ライトバリューとエクスポージャーバリュー

このサイトがモノクロ写真に特化した内容なので、いちおうモノクロ写真入門の一部として書きますが、モノクロであるとかカラーであるとか、あるいはデジタルであるとかには関係ない、写真のホントの基本的な説明です。
ホントに基本的な内容なので申し訳ないぐらいなのですが、カメラの進歩で露出決定の自動化が進んではやウン十年。もしかすると、実はよく分かってなかったという方がおられるかも知れないのでもう一回整理してみたいと思います。 告白すれば、ボクも写真をやり始めてからしばらくは全然判ってませんでしたから。

エクスポージャーバリュー(EV)というのは必ずと言っていいほど聞いたことがあると思います。 おそらくは、カメラに付いている露出補正ダイヤルや液晶表示、あるいは写真雑誌の作例や記事のなかで、露出補正マイナス○EVとかプラス○EVとか。そんな感じで使われているのではないでしょうか。
例えば、露出計の指示値がシャッター速度250分の1で絞りf5.6だったとき、それより1段フィルムに当てる光の量を減らすことを1段のマイナス補正、あるいはマイナス1EVの補正、なんて言いますよね。 具体的には、シャッター速度を250分の1秒ではなく500分の1秒にする。あるいは絞りをf5.6ではなくf8にすることを言っています。
んでもって、このEVという言葉が出てくるのがほとんどこの露出補正まわりだけなので、EVというのが実際なんなのか、何を表している単位なのかが分かり難いのではないかと最近考え始めました。
少なくとも、1EVが絞り1段やシャッター速度1段と同じだけの量だというのは判るはずなのですが。

1単位は光が倍か半分
写真撮影には、それにまつわるいろんな単位があってヤヤコシイです。 シャッター速度は何分の何秒、絞りはfいくつ、感度はISOだのEIだので、さらにEVというのも出てきます。
しかし、非常に巧妙に出来ているのも写真に使われる単位でして、どれも1段という区切りが設けられていて、そのどれもが1段上や1段下とは倍か半分という仕組みになっています。
例えばシャッター速度。1/125秒の次は1/250秒、1/125秒の手前は1/60秒。 割り算すると端数が出ますが、大体のところで丸めて2倍や半分の値が設けられています。シャッター速度は時間を意味しますので、1/125秒間フィルムに光が当たるのと、1/250秒間フィルムに光が当たるのとでは倍の違いがあるわけです。それぞれの差をシャッター速度1段と称しますよね。
絞り値は、f4の次がf5.6、その次がf8など。見た目の数字は半分や倍ではありませんが、これは絞りというのが面積を表しているためで、レンズを通り抜けてフィルムに当たる光の量は、f4の半分がf5.6、そのまた半分がf8になります。これも、それぞれの差を絞り1段と言います。
フィルムの感度は光に対する反応の強さみたいなもので、ISO100の倍がISO200、その倍がISO400と単純。やっぱりそれぞれをフィルム感度1段です。
つまりどの値も、光について倍か半分、そしてそれを1段と言うわけです。 ちなみに英語では “stop” です。

ライトバリュー
EVに似ているけれどあまり目にしないのがLV(ライトバリュー)という言い方かもしれません。それと、BV(ブライトネスバリュー)。
これも光を表していて、やっぱり倍か半分が1段です。 ただし、カメラのシャッター速度や絞り、フィルムの感度とは別個に、実際の光の量(明るさ)を表しています。写真撮影ですから、被写体の明るさ(被写体に降りそそぐ光の量)と言ってしまえば判りやすいですね。
明るさの事を、○ルクスとか、○フートカンデラという単位で表すのを聞いたり見たりした事があるかと思いますが、それらを写真での単位のように表したのがBV、写真で使い易い基準値がLV、と言うように考えていただければよいのではないかと思います。 とある明るさを、LV10とかLV16といった数字で表すのです。 よく晴れた日の普通の景色ならLV14くらいでしょう。
実際問題、カメラや露出計が測る光の強さというのはまずこのLVに置き換えられます。 露出計やカメラで測光するとシャッター速度と絞り値、あるいはEV値が表示されますが、もともとの値はLV。 それを撮影に使い易いように、シャッター速度と絞り値、あるいはEV値にさらに置き換えているだけなのです。
LVは被写体の明るさですから、実際に測るか、あるいは普通はこれくらいという基準を知っておく必要があります。
先ほど普通に晴れた日はLV14くらいと書きましたが、ちょっとだけ曇ってたらそれより1段少ないLV13、曇りならLV11~12、夕方頃や明け方などならLV8~10程度。夜の室内ではぐっと少なくLV5~6くらいかも知れません。
実際にいろいろな状況を測って経験的に覚えるなら、露出計なりカメラを使ってもLVを知ることは出来ます。 ただし、撮影時に測るのであれば露出計もカメラも計算した後のEVや、シャッター速度と絞りの組み合わせを表示してくれるわけですからあまり意味はないですけどね。
逆に言うと、大体のLVを知っておけば、露出計が無くても大体のシャッター速度や絞り値を決められてしまうという事になります。

エクスポージャーバリュー
実際の光の強さ明るさを示す値はLVだと書きました。 ではEVは何かというと、そのLVを撮影するための露出調整値だと表現すれば判りやすいかも知れません。EVの値だけ、フィルムに届く光の量を減ずるのです。

さらに判りやすく言いますと、例えばLV15の明るさを適正露出としてフィルムに当てる(露光する)には、EVも同じ15にすれば良い、という事。
LVとEVが一致するのがいわゆる適正露出というか、露出計やカメラが表示するシャッター速度や絞り値というわけです。 その一致している状態をどれくらいズラすか、というのがマイナス○EVとかプラス○EVという露出補正だと考えれば、このEVというのが理解しやすいと思います。
また、撮影される被写体が持っている光の強さがLVで、撮影するカメラ側が担っている値がEVだと言うこともおわかりになるかと思います。
つまり、ぶっちゃけて言えば、カメラ側にある「光を少なくする」単位は全部EV。シャッター速度1段も1EV、絞り1段も1EVです。

シャッター速度と絞り値のEV
LVとEVを一致させるためには、それぞれの値の基準値がわからないといけません。 LVは被写体の明るさですから、測るか、大体の所を知っておくかです。
一方、カメラ側の「シャッター速度」と「絞り値」には、ゼロから始まる値があります。
シャッター速度は1秒がEV0です。
絞り値はf1.0がEV0。

EV表

これを組み合わせると、次のような表になります。

EV換算表

先ほど、よく晴れた日の景色はLV14くらい、と書きましたが、同じくEVを14とするには、例えば絞りf11でシャッター速度が1/125秒。あるいは、絞りf5.6でシャッター速度1/500秒です。
しかし、ここではまだ、撮影対象の明るさと、絞り値とシャッター速度しか考慮していません。
もうひとつ、フィルムの感度、というのが加わります。

フィルム感度はISO100がEV0となります。ただし、被写体の明るさ(LV)とフィルム感度はどちらも数値が多い方が光の量が多い<事>になると言う点で、絞りとシャッター速度とは逆向きの値としてグループ分けをすると考えやすいでしょう。
フィルム感度が、ISO100の倍のISO200であれば、先の例だと、LV14に1を加えた15の明るさがある、というように考えて、EV15で適正露出ということになります。
(適正露出の定義は、ここでは<一般に>というカッコつきにしておきますね)

足し算と引き算
さて、シャッター速度が1秒の倍の速さ、つまりフィルムに当てることが出来る光の量が半分になる1/2秒ですと、EV1です。1/4秒ではEV2、1/8秒でEV3と続きます。
絞りがf1.0より1段絞られてf1.4となるとEV1、f2.0はEV2、f2.8はEV3です。
フィルムの感度はちょっとトリッキーで、感度が倍、つまり1段高くなると相対的に被写体がより明るいと見なせますので、ISO200はLV+1と考えた方が理解しやすいです。ISO400ならLVに+2です。
実は、露出計やカメラにフィルム感度としてISO100をセットし、シャッター速度1秒で絞りf1.0が表示されてたら、測っている被写体の明るさはLV0です(あんまりありませんが)。
単体露出計ではデジタルタイプでもEV値表示が出来ますが、感度にISO100をセットして測った値はLVそのものとなりますし、ISO400ならばLV+2がEVとして表示されるのです。
具体例を挙げれば、普通に晴れた日がLV14の明るさで、フィルムの感度がISO400だったとします。フィルムが持っている値は2ですから、LV+2で合計は16です。
適正露出を得るには、このLVにフィルム感度から来る値を加えた結果のEV値に、シャッター速度と絞り値のEV値を一致させればいいわけです。
先ほどの例ではLV14+2でEV16となりました。 仮にそれを半分ずつシャッター速度と絞り値に割り振ってみると、1/250秒とf16となります。
シャッター速度1秒から数えて8段が1/250秒、絞りf1.0から数えて8段がf16だからです。 8+8=16というわけ。
これは別に8+8でなく7+9でも12+4でも構いません。合計が16なら適正露出です。 10+6=16という計算なら、シャッター速度1秒から数えて10段目、絞りf1.0から数えて6段目で、1/1000秒とf8ですね。フィルムに届く光の量は1/250秒とf16と同じです。

ポイントを差引きしてゼロに
要するに、LVにフィルムの感度を足した値と、シャッター速度と絞り値を足した値が一致すれば適正露出というわけですし、LVとフィルムの合計値からシャッター速度と絞り値を引いて、残りがゼロになれば適正露出という言い方も出来ます。
普通EVを言うときは、先のようにLVにフィルム感度を加味したEVと、シャッター速度と絞りの合計EVを一致させるという考え方をします。
そのためか、露出計内蔵のカメラにせよ単体露出計にせよ、まずはフィルム感度をセットする事になっているはずです。オートのカメラならDXコードをカメラが読みとって自動的にセットされますしね。
しかし、特にモノクロ写真でフィルムの感度というと、実際の感度の他に現像などで変化させる撮影感度(EI)が重要ですし、またそれが自由自在であるというのも特徴です。
もちろん、ゾーンシステムなどに代表される最大限に階調再現を優先した場合には、フィルムの感度というのは実感度として固定されてきますが、一方では増感現像で2段も3段も押すことがあるわけです。
そこで、モノクロ写真ではちょっと考え方を変えて、LVに対して差引ゼロにするという見方を取り入れてみたいと思います。

ポイント表
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この表のポイント0は感度、シャッター速度、絞りともEV0となる値です。
そこを基点にして、フィルム感度が1段上がればプラス1点、シャッター速度を1段速めればマイナス1点、絞りを1段絞ればマイナス1点です。 被写体の明るさであるLVだけがこの表にはありません。

試しに使ってみます。
夕方頃でLVは8、撮影感度はEI200、シャッター速度1/60秒とします。
LVの8ポイント + 感度が+1ポイント – シャッター速度で-6ポイント。差引は3ポイントですから、絞りを-3ポイントにすればトータルでゼロになりますのでf2.8です。 これはシャッター速度優先ですね。

逆に絞り優先で考えると・・・。
夕方頃でLVは8、撮影感度はEI200、絞りf2.8とします。
LVの8ポイント + 感度が+1ポイント – 絞りで-3ポイント。差引は6ポイントですから、シャッター速度を-6ポイントにすればトータルでゼロになりますので1/60秒です。

別の考え方も出来ます。
夕方頃でLVは8、絞りf2.8でシャッター速度1/60秒とします。
LVの8ポイント – 絞りで-3ポイント – シャッター速度で-6ポイント。差引はマイナス1ポイントですから、撮影感度で+1すればゼロになりますのでEI200となります。

最後の、撮影感度を後回しにする発想はカメラ内蔵の露出計を普通に使っていると出てきません。単体露出計では操作によってこうした順番での考え方を出来ますが、あまり一般的ではありませんね。
なぜこんな事をするかというと、例えば、薄暗い屋内で何かを撮影するとしましょう。 例えば人物かも知れませんが、絞り値というのはレンズの限度もありますし被写界深度の都合もありますからある程度の範囲を使う物です。ここではf2.8にしましょう。
シャッター速度も同様で、カメラブレや被写体ブレを防ぐためにある程度の速度が必要です。1/60秒としておきます。
被写体の明るさ、つまりLVが小さく、4しか無かったとします。 キャンドルライトに照らされた彼女のポートレートってな感じでしょうか。
そんな時フィルムは何を使えば良いのか、あるいは撮影感度はいくつにすれば良いのかが差引ゼロの考え方で判ります。
あるいは、まずはそのシャッター速度と絞り値で撮影してしまっても構いません。 いざ現像する際になって撮影感度がいくつ「だった」のか、つまりどれだけ増感すればいいのかが判ります。 実際のところ、シャッター速度も絞り値も明るさに関係なく決めちゃっているわけですし、被写体の明るさはそもそもそこにあるだけなので、こうした低照度下撮影で撮影感度というのを撮影時に云々しても意味がないんですね。あとで計算しても構わないんです。
さて、それはともかく、LV4、1/60秒、f2.8でした。
LV4 – 6 – 3 = -5ポイントです。差引ゼロにするための感度は3200、というのがすぐ判りますでしょ。フィルムがなんであれ、3200まで増感しちゃえば良いわけです。もちろん、そういう撮影だと判っていたなら増感しやすい高感度フィルムをカメラに装填しておくべきですけどね。

スナップシューターに露出計は不要?
モノクロ写真愛好家にはストリートフォトなどのスナップシューティングを楽しむ方が少なくありませんよね。
正直言って、スナップにはフルオートのAEカメラの方が適しているとボクは思います。新しい多分割評価測光を備えたカメラが理想だと個人的には考えています。
ですが、マニュアル操作のセミクラシックなカメラでストリートに出るのもまた、モノクロ写真の楽しみ方のひとつだと思います。
残念なことに、そうしたカメラは露出計を内蔵していないことが多いですよね。 ボクの持っているカメラでも、露出計のないカメラはいくつかあります。
そうした場合、カメラの他に単体の露出計を使うのが一般的。 露出計で緻密に測光してもいいし、時々測って大雑把な露出でもいいでしょう。
しかし、ポケットやカメラバッグから露出計を取り出したり仕舞ったりというのも面倒くさい。あるいは、そんなことやってるとシャッターチャンスを逃しちゃったり。
実のところ、緻密な露出や階調再現よりも速写性というか気軽さを優先したいのもスナップシューティングではないでしょうか。
もし、標準的なLVが大体わかっていたなら、露出計なんて使わなくても構わないんじゃないかと思いませんか。 その昔、ボクが初めて手にしたカメラには露出計がありませんでした。 露出はフィルムのパッケージ書かれていた晴れの日はいくつ、曇りではいくつっていう大雑把な指標だけで決めてました。それでも写真は撮れたんですよね。
あれは言うまでもなく、晴れの日はLVがいくつ、曇りの日はLVがいくつっていうのを基準にしているわけです。
実際、現在のネオパン400プレストのデータシートを見ても、ISO400での標準撮影の場合には、快晴でf16と1/500秒、晴でf16と1/250秒といった事が記載されています。

サニーシックスティーン
この言葉を知っておられる方は多いと思いますが、これは晴天順光での絞り値を言っています。 良く晴れた日の順光であれば、シャッター速度「1/感度」で絞りf16が適正露出になるという事を表しています。 先のネオパン400プレストのデータシートで言う、快晴での露出と全く同じです。
絞りをf16にして、フィルムの感度が100なら1/125秒、200なら1/250秒、400なら1/500秒、800なら1/1000秒という風に、1段単位で丸めて使います。
絞りf16はEV8で、感度の100はゼロ、1/125秒はEV7。つまり晴天順光時のLVは15というのを置き換えて言っている事になります。 当然、感度が1段上がればシャッター速度を1段上げることになります。
晴天でも順光でなはなく、横から日射しがあたっているなどであれば、LVは15ではなく標準的な晴れの日である14とみていいでしょうから、絞りをf8にするなりシャッター速度を1段遅くするなりで調整します。
ちょっと雲があるとかならもう1段、曇り空ならさらにもう1段か2段でしょうか。

ネオパン400プレストのデータシートにある「露光ガイド」をLVに置き換えると次のようになります。
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この表の大体のところを覚えちゃうか、撮影感度に合わせて簡単なアンチョコを作れば、気軽な撮影に露出計なんて要らないかも、ですね。

どうでしょうか、これらは写真の基本中の基本でしたが、あらためて見直してみると、あ、そういう意味だったのか、なんて思い当たったりしませんか。
なにも、いちいち計算しましょう、という話ではないんです。露出計を使った方がいいに決まってます。
ですが、こういう考え方なんですよ、ということだけは、しっかりと理解しておきたいところです。