシステム的なハナシで恐縮だけれども、写真表現上で真っ黒じゃないけれどディテールやテクスチャを識別できないほどの暗い暗い部分(いわゆるZoneI)はフィルム上の最も薄い部分からプラス0.1~0.15の濃度が適正と言われています。 上のグラフだと分かり難いけど、一番薄い所が0.2くらいに見えるかな(ボクの400プレストのテストでは0.21くらいになる)。 てことは、0.3~0.35程度からスタートして、上へ上へ。1.5くらいまでが手頃な範囲ということになるよね。

さて、横軸にハナシが進みます。 この辺まで来てまた「上のグラフで」ってやるとページをスクロールしなきゃならないから、同じのをもう一回載せちゃいます(う~ん親切)。
chara_400pr
これまた聞き慣れない言葉、log H (ルクス秒)だって・・・。無視ししましょう。
このグラフだと、横軸にも目盛りがあって、目盛り1本が数値0.5になっていますよね。 ハナシを簡単にするために数値の意味はおいといて、単純に目盛り2本、数値にして1.0が、フィルムに露光した光の量の差にして3EV分だと覚えましょう。 3EV、つまりシャッター速度で3段分、絞りで3絞り。 撮影したときに、被写体のダークシャドウ部分とハイライト部分の明るさの差(輝度域)が6EVあったとしたら、このグラフの目盛り4本、数値で2.0分になるわけです。
では、横軸はどこから見始めればいいのでしょう。
縦軸を見始めるスタート地点は、濃度の一番低い所にプラス1.0~1.5でした。 このグラフは曲線が3本書いてあるので、真ん中の8分半のグラフにまず注目すると、濃度の一番低い所プラス1.0になってるのは横軸の一番左端から目盛り2本と半分くらいかな。 ハナシをわかりやすくするため、グラフ上の数値でマイナス2.3としておきましょうか。
さて、この8分半のグラフを追いかけていって、フィルム濃度がさっきハイライトの手頃な範囲と言っていた1.5に到達する所まで行ってみます。
横軸はどうなったかな。横軸の数値で言うとマイナス0.3くらいのところで濃度1.5の目盛りにぶつかったよね。
スタートがマイナス2.3、たどり着いたのがマイナス0.3。 差引2.0。この数値の1.0は被写体の明るさの幅3EV、2.0は6EV。
どう?分かった? 8分半の現像時間だと、被写体の明るさの幅が6EVだった場合に2号フィルターでシャドウからハイライトまでストレートにプリントできるって事なのさぁ。
(もちろん、厳密にはそんなに単純ではないけど)

おいおい、被写体の明るさの差が6EVならいいけどさ、8EVあったらどうするのよ?
う~ん、ごもっともです。
では再びグラフを。今度は3本あるなかの一番下、現像時間7分の線を追っかけてみましょうか。
グラフが低くなってるから、ディープシャドウ地点の濃度を得るのに横軸のスタート地点が右にずれてしまい、グラフの数値でマイナス2.0くらいかな。 でもって濃度1.5に達するのはプラス0.5のところ。 差引で2.5もあった。さっきより多いでしょ。
数値1.0が3EVってことは、1EVあたり3.3。 単純計算で2.5掛ける3.3は8.25。 被写体の明るさの差が8EVあっても、現像時間が7分なら大丈夫なわけ。
ただし、スタート地点がマイナス2.3から2.0にずれちゃったよね。 その差0.3だから、およそ1EV分だ。
その差を埋めるには、1EV余分に露光しておかないとシャドウ部分が潰れて真っ黒になっちゃう。
はい、おわかりですね。 余分に露光して、現像時間を短くする。 そうすると被写体の明るさの幅が多くても、フィルムの濃度幅は同じくらいになって同じ号数の印画紙(フィルター)でプリントできる。 これがコントラストを抑える(軟調にする)減感現像の仕組みなわけです。
1EV余分に露光するために、毎回いちいち1段の露出補正をかけてるとバカみたいなので、ハナからカメラや露出計にセットするフィルム感度を1段低くしちゃう。 つまりISO感度400のフィルムなら200のフィルムとして扱ってしまう。 この時の200をEI200とかって呼んでいるんですね。

さて、ここまではOKかな? ではでは次へ進みます。

同じISO400のイルフォードデルタ400プロフェッショナル
(イルフォードの資料から)
chara_delta400
今度はグラフの線のカタチに注目してみます。 さっきの400プレストと微妙にラインが異なりますよねぇ。
400プレストのグラフの特長は、途中できゅぅっと曲がっている所。 こちらデルタ400も途中で曲がってますが、曲がり始めがずっと後の方になってからなのが分かるかな。
先ほどの方法で使える分(シャドウからハイライトまで)をグラフに当てはめてみると、400プレストでは丁度その範囲の中間くらいから曲がっていきます。
中間から左では真っ直ぐに上向き、中間あたりでやや曲がって、その後はやや緩やかな傾斜で推移しているわけです。 こうしたラインは、良く増感特性に優れると称されるフィルムに多く見られるのではないかと思いますが、心当たりありませんか。 コダックTri-Xなどがコレに似たラインじゃなかったかな。
増感(現像時間を長く)しても、中間部分から上は寝ているのでハイライトが飛ばず、シャドウから中間調にかけての階調表現は失わないワケです。
ただし、撮影時にちょっと失敗して露光量が多すぎた(露出過多)なんて場合、シャドウから中間調まではスムーズなのに中間調以上でラインが横に寝ているため、いわゆるネムイ写真になってしまいがち。
ハナシが400プレストになってしまった・・・ここにはデルタのグラフを載せたんだから、ハナシを戻そう・・・。
デルタのグラフは、やっぱりよく見るとスタートしてから終わるまでが一直線ではなく滑らかに変化して、段々と寝て行っているのが分かるかな。 最後の方のホントの濃い部分では寝方が急になってる。
このデルタ400も、やっぱり増感特性に優れると称されているフィルムなのです。 ただし、中間調をまたいでのトーンセパレーションの自然さでは400プレストに優るだろうと、このグラフからも読みとれるわけ。 比較するとハイライトが飛びやすい、とは言えるけれどね。キレは出る。

イルフォードHP5+
(イルフォードの資料から)
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ISO400クラスのフィルムが続いたのでもう一つついでに。 こちらはスタート地点からどこまでも真っ直ぐタイプ。
HP5+はISO400ですが、こうした真っ直ぐな特性曲線はISO100の中庸感度以下のフィルムに多く、100デルタ、100アクロスなど新しいフィルムはもちろん、古くからあるフィルムでもよく見られます。
被写体の輝度幅に関係なく、配分が相応なら階調表現は自然になりやすいとボクは思います。 自然光で撮る場合に向いているのではないかな。
逆に、人口光源が画面に入りやすい夕方から夜間にかけての撮影では、ハイライト付近が寝てくるフィルムよりも光源付近が白飛びしやすくなると言えます。
増感現像する場合の多くは低照度下の撮影ですから、つまりは人口光源が画面に含まれるケースが多いわけで、そうした意味で増感には使いにくいのではないでしょうか。

さてさて、ここまではOKかな? ではでは次へ

富士 レンブラントV G2
(富士写真フイルムの資料から)
rembrant
今度は印画紙の特性曲線です。 様子はフィルムのと似てますね、濃度は透過濃度ではなく反射濃度(印画紙上の黒の濃さ)になってまして、縦軸の上に行くほど濃くなります。つまりシャドウ部分。
横軸は露光量で、右に行くほど多い、つまりシャドウ部分。 ネガの薄い部分の方が光が多く通り抜けるからね。
ここで、反転画像だったネガを通り抜けた光が印画紙に当たって、印画紙を現像するとまた反転するってところがヤヤコシイけど。
さて、グラフの線を見ると、シャドウ部分の端っこもハイライト部分の端っこも、フィルムのグラフにくらべてハッキリクッキリと曲がって急激に寝ているのがわかるかな。 中間調のクッキリ感はしっかりありながら、ホントのディープシャドウやバリバリハイライトは飛ばず潰れず、ねばり強く描写する美しい黒白プリントはこの特性曲線が生み出すのです。 デジタルカメラの画像と銀塩プリントの品位の差はこんな所からも生まれるのだ(と言ってみる)。
さて、富士のレンブラントV G2はノーフィルターで2号となるので、たくさん線のあるグラフの一番左、ノーフィルター(2号相当)の線を注目しておきましょう。

オリエンタル ニューシーガルG2
(サイバーグラフィックスの資料から)
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続きましてはバライタ紙の傑作と呼ばれ愛好家も多いオリエンタルの号数印画紙です。レンブラントG2と比較できるよう同じく2号ね。
こちらは固定グレードの印画紙なので、フィルターによる違いではなく現像時間による違いを示すために線がいっぱい書いてあります。 本題とはそれるけど、現像時間を短く切りつめる(その分露光は多くしておく)と軟調になるのが分かるでしょ。 フィルムの減感と同じです(ニューシーガルGは廃盤でニューシーガルGFという製品が現行なんですよね。GFはGとはかなり異なる印画紙なのでご注意を)。
それはさておき、2つのグラフで見比べたいのは曲線のカタチです。
よ~く見てね、違うでしょ?
あ、確認のためもう一回言っておくけど、グラフの縦軸で下がハイライト部分、上がシャドウね。
レンブラントのノーフィルター(2号相当)と、同じく2号のニューシーガルでは、ハイライト部分のカタチはよく似ていてあんまり違いがわからないけど、中間調から下(グラフでは上)では全然異なる性格の印画紙だって事が分かるんでないかな。
ニューシーガルでは上も下も(ハイライト方向もシャドウ方向も)似たような曲線になっているのに、レンブラントではシャドウの方はビビ~と真っ直ぐになってるのが急激に曲がって終わっちゃう。 と言うことは、この2つの印画紙ではディープシャドウから中間調にかけての表現はかなり異なってくるのだ。
これはどっちが良いとか悪いとかではなく性格の違いなので、表現意図によって使い分ければ宜しい。 ディープシャドウまで滑らかに描きたければニューシーガル、シャドウをキリリと引き締めていくならレンブラント、みたいにね。
レンブラントの方は多階調印画紙だけど、フィルター使用でコントラストそのもの(ISOレンジ)だけでなく、曲線のカタチも違っているのにも目を付けよう。
ちなみに、一般的に多階調印画紙はシャドウ・ハイライトの両端近くでカクンと線が曲がり、ニューシーガルのような固定号数印画紙では弧が大きく滑らかになっています。 その辺が「多階調印画紙は便利だけどやっぱダメだね」などと言われてしまうところなんでしょうね。

さて、フィルムと印画紙、双方の特性曲線を軽く見てみたわけだ。 当然、この2つの組み合わせと言うことも考慮したくなるのが筋でしょう。
今回例に挙げたのは、フィルムでは中間調からハイライトに掛けてが異なる400プレストとデルタ400だったよね。 印画紙ではシャドウから中間調に掛けてが異なるレンブラントとニューシーガルだった。
では、中間調からハイライト方向の階調が寝てくる400プレストと、シャドウから中間調の階調が起きあがっているレンブラントを組み合わせるとどうなるか。 言うまでもなく、中間調を挟んで双方の性格が増長され、中間調付近でカックンと曲がったトーンセパレーションになる。 ディープシャドウからギュ~ンと伸びて、途中からふにゅぅっと平らになるわけだわね。
400プレストとニューシーガルの組み合わせだと、レンブラントに比べるとシーガルがシャドウ方向を滑らかにするから、プレストの滑らかなハイライト方向と合わせることで全体が整ってくる。良い悪いは別としてだヨ、念のため。
あくまでもボクの好みのハナシだけれど、さっきのフィルムの例で言うとHP5+のような、どこまでも直線タイプ(アクロスとか)ではニューシーガルとの組み合わせだと暗部の締まりが物足りなく感じてしまう事が多いなぁ。

まぁココではかりやすくするために極端なハナシをしているわけだけれど、特性曲線の異なるフィルム、異なる印画紙を組み合わせることで、単に現像を増やしたり減らしたりでコントラストを調整するだけではなく、同じコントラスト(輝度差)の中でも、その性格を変えることが出来るっていうわけ。
やり方は簡単で、ただ別の印画紙を買ってくればいいんだから、興味が湧いたら是非お試しを。
なんで他の人はいろんなフィルムや印画紙をとっかえひっかえしてるんだろう、何が不満なんだろうと疑問に思っていた人、多いんじゃない?
ただなんとなく不満なだけじゃなくて、表現のためのこうした目的もあるんですねぇ。