カラーネガフィルムの自家現像

tokyo-photo.netはモノクロ自家処理情報サイトなので本筋からは逸れますが、ボク個人的に最近はカラーネガ現像やカラープリントを楽しんでいるので、ちょっとだけ。ボクのブログにもカラー自家処理に関する検索結果からお越しになる方が増えているようですので、参考までにまとめておきます。

ネガで撮ろう
まず最初に、基本的にボクはカラーと言ってもリバーサルはやりません。 なぜなら、モノクロに関しても言っていますが、あくまでも最終出力はプリント、しかもウェットプロセスによるプリントが目的ですから、スライド投影やフィルムスキャンからのデジタル出力などには興味が無いんです。
そんなわけで、リバーサルフィルムファンの方には申し訳ないですが、本来プリントを目的にしていないリバーサルフィルムには魅力を感じません。 これは単なる食わず嫌いではなく、ボク自身しばらくの間、毎月20本も30本もリバーサルで撮っていた経験を経た上での見解です。 当時撮り溜めたスライドは、今では何の役にも立ってませんし、邪魔でしょうがない。 一方で、それ以前に撮り溜めていたカラーネガは、最近は楽しいプリント素材として活躍しています。
繰り返しになりますが、写真はプリントあってこそ。 そしてもちろん、ウェットプロセスに限ります。 機械からジーコジーコ出てくるインクジェットプリントなんて・・・あんなのをプリントと呼ぶ事すらアホですね(きっぱり)。
それに、メディアを値段で選ぶわけではありませんが、カラーネガフィルムは比較的安価。 最新最高性能の120フィルムでも500円くらいとリバーサルの半分。 35ミリの特価品だと1本100円なんてのもザラにあります。
そしてもちろん、フィルムの自家現像も簡単。 モノクロネガの現像がある程度出来る方なら楽勝です。 プリントも同様で、モノクロプリントが出来るなら、カラープリントもそんなに難しくはありません。

フィルムはモノクロとどう違うか
初歩的な事ですが、決定的に違うのは、ほとんどのモノクロネガフィルムは銀で画像を形成するのに対して、カラーネガフィルムは色素で画像を保持するという事です。
最近は流行語のように「銀塩写真」とひと言で言いますが、両者は決定的に異なります。 というのは、一般のモノクロ写真はネガもプリントも実際に「銀による画像」ですが、カラーはあくまでも「色素による画像」でしかなく、出来上がったネガやプリントには銀が残っていません。
ただし、カラーでも、色素を形成する過程ではモノクロと同じく銀画像を作っていくことになりますので、現像処理の前半部分は似通っています。

    モノクロネガの現像
    現像:感光したハロゲン化銀を現像薬で銀にする。
    定着:現像薬で銀にならなかったハロゲン化銀、つまり感光しなかった部分を定着薬で除去する
    カラーネガの現像
    発色現像:感光したハロゲン化銀を現像薬で銀にする。その副作用として、フィルム内の発色カプラーが発色現像薬と反応(カップリング)して色素を形成する。
    漂白:現像薬で銀になった部分を、元のハロゲン化銀に近い状態に戻す(再ハロゲン化)。
    定着:モノクロと同じで、現像薬で銀にならなかったハロゲン化銀、つまり感光しなかった部分と、漂白処理で再ハロゲン化された部分の両方、つまり全ての銀を除去する。

要するに・・・

    1) カラーネガフィルムには発色カプラーという色素の元が埋め込まれていて、現像段階ではそのカプラーと反応する発色現像液を使う。
    2) 最終的に銀による画像は不要なので、定着処理の前に漂白と呼ばれる工程で全ての銀を定着で除去出来る状態に整える。

という2点が、モノクロネガ現像とは異なるわけです。

カラー現像は一定条件か
モノクロネガでは、フィルムと現像液の組み合わせにより、現像液の希釈率や温度、現像時間などが実に様々に異なります。 違うフィルムを使えば、現像はそれぞれのフィルムにあわせて調整する必要があるわけですし、コントラストを下げる、上げる、鮮鋭度を上げる、微粒子化を進めるなど、目的に応じてもさまざまな現像条件を駆使します。
この様に、モノクロでは、全く同じ現像条件で同じ結果を得られるフィルムの方が少ないくらいですが、カラーネガフィルムでは、さまざまに個性を持ったフィルムが存在するにもかかわらず、現像条件はみな同じです。

カラーを再現するには三原色を組み合わせる事になりますので、カラーネガフィルムは最低でも3色分の画像層が別々に必要です。 しかしモノクロは名前の通りモノトーンですから、1層で間に合います。
(実際には反射防止層やらなにやらで最新のカラーネガフィルムは14層くらいの複雑な構成になっていますが、画像の基本構造としては、という意味です。また富士フィルムの最近の製品は4色構成になっています。)
この点も大きな違いのひとつで、モノクロでは1層だけを相手にしているので話が単純ですが、カラーの場合は色ごとに層が分かれているため、現像段階での処理時間に自由度が低くなります。 というのは、フィルムのベースに近い層とフィルムの表面に近い層では、現像の進行に違いが生まれるからです。
現像タンクに現像液を注入すると、先にフィルムの表面に近い層から現像液と接触し現像が始まります。それから液がフィルムの層の中に染み込んでいってようやく、ベースに近い層の現像が始まる事になります。 全ての層で、まったく同じタイミングで現像がスタートするわけではないのですね。
また、フィルムベースに近い側の層(内側の層)は、外側の層の現像に使われて疲労しつつある現像液しか届きません。 現像中に攪拌をしても、常に新鮮な現像液が表面を現像、表面を現像しながら浸透していき、ある程度疲労した現像液だけが内側の層を現像するのです。
このため、モノクロで行われるように、現像温度と時間、現像液の強さと時間など様々に変化させる事は出来ません。 現像条件を大きく変えてしまうと、外側の層と内側の層の現像具合のバランスが崩れて、つまり色のバランスが崩れてしまうのです。
そうした事がないよう、カラーネガの現像では現像条件を一定にして、その現像条件を前提として発色が狙い通りになるよう、さまざまにフィルムが設計されています。
モノクロではまずフィルムありきで、そのフィルムとさらに目的に応じて現像を多様に変化させますが、カラーはまず現像処理条件ありきで、フィルムの設計がその同一の条件を前提にしているわけ。
これが、カラーの現像は処理が正確でなければならないと言われる由縁です。 そしてもちろん、カラーネガフィルムであればどのメーカーのどの銘柄も、自動でどんどん現像出来るようにするのが目的でしょう。世界中どこでも、ね。
しかし言い換えれば、少々カラーのバランスがズレても構わないのであれば、カラーネガの現像にもある程度の自由度はあるとも言えます。 増感現像も出来ますし、処理温度を下げて時間を延長する事も出来ます。 ただしカラーバランスが若干ズレてしまう、というわけなのです。
その「ズレ」が許容範囲なら、あるいは「ズレ」が好ましいなら、なにも厳密に現像条件を遵守しなくても構いません。分かりやすく言うと、少々の現像過多や現像不足があっても、プリント時になんとか補正出来る範囲に納まるのなら、それは問題ないと言えるのであり、また、わざとカラーバランスを崩した表現というのも当然アリだろう、という意味ですね。バリバリに増感してコントラストが高くてカラーバランスが崩れて粒子も荒れてるカラー写真って、結構格好いいですよ。
それはさておき、いずれにしても、どのメーカーのどの銘柄のフィルムでも現像条件が一緒というのは、ある意味で手軽にあれこれ楽しめるという事でもありますね。 モノクロですと、フィルムの銘柄ひとつひとつによって、それぞれに合った現像条件をテストしたりしなくちゃなりませんし、違うフィルムや違う撮影感度だったら別々に処理しなくてはなりませんが、カラーネガならISO100の超微粒子フィルムも1600の超高感度フィルムも同じタンクで一緒に現像しちゃって良いわけです。こりゃ楽です。
余談 ~ カラーとモノクロの違いを理解するための余談です。

Q)カラーネガフィルムを、モノクロネガフィルムと同じ現像処理するとどうなるか。

    A)現像段階で銀画像が出来、モノクロ現像では漂白はしませんからちゃんと残ります。 ただし発色現像はしていないので色素は生成されず、銀によるモノトーンだけです。要するに普通にモノクロ現像出来ちゃう。
    ただし、出来上がったネガはカラーネガフィルムとしてのオレンジマスク(ベースがオレンジ色)がありますので、これからモノクロプリントしようとするとかなり難儀します。 オレンジマスクの濃度分、露光時間が非常に長くかかってしまうからです。 さらに多階調印画紙では、投影光のオレンジ色がコントラストに影響しますので難物です。
    ちなみに、このネガを漂白処理して水洗し、発色現像するとカラー画像を得られます。

Q)モノクロネガフィルムを、カラーネガフィルムと同じ現像処理するとどうなるか。

    A)現像した段階で銀画像が作られるが、フィルムに発色カプラーが入っていないので色素は形成されない。漂白処理で銀画像は元に戻され、定着で全て除去されるので、結果的にはまったくの素ヌケになる。その後はもう何も出来ません。

Q)カラーネガを、発色現像後に漂白せずに定着するとどうなるか。

    A)発色現像はされていますが現像された銀画像も残り、銀によるモノクロ画像が色素によるカラー画像に重なるため、見かけ上の発色が非常に大人しく高コントラストの画像になります。その程度を調整するため、漂白を途中までやるなどのテクニックもあります。 こうした処理をブリーチカットと書いているのを見た事がありますが、ボクの知る限りでは英語圏ではブリーチバイパスと呼んでいたはずです。映画などでも使われる事があるテクニックで、日本語では「銀残し」と言うそうです。
    ちなみに、このネガを漂白処理して再度発色現像するとカラー現像がダブルで高彩色に。あるいは漂白して定着すると、ごく普通のカラーネガになりますね。

C-41処理
余談でホントに余計な事を書いてしまいましたが、本題に戻って。
というわけで、カラーネガフィルムの現像は、ほぼ統一された規格に基づいています。 それが一般に「C-41」と呼ばれる現像処理です。
これはコダックの規格で、他には富士のCN-16などありますがほぼ同じですし、相互に乗り換えてもほとんど変わらない(厳密には若干の違いが出る)結果を得られますので、ひとまとめにC-41と呼べば間に合います。 また実際、カラーネガフィルムの事をC-41フィルムと呼ぶ習慣すらある程です。
ちなみに、カラーリバーサルフィルムの現像処理はE-6、ですよね。

先に述べたような理由で、現像処理はとある一定の条件に沿って行われる事が前提になっています。 しかし、発色現像の後の処理、つまり漂白や定着、さらには水洗といった部分には自由度がありますので、C-41処理にも派生型が存在します。

    基本形はC-41で、発色現像、漂白、水洗、定着、水洗、安定剤の順で処理が行われます。

    水洗を省く事で処理時間を短縮したC-41Bは、定着液の処理時間を短くし、水洗の代わりに安定剤3浴で済ます方法です。 フィルムを洗わずに、残留する薬品の影響を安定剤によってカバーしていますので、この安定剤は旧来のC-41用の安定剤とは種類が異なります。
    C-41RAはさらに処理の迅速化を目的にした処理工程で、漂白や定着に使われる薬品はC-41Bよりも強力で短時間で処理が完了します。 45分や30分にとどまらず、15分で同時プリントまでやってしまう超迅速処理はこうした強引な方法で実現されるわけです。現在では、ほとんどの一般向けミニラボがこの”B”や”RA”処理を採用しているはずです。 水洗を行わないので水資源の節約にもなりますが、ネガの保存性を懸念する声もあるようですね。

余談
モノクロでは一般的にはあまり使われないので馴染みがないのが漂白。モノクロでも、上級テクニックではかなり頻繁に使うのですけどね。
漂白という呼び方がやや勘違いしやすいのですが、繰り返しになりますがカラー現像で言っている漂白というのは、定着処理の際に全ての銀を除去出来るよう、現像された銀を元に戻す処理です。ホントは元に戻すと言ってしまうと正確ではないのですが、定着液で除去出来るという意味で元に戻していると考えてください。 誤解を招かないように上手く説明するのが難しいので、ここはさらっと流して置いてくださいね。
漂白は、英語ではブリーチ(Bleach)と言い、これはご家庭の洗濯や洗剤でも同じように使っている言葉なので馴染みがあると思います。もちろん違う薬品ですけど。
ちなみに定着はフィックス(Fix)で、定着液はフィクサー(Fixer)。先ほど出てきた漂白と定着を同時に行う処理液は漂白定着液、英語ではBleach Fixですが、両方を合わせた造語でブリックス(Blix)と俗に呼ばれます。

カラーネガ現像は単純か、複雑か
カラーネガ現像について書かれたアマチュアのホームページなどで、ときどき、カラーネガ現像は2液式なのでモノクロよりある意味簡単、という言い方を目にします。
これは誤りか、誤りというのが言い過ぎなら詭弁でしょう(どっちもどっちか)。
確かに、ナニワカラーキットNなどは「発色現像」「漂白定着」の2浴に続いて水洗すれば完了ですし、モノクロネガの現像をメーカーなどの推奨条件で行うなら、「現像」「停止」「定着」「予備水洗」「水洗促進剤」「水洗」といった工程になります。
しかし、これまでにも述べたように、カラーネガ現像は発色現像の後に漂白、水洗、定着、水洗というのが本来の工程であり、「漂白定着」は処理を簡略化するための方法でしかなく、ロスも多いのです。実際、漂白液と定着液を一緒にするのは薬品の性格上なかなかスムーズではなくて、安定性に欠ける面があります。本来、別々になら簡単に処理出来るだけの量を、一緒になりにくい薬品同士の相性を合わせるためのロスに阻まれてこなす事が出来ません。
ですので、先のモノクロネガの処理工程と同じくらいの感覚できっちりわけるなら、「発色現像」「停止・水洗」「漂白」「水洗」「定着」「水洗」、そして「安定剤」というのが加わります。
逆に、モノクロネガの現像工程をナニワカラーキットNくらいの感覚で単純化するなら、これも「現像」「定着」そして水洗です。停止は必須ではありませんし、水洗促進剤もです。
モノクロで、現像と定着の間に停止というのを入れるのは、現像を速やかに停めるためと、定着液の処理能力を落とさないよう、定着液に現像液を持ち込まないようにするためなのですが、この事はカラー現像でも同じように言えます。
ナニワカラーキットNの指定のように、発色現像の後に水洗を挟まずに漂白定着を行えば、現像液が持ち込まれて、ただでさえ効率の悪い漂白定着液の処理能力が落ちてしまいます。 もちろん、キットでは指定の処理本数をこなせるだけの現像液と漂白定着液のセットになっていますから、それでも構いませんが、言い換えれば、現像液を持ち込んでダメになる分の漂白定着成分をあらかじめ余計に持っているだけなのです。つまり、効率の悪い処理のために無駄に薬品を消費しているのです。
ナニワカラーキットNでも、発色現像の後に停止浴を挟むと漂白定着液の処理可能本数(キャパシティ)を増やす事が出来ます。もちろん、いくら漂白定着液のキャパシティを増やしても、キットの現像液が無くなってしまえばまたセットで買う事になるのであまり意味がありませんが、少なくとも、速やかに現像を停止出来る、現像ムラをいくらか減らせる、といったメリットがありますよ。発色現像液がフィルムや現像リールに付いたまま漂白定着液をタンクに入れると、それが行き渡る過程で現像ムラが発生しやすいですからね。

カラーネガ現像は簡単か、難しいか
先に述べたように、モノクロネガ現像に比べて単純か複雑かという点では、漂白という工程が入る分、カラーネガ現像は必ず複雑になります。
しかし、簡単か難しいかという意味では、けっして難しいと言う事はありません。 なぜなら、どんなに工程が多くなっても、それぞれの工程でやる事自体は変わらないからです。 発色現像も、漂白も、定着も、どれも液をタンクに注いで攪拌し、また排出するだけの繰り返しです。 なにもモノクロ現像と違うところはありません。 単純な工程を積み重ねるだけの事です。
では、なぜカラーネガ現像がモノクロネガ現像より難しいと考えられているのかというと、これはC-41処理というのが温度や時間の管理に厳格であると思われているからです。
実際、先に書いたように、色ごとに別々の層に分かれているカラーフィルムでは、現像液が染み込んだり染み込んでいく間に疲労する分なども結果に影響してきますので、モノクロネガの現像のような自由度はありません。 しかし、少々の誤差なら大した問題にはなりません。
現に、ナニワカラーキットNでは、処理温度38度と30度の2種類の処理時間が指定されていて、どちらで大して変わらない結果を得られるはずです。 ボク自身は24度で現像した事もあります。
C-41処理では、基本になっている処理温度は37.8度で、誤差は±0.15度とされています。現像時間は3分15秒です。ナニワカラーキットNと同じですね。
なるほど、±0.15度なんて、アマチュアの現像環境では不可能です。3分15秒も短すぎて繰り返し精度を得るのは難しいです。
しかし、考えてみてください。これらC-41現像の処理マニュアルは、あくまでも自動現像機による処理を前提にして書かれているのです。 そういう設定が出来る自動現像機が相手だから、37.8度とか、±0.15度といった高い精度を要求出来るのですね。
その精度が守られないと、たしかに厳密には結果に違いが出てしまうかもしれませんが、なにもかにもがブチ壊しになるようなものではありません。 批判を覚悟して思い切って言えば、相手が機械で文句を言わないから、要求したいように要求しているだけ、くらいに考えても構いません。
なんて書くと、ナニワカラーキットNなどアマチュア用のホビー処理剤でも処理条件は厳しく書かれている、と反論されそうですね。 これらホビー処理剤の指定条件がどれくらいアバウトな物かは後でも出てきますが、厳しい指定条件はある意味言い逃れでもあると言う事を考えてもいいでしょう。 説明書に記載する条件を厳しくすれば、結果責任をかなり回避出来てしまうのが処理薬品というものでもあるのです。 これくらいは大丈夫、という書き方は、仮に大丈夫だったとしてもメーカーは書きづらいものです。
したがって、どれくらいの誤差を寛容出来るかというのは、ユーザー側の主観で判断するしかありません。 商業目的で精緻なカラー再現が必要なら、自家現像はしないでしょうし、商業写真であれば一般ユーザー向けのミニラボすら使いません。現像管理が厳格なプロラボを使うのが当たり前でしょう。 アマチュアユーザーが自家処理をしようと考えるときには、必ず、自分に必要な現像精度というのを認識しておくべきです。
そう言ってはみなさん躊躇してしまうかも知れないので、ボクの主観で言うならば、常識的な範囲で温度管理が出来れば、つまりモノクロネガ現像と同じくらいの感覚で温度管理、時間管理が出来れば、実用上とくに問題なくカラーネガ現像は出来ます。
これは、自家現像ネガから自家プリントをやっている経験からも断言出来ます。 自家プリントをしていると、機械によるプリントや自動補正の効くフィルムスキャンと違ってネガの状態が直接自分に降りかかってきますから、そのへんには非常に敏感になるものです。
ただし、モノクロでも結果に影響するような雑な管理だと、カラーネガではモノクロより始末に困るのは確かです。モノクロの方が、プリント時の自由度が高いからでしょうね
ちなみに、加えて言うならば、現像液の疲労といった要因も結果には大きく影響しますが、ミニラボなどの自動現像機では補充システムといって、使った分に応じて新たな現像液を少量ずつ加えていく方法でコストを下げています。
使った分と言っても、どれだけの銀を処理したかを逐一測る事は出来ませんから、基本的には何枚撮りのフィルムを何本処理したかで補充をします。
撮影済みフィルムは、撮影内容によって現像されるべき度合いにバラツキがあります。晴の日の屋外など露光量の多いネガや、夜中で真っ暗みたいな素ヌケに近いネガなど、さまざまありますが、それらを現像すると、現像液の疲労度合いには大きな差が出ます。
そうしたバラツキは長いスパンでは薬液の比重などを監視して調整されますが、だいたいこれくらいだろうという統計から補充量を決めているのが実際です。
もし、常に新鮮な現像液を使って、たとえば現像液は1回使い捨てにするなどで処理するならば、アマチュアユーザーがマニュアル現像した方が、管理のテキトーなミニラボで現像するより精度が高い事も十分あり得ます。 そしてこれもよく言われる事ですが、管理のずさんなミニラボというのはたくさんあるのです。

    余談
    C-41系処理の基準現像温度は37.8度です。アマチュア用のキットなどでは丸めて38度ですね。
    37.8度、なんて半端な数値を聞くと、すごく厳密だなぁと思いこみ勝ちですが、これは摂氏37.8度だと言う事を思い返してください。 華氏では、これは単純に100度なのです。
    華氏100度という区切りのいい数字を基準処理温度にして処理工程を設計し、世界的に広めるため摂氏に直して書いたら37.8度になった。というわけです。
    な~んだ、と思いませんか。
    同様に、液体の量や重さなどでも妙に精密そうな半端な数値を目にする事がありますが、その正体はガロンやポンドをメートル法に直したら半端な数字になった、というのが結構多いですね。

現像処理は、それでもまぁ、ある程度の正確さが求められます。 しかしそれに続く、漂白、定着といった処理は、モノクロネガの処理と同じくらい正確なら構いませんし、言い換えれば、モノクロネガの処理と同じくらい大雑把で構いません。 もっとも、現像が正確で、その後は大雑把というのはモノクロも同じですけどね。
モノクロと違う注意点としては、カラーの色素は強い酸性で失われてしまうという事で、そのため使用する処理液のpHには制限があります。 もっとも、現像液を自家調合するのでない限り、pH計が必要だというほどのものではありません。現像液のpHはかなり厳密ですが、これも市販の製品を使う分にはいちいち測る必要はありません。
漂白は、機械現像用の指定では温度も時間も細かく指定されていますが、コダックの資料でも、マニュアル現像の場合はかなりの誤差を許しています、定着も同様です。
というのは、漂白不足というのはあっても漂白過多というのは特に無いからです。 漂白処理は、現像によって出来上がった銀画像を元に戻す処理でしたが、全部戻すのが目的であって、途中の微妙なところで止めるわけじゃないですからね。 定着でも同じで、不要な銀を除去する処理ですが、モノクロで定着処理を極端に長くすると、本来除去すべきではない画像部分の銀まで失う事があり得る一方、カラーの場合は全部除去するのが目的なのですから構いません。
しかし、カラー画像の色素はそれほど頑丈な物ではありませんから、無駄に長い漂白処理や定着処理をして画像にダメージを与えるリスクを負う必要はありませんけどね。 常識の範囲内なら問題なし、というわけです。

要は、どれくらいクリティカルな結果精度を求めているか、という話なのです。 現像正確さ世界大会(そんなの無いけど)で上位入賞を目指すのか、それとも普通にプリントするのに困らない範囲であればOKなのか、という話でしょう。
そして、じゃぁその辺のテキトーなミニラボに現像に出したらクリティカルな結果精度を得られるかというと、それもやや疑問だと言う事も考えて良いでしょう。
一見すると超厳格なC-41処理の規定は、あくまでもそれが可能な現像機械の設定の事を言っているのであって、マニュアル現像でも必ずそれをやれとは言ってない。
ついでに書くと、コダックの公式資料でも、ロータリー現像(JOBOタンクなど)で、現像機の設定温度が38度まで上げられない場合は、現像時間を延長して調整するように書かれています。
なにがなんでも38度で3分15秒、っていうワケじゃないんですよね。 ちなみにボクは、ミニラボ用の薬品を使っても現像温度30度で5分30秒が標準現像時間です。3分15秒なんて短すぎて繰り返し精度に自信が持てません。こちとら機械じゃないんですから。

カラーネガ現像の処理液
さて、カラーネガの現像はさして難しくない事がわかったところで、処理液をどうやって入手するかです。
これには、おおきく分けて3通りあると思いますが、どれを選ぶかはその趣味性の高さ・低さ、現像精度の高さ・低さ、手間の多さ・少なさ、処理量の多さ・少なさ、そうしたものを含めたコスト、などが要素としてあるでしょう。
コストという部分では、自分がいくらなら自家現像のメリットとして考えられるかというのを明確にしておく必要があると思います。
ミニラボなどに現像のみで出すと1本300円だったとして、では200円ならどうか、150円ならあなたにとって、手間を掛けて自家現像する価値があるのか、という話です。
逆に、自分で現像すればお店に持っていく手間もなく、出来上がりを待って取りに行く必要もない、という考え方もあります。 撮影して家に帰って好きなときに現像して即出来上がりというのも自家現像のメリットです。値段だけではないんですよね。 そのあたりも含めて、ある程度考えておかないと、無駄な買い物をしたり無駄な手間を掛けてしまったりします。
そしてもちろん、自家現像だ、という楽しみも大きいでしょう。 ただし、「カラーは科学、モノクロは錬金術」なんて言葉があるように、カラーネガ現像は処理が基本的に統一されているので面白さではモノクロに劣るように思いますが。
なんにしても、自分の目的や要求を整理する事。 わりと頻繁に、この方が安いとかあっちの方がどうだとか、本質を見失った議論を目にしますけど。
それと、自家現像だと同時プリントとかインデックスプリントというのはありませんし、自分で作ろうと思ったら大変な手間暇ですから、その辺も考えた方がいいですけどね。 モノクロよりカラーネガの方が、オレンジマスクがあるせいでネガを見てもなんの写真か分かり難いです。お店で現像したときに作れるインデックスプリントは、ホントに有り難い存在なんですけどね。

    市販のホビー処理液
    海外にはいくつか種類がありますが、日本国内で一般的なのはナニワのカラーキットNでしょう。というか、今はこれ1種類かな。
    現像液と漂白定着液の2液処理で、それぞれ処理液500ml用x2セット=つまり各1リットルが入って2800円くらいで売られていると思います。 1リットルの処理可能本数は135フィルムで20本となっています。 つまり、仮に額面通り無駄なく使ったとすると、1本あたりの現像コストは140円くらいっていう事になります。それなら安いように思えます。
    ですが、この製品については、現像液の保存期間が短いので、ある程度の未現像フィルムを溜めてから使用液を作らないと無駄が多く出てしまうという声をよく目にしますね。
    しかし、使用液をペットボトルなどのクチいっぱいに入れてキャップをしっかりと閉め、冷蔵庫など低温で保存しておけば、未使用の使用液は説明書の記載よりは長持ちします。
    問題はそうではなく、ナニワカラーキットNのコスト面での問題は、1リットルの処理液で20本を現像してようやく140円というコスト計算になるという点なのです。というか、20本の処理に1リットルしか使えないという意味。あるいは、1リットルで20本と謳っているところでしょうか。
    わかりやすく言うと、1リットルで20本なら、1本あたり50mlの現像液という計算なのですが、50mlの現像液では普通にフィルムを現像出来ないのです。 径の細いステンレスリールとタンクの組み合わせでも、最低でも、225mlを1度に使わないと35ミリフィルムが全部浸かりませんよね。現像タンクによってはもっとでしょう。 つまり、1リットルで20本現像するには、同じ使用液を何度も繰り返して使わないとならないのです。1回使い捨てというわけにはもちろん行きません。
    当然、現像すると現像液は疲労して現像力が弱くなりますので、2回目以降は現像時間を延長して調整する事になりますが、どの程度延長すればいいのかというのは説明書に書いてあってもあまり当てにはなりません。
    この事の問題点は後述します。
    自家調合
    最初に断っておきますが、モノクロでもカラーでも、薬品の自家調合がコスト的に安上がりになるという事はあまり起きません。
    ボクもモノクロではかなり自家調合をやりますが、市販品と同じものを作ったらほとんどのケースで割高になるか、手間を掛けたほどではないという結果になります。 ボクが自家調合をするのは、市販品には無い特徴や性能を持った現像薬を使いたいからです。あとは勉強のためと、なにより趣味性ですね。
    メーカーは原材料である薬品を大量に安価に仕入れますが、アマチュアユーザーが自分で消化する程度の薬品を、つまり小瓶で買うと非常に割高になります。 だからといって大瓶で買うのも考え物です。
    ついつい、これのグラム単価がいくら、あれがいくらと、実際に混ぜる量だけを積み上げて、これなら十分安いなどと考えたり吹聴したりするものですが、その量を果たしてバランスよく消費するでしょうか。 あれが残った、これが余ったなんて事になれば、その分は単純に割高です。そして残念ながら、必ずと言って良いほどそうなります。 それ以上に、だいたい途中で飽きちゃったり面倒くさくなったりして、せっかく安く上げようと大きな量のビンで買った薬品の大半が無駄に戸棚に眠っている、何て事になりますよ。
    以前、ヤフーオークションに一般の方がCD-4(カラーネガ用現像主薬)の500gビンを出品しているのを見ましたが、500gのCD-4でいったい何本のフィルムが現像出来るか分かって買ったのかなぁと思ってしまいました。普通の効率の処方なら、軽く見積もっても5000本ですよ。 それに、CD-4が実は乾燥状態でも劣化しやすく、長くは保存出来ない事を知っていたのかな、とかね。年間1000本以上も、ボクはとうてい現像しませんけど。
    ほとんどのアマチュアユーザーの自家調合は、だいたいは興味本位で始まって、捕らぬ狸の皮算用がタンスの肥やしになるパターンですね。
    もっとも、趣味性という点では自家調合は非常にポイント高いので、それが目的なら是非挑戦してみる価値はあると思います。 そのかわり、コスト云々はあまり言わない方が賢明です。後で恥ずかしくなりますからね。
    もし自家調合で、薬品をロス無く使い切れるほどの処理本数があるなら、コスト的には次に述べるミニラボ用薬品の方がずっと有利ですし、品質・性能的にも安心ですしね。
    カラーネガフィルムの現像処方は、現行の商業用は各メーカーの機密で公開処方ではありませんが、C-41相当の処方は古くから公開されていますし、新たに処方を起こした方もおられますので、ちょっと調べればネット上ですぐ見つけられます。
    ミニラボ用薬品
    ボクが使っているのはこれです。 ミニラボ用は商業ユーザー向けに大量に作られていますから、非常に安価な製品にする事が出来ますし、そもそもが本物ですから、品質も性能も信頼が置けます。
    コダックや富士と言ったメーカー純正品もありますし、コピー機やレーザープリンターのトナーと同じようなもので、サードパーティ製がさらに安く売られているのが魅力です。 サードパーティ製と言っても互換性は高いとみていいでしょう。
    コスト的には、少々のロスを出したとしても、1本あたり100円を切るのは簡単です。それも、もっとも現像精度の高い方法、つまり現像液の1回使い捨てにしても、です。 ミニラボと同じように、各処理液で補充サイクルを回すとしたら、1本あたりの現像コストは13円くらいにまで下げられます。これはあくまでも理想的な状態で、ですけど、普通に考えても自家調合よりは遙かに低コストで無駄も少ないと思います。
    当然、処理するペースが遅くて使用液の空気酸化などによるロスが上回ってしまうと、補充サイクルは理想的には機能しませんので、なかなかお店の原価のような低コストには出来ませんが、現像精度重視で現像液を贅沢に使っても、1本100円は楽勝だと考えると魅力的ではないでしょうか。
    ただし、まがりなりにもミニラボ用の製品ですから、販売されているのは現像液40リットル分といった単位になります。 現像液40リットルで、仮に現像液は1回使い捨てにしたとしても135ミリフィルム約170本分。 ナニワカラーキットNと同じく1リットルで20本を現像液使い回しで処理するなら800本。 もし補充サイクルをC-41処理の目安通りに回すとなると、36枚撮りフィルム1600本分に相当し、発色現像だけのコストはなんと1本4円弱になります。
    もっとも、いくらミニラボ用の薬品で補充サイクルだと劇的に安いと言っても、買った薬品が劣化する前に1600本も現像するかと言ったら、ボクは絶対にしないですけどね。 コストと販売ロットと、現像精度のバランスを考えると、ミニラボ用の現像液では1回使い捨てとか、使い回しても2回とかが納得の線ではないかなと思います。
    ちなみに、現在ミニラボ用の薬品を一般ユーザーが入手容易なのは、オリエンタルダイレクトさんだと思います。コダックや富士の純正もありますが、オリエンタル製の代替品が安くてお勧め出来ます。
    注意点は、売られているフィルム現像用の薬品はC-41やC-41Bではなく、C-41RA用だと言う事です。 発色現像液はC-41系処理全てで同じ(富士のCN-16系も大同小異)ですが、漂白液や定着液は処理時間が短いタイプになります。 また、ミニラボ用の薬品は後述する補充サイクル用の物なので、補充液という形で作られている点も要注意です。補充液を、補充としてではなく現像液として使うには、スターターと呼ばれる薬品を使って成分を調整する必要があります。
    C-41RA処理用の薬品だからと言って、なにも水洗を省いた迅速なRA処理をする必要はありません。各処理液の処理時間はRA処理を目安に短く済ませ、現像の後、漂白の後、定着の後と、水洗はしっかりやるのが良いでしょう。

    いずれにしても、ミニラボ用のように1本単価が安く上がる薬品は販売ロットが大きい事を念頭に置いて、自分がどれくらいのペースで撮影して現像するのかをしっかり考えて選ぶようにしましょう。
    自分のキャパシティ以上の薬品を買っても無駄ですよ。 使わなかった薬品を捨てるとき、とっても後ろめたい気持ちになること請け合いですね。

現像液の使用パターン
現像液だけではなく、漂白、定着でもある意味同じような事は言えるのですが、考え方は異なりますし重要度が高いのは現像液部分なので、特にここを取り上げてみます。
この考え方はカラーネガ現像に限らずモノクロネガ現像の現像液でも同じですが、現像による調整の方がコストより重要なモノクロに対して、カラーネガ現像では基本的に同一の結果を求めますので、特にコスト面が気になるという事は言えると思います。
現像液の使用パターンというのは、用意されている現像液で、どのようにして処理本数を決めるのかという事でもあります。

    ワンショット
    現像液などを、1回使い捨てにすることを「ワンショット」と呼んでいます。 もっとも贅沢な処理液の使用方法で、もっとも繰り返し精度が高い方法です。 文字通り、1回使った現像液は全て破棄してしまい、次回はまた新しい現像液を使うというもの。 常に同じ状態の新鮮な現像液を使いますから、安心確実です。
    例えば、普通のステンレスタンクで35ミリフィルムを現像すると、1本用タンクですと使用液量が250mlですので、フィルム1本の現像に250mlを使い、それは破棄するという事になります。
    仮に現像液の価格が1リットルあたり2800円(ナニワカラーキットN)だとすると、フィルム1本分の現像液はトータルで700円。非常に高価なものについてしまいます。 キットに含まれる漂白定着液は処理本数を全然こなさないので元気なまま残ってしまい劣化を待つばかりとなりますし、これではちょっと非現実的ですね。
    しかしミニラボ用の薬品で、しかもサードパーティ製ですと、現像液1リットルあたりの単価は150円にしかなりません。フィルム1本分はわずか38円ほど。 漂白や定着の分を足しても余裕で100円を切ります。
    ミニラボ用薬品を使うなら、この方法をお勧めします。
    希釈現像
    モノクロですと、現像液の原液を水で1:1などに薄めて使う事が多いですが、これはあくまでも現像液の性格を変更するものです。現像液を薄める事で、現像の進行を遅くしたり、現像液が疲労しやすくなる事で鮮鋭度を高めたり、逆に微粒子化を抑えたりといった違いが生まれるからです。 ただ単に安く上がるから薄める、というのは間違った考え方。
    カラーネガ現像でも、こうした希釈現像をする方がいらっしゃいますが、ボクはちょっと微妙だなぁと思います。現像液の希釈使用はpHをかなり変えてしまいますし、先に述べたようにカラー現像は現像液の疲労度合いに影響されやすいですからね。
    ちなみに、希釈した現像液は酸化しやすいので基本的にワンショットでの使用になります。 現像液分のコスト的には単純に原液ワンショットの半分ですが、漂白や定着も希釈して良いかというとそうではないので、全体のコストがまるまる半分になるわけではありません。 現像液と漂白定着液のセット販売になっているナニワカラーキットNだと、単純に半分で、1本あたりの現像コストが350円ってところですね。意味はなさそうです。
    逆に現像液単価の安いミニラボ用薬品ですと、希釈してコストをさらに下げる必要があるとも思えませんし、デメリットの方が遙かに大きいように思います。
    つまり、カラーネガ現像ではあまり意味がない方法、って事でしょう。
    補充サイクル
    もっとも処理単価を下げられる方法で、ミニラボや現像所で行われている方法です。 C-41系処理は、基本的にはこの手法を前提にしていると言っても構いません。
    補充使用は、文字通り、使用した分に応じた新しい液を足していくという方法です。
    例えば、現像タンクが10リットルのサイズでも5リットルのサイズでも構いませんが、35ミリの36枚撮りを1本現像したら、25mlの新鮮な補充液(現像液)を継ぎ足す、というものです。
    もちろん、現像液には乾いたフィルムを入れ、湿ったフィルムが次の工程に移っていきますので、現像タンクの中の現像液はそれだけ減りますから、その補充の意味もあります。 現像によって疲労した分を補うために、補充に使うのはタンク内の使用液よりも強い現像液という事になります。 また、フィルムによって持ち出される量が補充量よりも少ないのであれば、タンクから余る分を取り除いて入れ替える事になります。
    先の、36枚撮り1本あたり25mlというのは、だいたいC-41処理の基本に近い値です。 つまり、この処理方法がちゃんと機能するのであれば、フィルム1本あたりの現像液コストは25ml分。一般ユーザーでも買えるミニラボ用の現像液は1リットル150円と先ほど書きましたが、単純計算で3.8円ほどにしかなりませんね。 漂白と定着も同じように規定の補充サイクルを使うと、積み上げていっても12~13円ほどでフィルム1本を現像出来てしまいます。
    しかし、一般のアマチュアユーザーが、販売ロットの大きなミニラボ用の薬品を購入して、しかも使用量が極めて少ない補充サイクルを使うと、とてつもない量のフィルムを現像する事が出来てしまいます。 前にも書きましたが、現像液はフィルム1600本分です。 使わないでいれば空気酸化などによって劣化していくのが薬品ですから、ある程度の期間内に使い切らないと全てダメになってしまいます。
    また、これもすでに書きましたが、正確な補充量を決めるのは非常に難しい物ですし、実際には現像タンク内の薬品の状態を監視しながら調整する必要があり、設備のない一般ユーザーには困難だと思います。

      使用液と補充液
      薬品のタイプのところでも書きましたが、ミニラボ用として売られている薬品は補充サイクル用で、基本的には「補充液」という形になります。 一般に、実際に現像に使う薬品の状態を「使用液」と言い、補充液と使用液は似ていますが中身が若干違います。
      現像液は、現像する事によって現像主薬が疲労するので、それを補うために現像主薬を足す必要がありますが、それ以外にpHが下がりますのでその調整、そして現像の副産物として老廃物が溜まってきますから、その分の調整をしなくてはなりません。
      この老廃物は現像を抑制する働きがあり、新鮮な使用液にも最初から必要量が含まれています。 補充液では、疲労した分を補う現像主薬、pHを調整するアルカリ剤などが含まれますが、現像を抑制する薬品は現像によって老廃物として増えている事を見越して入れないでおきます。 こうした微妙なバランスで補充サイクルというのは回るのです。
      微妙なバランスというのを言い換えると、理想的な形で補充をしていくというのは難しいのです。 単純に使った分だけ補充液を補充というのでは、どこかで誤差が限度を超えてしまいます。 そのため、薬品の状態をチェックしつつ、足りない物を補い余っている物を抑えるなどの調整をしなくてはならないわけです。
      また、補充液として作られている薬品を使用液として現像に使う場合には注意が必要です。
      補充液は現像液よりも強力で、現像を若干抑える老廃物に相当する成分も入っていません。 分かりやすく言うと、新鮮な使用液は、新鮮な補充液よりも疲労した状態なのです。 そこで、補充液から使う場合には、やや疲労したような状態に調整する必要があります。
      そのために、「スターター」と呼ばれる液が用意されていますので、購入の際にはこれも合わせて入手するようにします。
      ちなみに、ちゃんとしたスターターを使わず別の物で補充液を調整しても、概ね実用に困らない程度の現像は十分可能なんですが、スターター自体は安価なので、なにもリスクを負う必要は無いと思います。

    なお、ミニラボなどの現像機械では大きなタンクの中をフィルムが通過していきますが、一般ユーザーが小型丸タンク(普通の現像タンクのこと)で現像する場合、保存ビンをタンクと考えて補充を繰り返します。 しかし、小型丸タンク現像では保存ビンから現像液をメスカップに移し、温度調整をし、タンクに注ぎ、攪拌を繰り返すと言ったように、非常に空気酸化による劣化が起きやすい工程になりますので、ミニラボ用の補充サイクルに指定されているのと同じ補充量では絶対にまわらないはずです。
    正直ボクは、カラーネガ現像に関しては、この補充サイクルはなかなか出来ないと思いますよ。 フルに補充サイクルを回せば1本の現像コストが13円。なんていうのもまた、捕らぬ狸の皮算用ですね。現実はそんなに甘くありません。
    もしやるなら、しばらく実際に運用してみて、現像結果をチェックしつつ適度な補充量というのを見つけるしかないでしょうね。

    使い回し
    ホビー用処理液のところで書きましたが、同じ使用液を繰り返し使う方法です。 ナニワカラーキットNのように、補充システムでもなく、実際に存在する処理液の量が少ないのに、記載の処理可能本数が多い場合にはこの方法を採っています。
    なにしろ、処理可能本数(ナニワカラーキットNの場合は20本)が一度に浸かるだけの液量がないのですから、液を使い回さないとならないのは当たり前ですね。 35ミリフィルムを普通のステンレスタンクで現像するなら1リットルだと1度に4本。つまり20本を現像するには5回転しなくちゃなりません。
    現像液は現像する事によって疲労します。現像主薬は酸化して弱くなり、pHは下がり、老廃物も溜まります。 したがって現像力は落ちてしまいますから、2回目は現像時間を長くし、3回目はさらに長く、というように、現像時間で調整していく必要があります。
    とはいえ、ではどれくらいの時間を延長すればいいかというのは、正確には求める事が出来ません。 何度か書きましたが、フィルムは撮影状態によって現像されるべき銀の量が違い、現像液の疲労度合いも違うからです。
    しかし、その程度ならあるいは誤差の範囲内と言えなくもありませんが、根本的な問題として、現像液の空気酸化が挙げられます。 どういう事かというと、実際に現像に使う現像液は、保存用のビンからメスカップなどに移され、現像タンクに注がれ、何度も攪拌され、またメスカップに戻るなど、非常にたくさんの空気と接触し混ざり合いますよね。 これにより、使用済みの現像液というのは実際に現像によって疲労するだけでなく、空気による酸化でどんどん劣化していってしまうのです。
    そんなわけで、使用済みの現像液というのは痛んでいる上にさらにとても痛みやすく、状態が不安定で、あまり信用出来るものではありません。 単純に時間を延長すれば解決する、というものでも無いのです。
    ナニワカラーキットNの使用液の保存期間が極端に短いのは、こうした無理のある方法、「使い回し」を前提として処理可能本数を多く謳っているからでしょう。
    ボクは時間延長による現像調整があまり悪影響を与えないモノクロネガ現像であっても、現像液の使い回し、つまり繰り返し使用はほとんどしませんし、人には絶対に勧めません。カラーネガ現像でも同様です。いや、カラーネガならなおさら、と言った方がいいかな。
    現像の精度をそれほど求めず、なおかつ現像液指定の処理本数のそれなりの数を短期間でこなすなら構わないと思いますが、そうでなければちょっとお勧めは出来ない方法ですね。
    とはいえ、ナニワカラーキットNでは処理液は1リットルしか作れないのですから、もし贅沢にワンショット現像すると35ミリフィルムで4本しか現像出来ません。1本あたり700円にもなってしまいます。 となれば、2回目、3回目と、ある程度は誤差の範囲と諦めて、時間を延長しながら使い回していくしかありません。しかしそれが4回、5回となると、ちょっとどうかなぁと思ってしまいます。
    実際のところ、ボクの経験ではこの繰り返し使用、しかも一度に立て続けに現像した場合でも、初回の新鮮な現像液と後半の現像とでは現像の出来に差がありました。プリント時に負担になる程の差が、です。
    残念ながら、5回もの使い回しは無理。つまり処理本数20本は少々誇大でしょうね。

漂白液、定着液
現像液の使い方のパターンには、先述のようにワンショット、希釈、補充、使い回しなどがあり、理想はワンショット、補充はちょっと難しく、希釈や使い回しはあまりお勧め出来ないと書きましたが、漂白液や定着液では少々事情が異なります。
ミニラボなどのC-41系処理では、漂白も定着も補充サイクルを使います。 しかし、一般ユーザーの自家現像では、かならずしもそれがいい方法とは言い切れません。

    漂白液
    漂白処理は前にも書いたように、現像によって画像となった銀を元に戻す工程です。これにより、定着処理の際に全ての銀を除去出来るようになります。
    カラーネガ現像用の漂白液は、エアレーションと呼ばれる方法で空気を流し込み、再生するというような事をよく見聞きすると思いますが、ここでも、C-41処理はミニラボなどの現像機を想定して工程が指示されている事を思い返してください。 一般ユーザーの自家現像では小型丸タンクやロータリータンクなどを使いますので、処理中の攪拌によって空気と激しく混ざり合います。したがって、特にエアレーションによる再生というのは必要ないと考えてもいいはずです。 実際、コダックの公式な資料にもそうした事が書かれています。 必要ないと言うと言い過ぎかも知れませんが、あまり考慮しなくても良いという感じでしょうか。
    発色現像は最初の工程なので乾いた状態のフィルムが投入されますが、漂白処理は2番目の工程ですので、フィルムと一緒に前の処理で使われている液体が持ち込まれます。 前の処理から持ち出され、次の処理に液が持ち込まれる事をキャリーオーバーと言いますが、発色現像では何も持ち込まれずに現像液が持ち出され、漂白処理には現像液が持ち込まれるわけです。キャリーオーバーには、フィルムに染み込んでいる液体だけでなく、フィルムの表面に付いている水滴や、さらには現像リールに付いている水滴など、意外なほどの量があります。
    現像液のキャリーオーバーは漂白にとっては異物ですから、単純に漂白液の能力を低下させてしまいます。 ナニワカラーキットNのように現像液と漂白現像液のセット販売の場合はどのみちセットで使い切りますから構わないでしょうが、別々に用意出来るミニラボ用薬品や自家調合の場合には、薬品のロスを減らす為にもキャリーオーバー対策を少し考えてみるのは悪くありません。
    そこで、発色現像の後には軽い水洗を挟みます。これでも水が漂白に持ち込まれる事には変わりませんが、現像液を持ち込むよりはずっとマシです。
    そして、今度は漂白液がキャリーオーバーによって持ち出されていきます。 同じフィルムや現像リールが持ち込んだり持ち出したりするのですから、最初の工程である現像液と違って漂白液の量はそれほど変化しませんが、水なり現像液なりが持ち込まれて漂白液が持ち出されるのですから、それだけ処理能力は低下します。
    そこで、漂白液のタンク(保存ビン)の総量のいくらかを捨て、新しい液で埋め合わせるようにします。
    C-41RA処理での漂白液の補充量(リプリニッシュレート)は非常に低く、35ミリフィルム24枚撮り1本あたり、わずか5mlという少量が指定されています。 しかしこれは、現像工程からのキャリーオーバーを出来るだけ少なくする工夫(フィルム表面の液を搾り取るなど)がされているという条件付きなので、一般ユーザーの自家現像では実現不可能と考えて良いでしょう。 残念ながら公式な資料には普通の小型丸タンク現像での補充率というはありませんので、ある程度は経験で掴むか、補充しながら一定量を処理した後に漂白力のテストをして確かめるなどする事になります。
    また、なにも面倒な補充サイクルを使わなくても、「使い回し」法で一定量を処理し、漂白力をテストする、つまり使い回しでの処理可能本数を確かめても良いわけです。

      漂白液のテスト
      適当なモノクロネガフィルムを光に感光させて普通に現像、定着処理したものを用意しておきます。真っ黒な無地のモノクロネガ、という事ですね。
      この真っ黒なモノクロネガを室温で、漂白液に浸けます。 するとやがて黒い画像が薄れてきます。これが漂白処理なのです。 そして、液に浸けてからフィルムが半透明に抜けるまでの所要時間を計ります。
      その後、そのフィルム片を水洗してから定着し、綺麗に抜ければ漂白液はまだまだ元気です。そして、漂白液で黒い画像が消えるのにかかった時間だけ漂白処理すれば間に合うという事になりますが、余裕を見て、この時間の倍の時間を漂白処理に当てるのが適当だと考えてください。 黒い画像が消えるまでに1分かかったなら、必要な漂白処理の時間は2分という事になります。
      この方法で行くと、仮にテストで3分かかったら6分など、どんどん時間を延長していけばかなりの処理本数をこなせると思いますが、普通の感覚だと(モノクロの定着液も同様の方法なのですが)、新鮮な処理液でテストした際の時間の倍かかるようになったら交換、というのが目安ではないかと思います。

    ちなみに、現在のカラーネガ現像に使われている漂白液は環境問題などに配慮してちょっと凝った薬品を使っていますが、非常に単純な処方でも漂白処理をすることが出来ます。
    赤血塩80g、臭化カリウム20gを1リットルの水に溶きます。それで出来上がり。
    この2種類の薬品はヨドバシカメラやビックカメラの店頭でごく普通に売っているものです。ミニラボ用の現像液だけを購入し、漂白はなにかで間に合わせられないだろうか、という場合には便利でしょう。

    定着液
    カラーネガ現像での定着処理は、モノクロネガの定着処理と基本的には変わりません。 大きく違うのは、モノクロネガの場合は画像である部分の銀は残るのにたいして、カラーネガの場合は漂白処理を経る事で全ての銀を除去するという点です。
    また、要注意点として、カラー画像の色素は強い酸性で壊れてしまうという事があります。 そのため、カラーネガに使う定着液は専用のものか、モノクロ用を流用するならアルカリ定着液か中性定着液、または弱酸性の定着液に限られます。 日本国内では富士の製品が広く出回っているので、モノクロにフジフィックスを使う人が多いようですが、これは硬膜化酸性定着液で、カラーネガには使えません。また、ボク個人的にはモノクロにもお勧め出来ません。
    モノクロ用として日本国内で普通に入手出来る製品では、イルフォードのハイパムフィクサーがカラーネガに使用可能です。
    ある程度の量を消費するなら、これもミニラボ用の製品を購入する手があります。 実は、業務用のカラーネガ定着液は非常に安価ですので、かなり気軽に買う事が出来ると思います。
    また、安価なため、これをモノクロにも使うという人が少なからず居るほどです。ただし、専門家筋からはモノクロでの使用は弊害があるため止めるようにという指摘を時々見かけますので、ボクはやりませんし勧める事もしません。 カラーでは定着後のフィルムに銀は残りませんが、モノクロでは銀が画像になりますので、その銀の安定性に悪影響があったら恐いですからね。
    C-41系処理では、定着液も補充サイクルになっています。 しかし、定着液の場合は疲労もさることながら老廃物の蓄積、そしてそれはフィルムから除去した銀なのですが、それが溜まる一方になってしまうため本来は補充サイクルに不向きなものです。 ラボのシステムなどでは定着液中の銀を回収する仕組みがありますので補充サイクルも可能ですが、一般ユーザーの自家処理では考えない方がいいと思いますし、定着液はそれほど高価ではないのでヤヤコシイ事をするまでもないでしょう。
    定着液に限っては、「使い回し」法がベストだとボクは思います。 なんてわざわざ書くと特別な感じがしますが、もちろんモノクロで普通にやっているのがこの「使い回し」法、ですよね。定着液ワンショットなんて人はいないでしょ。 もしいたら、勿体ないし環境に無駄な負荷を強いているだけですのでやめましょうよ。
    なお、補充でない場合の処理可能本数はコダックなどの資料だとあまり多くはないですが、これはかなり余裕を見ていると読みとれるので、モノクロネガ現像の定着液と同じように、テストするなどで処理可能本数を確かめるという方法が良いと思います。

      定着液のテスト
      現像していないモノクロネガの切れ端、つまり生のモノクロフィルムを用意して、それを半分だけ定着液に浸けます。室温で結構です。
      やがて、段々と透き通ってきます。 浸けた部分が綺麗な半透明になったら、残りの部分も定着液に浸けます。
      そこで時間を計り始め、先に浸けた部分と後から浸けた部分の見分けが付かなくなるまでの時間を調べます。
      その所要時間の約3倍が、実際の定着時間の目安です。
      これも、新鮮な液での時間の2倍かかるようになったら、新しい液と入れ替えた方がいいでしょう。

    漂白液も定着液も、使い回しにする場合は段々と処理時間が長くなっていく理屈ですが、どちらも現像と違ってやりすぎという事が起きにくい処理ですので、なんでしたら最初から処理時間を長目にしておいて、処理可能本数いっぱいまで同じ時間で通しちゃっても構わないわけです。
    その方が、アタマ使わなくて済みますしね。
    なお、漂白も定着も、現像のように温度に厳格になる必要はありません。 常識の範囲って事で、24~30度くらいの間の、自分でやりやすい温度をひとつ決めておけばいいでしょう。 もちろん、処理時間のテストをするなら同じ温度を守りたいです。

    漂白定着液
    ブリックスというヤツですね。ナニワカラーキットNなどホビー用処理液で見られる形ですが、これはあくまでも簡易法であり、望ましい形ではないというところがポイントです。 簡易にするためにはロスも出ます。漂白と定着をわけるよりもコスト高になる傾向があるわけです。
    カラー印画紙現像のRA4処理では、一般的には漂白と定着をわけず、ブリックスを使いますが、フィルムに比べて印画紙は漂白や定着の処理が弱めの薬品で迅速に行えるため、漂白と定着を一緒にしてもそれほど負担がかからないのです。 それに、印画紙現像は場所も喰いますので、工程を増やすのは望ましくありません。 一方、フィルム現像は場所をあまり取りませんのでメリットは少な目でコストが多い。 フィルム用のブリックスはそもそも無理がある、と言えなくもありません。
    また実際、フィルム現像においてはブリックスでは完全に銀画像を除去しきれないケースが多く、そのため、彩度が低く(発色が渋く)なる傾向があるようで、またフィルムによって結果にバラツキも出るそうです。
    安定剤
    C-41系の処理工程を見ると、最後に必ず安定剤(スタビライザー)というものが使われています。 また、ミニラボ用薬品を売っているところでも、安定剤が並んでいます。
    これはもともと、失われやすい色素を保護するためとか、ネガフィルムにカビが生えないようになど、長期保存性を高めるために使われていた物です。 モノクロフィルムでいうならば、富士のAgガードのような感じでしょうか。 もちろん、モノクロでは銀を保護するための保護剤ですが、カラーの場合は色素などを守るのが目的ですので、中身は違います。
    昔の安定剤にはホルマリンが使われており、今でも自家調合ネタでホルマリン云々という記述を見かけますが、現在のフィルムはそうした意味合いでの保護剤は必要なく、またホルマリンの有効性を疑う声や、環境や人体への負荷を考えてホルマリンは使わないようにしようと言う動きもあります。
    また、現在のC-41系処理(C-41B、C-41RAなど)で使用されている安定剤はホルマリンを使っていませんし、そもそも迅速化のために水洗を省いた工程を実現するために用意された薬品であって、旧来の安定剤とは異なります。
    自家現像において、定着後に水洗するならば安定剤はやはり不要です。 そしてもちろん、安定剤より水道水の方がどう考えても安いですから、水洗をせずに安定剤を使う理由も見つかりませんしね。

続きは・・・よほど気が向いたら書きます(汗)