ブーキアンドジェニー 冷黒調現像液

Burki and Jenny Cold Tone Developer
世の中、どうもウォームトーン流行りである。そう思わない?
ウォームトーン印画紙の種類はたくさんあるし、ごく普通の現像液・印画紙の組み合わせでもやや温黒調というのが多く、また好まれる。 まぁ、ちょっとウォームってのがノスタルジックなイメージでモノクロ写真っぽいからなんだろうけどね。 そう言えば一時、セピア調ブームがあってカラーペーパーにプリントするとセピアトーンのモノクロプリントになるフィルムが次々発売されたっけ。 今もまだあるよな。 実際ボクも、うらぶれた街並みとかは温黒調が雰囲気あって好きだし、人物写真はウォームトーンの印画紙でプリントしたりする。
が、最近どうも、そんなあふれかえる温黒調に飽きたというか物足りなさを感じ、キリリと締まった純黒調・冷黒調に憧れるのだ。

冷黒調現像液を作ろう
印画紙自体にも温黒調・純黒調があり、標準的な現像液で処理した場合の黒の色調がそれぞれ異なる。 また現像液でも黒の色調に影響を与えることが出来るので、積極的にウォームトーンを出すにはウォームトーンの印画紙と現像液の組み合わせが良い。 一般に、ウォームトーン印画紙は現像液の影響によって色調が変化しやすくなっているらしい。 ボクが時々使うのはイルフォード「マルチグレードFBウォームトーン」で、黒白写真をはじめた頃に普通の印画紙をセピア調色して遊んでたのよりカッコイイ色が出て大好きである。

それはさておき、現像液や処理によって印画紙を温黒調に傾けるのは意外と簡単である。
自家調合している場合、炭酸ソーダの量を減らすと温黒調に傾く。 当然、アルカリ剤である炭酸ソーダを極端に減らすと現像力が落ちて軟調でだるだるなプリントになってしまうので、炭酸ソーダを減らした分を炭酸カリで補う事も出来る。
カブリ(ペーパーフォグ)防止用のブロムカリ(臭化カリウム)を増やすと温黒調に傾くのはよく知られている。 増やしすぎると現像抑制力が働きすぎて、これまた超軟調になってしまうが。
その他、普通の印画紙と現像液の組み合わせの場合には露光時間を長くして現像時間を短くすると温黒調に傾く。 やっぱり締まりが無くなりやや軟調になる。
というわけで、温黒調はいろいろと方法がある。 いずれにしてもやや軟調、あるいはかなり軟調になってしまうわけだが、そもそも温黒調の表現というのが柔らかさを狙ったものでもあるしね。 ぶっちゃけたハナシ、軟調現像だと温黒調になると思ってもイイくらいじゃなかろうか。

さて、温黒調はこれくらいにして、冷黒調である。
写真用品屋さんで棚を見ていたら旧オリエンタルの現像液「オリトーン」に冷黒調現像液があった。 素直にそれを買ってもよかったのだが、最近は自家調合の面白さに目覚めてきたところなので自分で作ろうと思い立ち、見なかったことにする。 ウチに帰って、このページの冒頭で紹介している「ダークルームクックブック」をめくってみた。

冷黒調にするには
ブロムカリの量を減らすと冷黒調に傾くのは、さっきの温黒調の逆だから当然である。 ブロムカリはかぶり防止剤であるから、その量を減らす、あるいは完全に無くすとペーパーフォグが出てしまう。 そこで、その分を別のかぶり防止剤であるベンゾトリアゾールで補う。
ベンゾトリアゾールはかぶり防止剤としてはブロムカリのように広く使われていないけれど、コダックの「アンチフォグNo1」はベンゾトリアゾールであり、ブロムカリより強力なのだ。 でもって、ココをちょっとメモして置くといいのだけれど、同じかぶり防止効果を得るのには、ブロムカリ1に対してベンゾトリアゾール0.2となるそうだ。 2gのブロムカリを置き換えるには0.4gのベンゾトリアゾールがあれば良い。 でもって、このベンゾトリアゾールが青みがかったようなカッコイイ冷黒調を生む。
つ・ま・り、一般的な印画紙現像液には大抵使われているブロムカリをベンゾトリアゾールに置き換えればイイのである。

    Burki and Jenny Cold Tone (A) 保存液1リットル
    水 (40℃) 750 ml
    メトール 3.0 g
    無水亜硫酸ナトリウム 40 g
    ハイドロキノン 12 g
    1水塩炭酸ナトリウム 75 g
    臭化カリウム 0.8 g
    水を加えて総量 1000 ml
    Burki and Jenny Cold Tone (B) 保存液1リットル
    ベンゾトリアゾール 1%水溶液

保存液Aの処方を見て「あれ?」と思った方も多いのでは。 そう、標準的な印画紙現像液であるD-72(コダック「デクトール」が近い)にそっくりなのです。
決定的に違うのがブロムカリの量で、D-72で2gあるのがコチラは0.8gと少ない。 ブロムカリが多いと温黒調、逆なら冷黒調と先ほども出てきましたが、減らしたカブリ防止剤を補って、なおかつクールトーンにするのが保存液Bのベンゾトリアゾールです。

作り方
保存液Aは40℃強の水750~800mlに処方の順番で溶かしていきます。 が、他でも書いたけど、メトールが最初ではなく、ホンのひとつまみの無水亜硫酸ソーダを溶かしてからメトール、そのあと、と続きます。 全部溶けたら水を加えて総量を1リットルにします。
使われている薬品は一般的な物ばかりで、大きな写真用品屋(ヨドバシとか)に行けば揃うと思います。
保存液Bはベンゾトリアゾールの水溶液ですが、これは使用するベンゾトリアゾールが極少量のため、計量しやすいようにでしょう。 10gのベンゾトリアゾールを水に溶いて総量1リットルにするだけです(余り使わないので可能なら1gを100mlの方がイイかしれない)。
おそらく、ベンゾトリアゾールは普通に店頭に並んではいないので、取り寄せてもらうことになります。 ボクの場合ヨドバシカメラに頼んだところ、昭和化学の商品が届きました。 25gで3000円、メーカー直送のみで配送料別途1500円でした(昭和化学のサイトで見ると2000円なんじゃないかと思う。どうやら写真用ではないので中間マージン結構取られたね)。 かなり高価な薬品です。使用する量はごくごく少ないですから、誰かと共同購入した方がイイかもですね(^^;
調べたところ、ベンゾトリアゾールは25℃の水100gに2gの溶解性があるとのことなので1%水溶液は楽勝ですが、溶かすのは結構時間が掛かりました。 気長に攪拌しましょう。

使い方
保存液Aを1:2希釈して使用液とします。そして、使用する保存液A1リットルに対して6~15mlの保存液Bを加えます。
保存液B(ベンゾトリアゾール)の量が多いほど青みが増す仕組み。 やってみたところ「なるほどそんな気がする」という感じでした。
標準現像時間は20℃で2分ですが、印画紙現像の常として長目にね。

使ってみた
さっそく、いつも使っているイルフォード「マルチグレードIV RC」でプリントしてみましたところ、イルフォードの液体現像液や富士「コレクトール」でやや温黒調になるところをキリリとした純黒でイイ感じです。
同じマルチグレードRCでも「クールトーン」だとさらにカッコイイ黒で大満足。
バライタ紙では、イルフォード「マルチグレードIV FB」、オリエンタル「ニューシーガル G2」、富士「レンブラントV G2」を試してみましたが、紙の性格がやはりあるので一概に言えないものの、イルフォードはイマイチながら、そもそも純黒調を謳う「ニューシーガル」と「レンブラントV」はかなりイイ感じです。
RCのイルフォード「クールトーン」より、バライタ2紙の方が青みがよく出ました。 中間調からハイライトにかけてはごくわずかに「ニューシーガル」の方が「レンブラントV」より青みが強いようですが、ディープシャドウでは「レンブラントV」の方が締まった青になっていてシブイ感じ。 微妙ですね。
お見せしようとプリントをスキャンしたのですが、画面でお伝えできるようなものではなかったので止めました。 是非とも実際にお試しいただいて、クールなプリントをお楽しみあれ。

あ、念のために言っておきますけど、現像液で冷黒調にすると言ってもごくわずかな青みですからね。 極端な色が欲しい場合は調色してくださいませ。

考えられる応用法
この処方ではベンゾトリアゾールを切り分けて、使用時の配合で色調を調整できるようになっている。 まぁ、ここがミソなわけですが、いっそ保存液Aにあるブロムカリも切り分けて水溶液(保存液C)で用意し、使用時にBとCの量を調整するってのはどうだろう。

最近のボクは軟調な現像液でじわじわ現像するのがお気に入りで、アンスコ120(コダック「セレクトールソフト」)を調合して主に使っているのだけれど、これもブロムカリのかわりにベンゾトリアゾールを使用して希釈率も1:4とかの薄め。 それでもしっかり純黒調でイイ感じです。お勧め!