FB印画紙のドライダウン対策

印画紙のドライダウン
プリント初心者の方には処理が簡単で短時間に数をこなせるRC印画紙で、まずは要領を覚えたり階調という物を理解したりと、銀塩プリント作成の基礎体力を付けて貰いととお勧めするのだけれど、ある程度出来るようになってきたら、やっぱり心惹かれるのがFB紙。一般にバライタ紙と呼ばれるものですね。
はっきり言って、プリントの良し悪しが分かってない段階でFB紙を使うのはやめた方がイイです。バライタの方が階調が豊かだとか、RC紙じゃ深みのある描写が出来ないとか、分かったようなこと言ってると、ろくな写真撮ってないガキがなに生意気言ってるんだ、なんて、ボクみたいな偏屈オヤジにクソミソに言われますよ(うそうそ)。
その前に、自分がホントにRC紙を使いこなせているのか自問自答してもいいと思いますけどね。 RC紙を目一杯使いこなして、それでもダメだからFB紙、というのがカッコイイんだけどな。 単なる憧れみたいなものでFB紙で下手くそなプリント作ってたらダサイからなぁ。

まぁ、それは冗談としても、RC紙で何百枚とプリントした、黒も白もワカッタ、でもRC紙では自分の作りたいトーンが出ない、というのなら、いよいよFB紙に挑戦です。
FB紙というと、水洗にやたら長い時間がかかる、乾燥するとしわしわになる(フラットニングという作業が必要)など、面倒な事が前面に出てきますが、そんなのは手間を掛ければ済むことなのでどうでもよろしい。
それよりも、FB紙を使い始めた頃に問題になるのはドライダウン、ではないかと思います。
ドライダウンというのは、現像処理中の湿った印画紙よりも、乾いた後の方が画像が濃くなる、というもの。
印画紙というのは紙の支持体の表面に感光材料を含む乳剤層が取り付けられているわけですが、支持体の紙がレジンコートされているため乳剤層だけが薬品を吸収するRC紙と違い、FB紙は支持体も水分を吸ってしまいます。 なにせ紙ですから、水を吸えば膨らんで伸びてしまうのです。 同じ印画紙の湿った状態と乾いた状態、ビックリするくらい大きさが違いますよ。
そして、印画紙上の画像というのは光が当たってよく反射する白い紙と、光をあまり反射しない黒い銀粒子の反射率によって画像が出来上がっているような気がしますが、実際にはそれだけではなく、いったん画像を通り抜けた光が白い支持体に当たって反射してくる際にも銀粒子に阻まれたりして濃度を出しています。
表面の反射と往復の透過、それらの積み重ねで黒々したディープシャドウや白く抜けるハイライトが出来ているのですね。
なので、印画紙の表面から乳剤層を引っぺがしてみると、ちょっとガッカリするくらい実際の画像は薄かったりします。

それはさておき、水分を吸って伸びている印画紙では、画像を構成している乳剤層が膨らんでいますので銀粒子の間に隙間が出来ています。 その隙間を光は通り抜けてしまいますが、印画紙が乾いてきゅっと締まり、銀粒子の間の隙間が少なくなると、光が通り抜けにくくなって画像は濃く見えるようになります。
したがって、プリント作業中に湿った状態の印画紙で濃度を確認しても、いざ乾いてみたらシャドウは潰れ気味でハイライトにヌケがない、なんて事になるのです。
これがドライダウンと呼ばれている現象。

そこで、FB紙でのプリント作業では、テストプリントの確認などは印画紙を乾かしてチェックする、というのが一般的です。 湿った状態の印画紙で露光時間や現像量が丁度よく見えてもダメなんですね。
印画紙を速攻で乾かすには、電子レンジが便利です。 大きな印画紙が入る電子レンジはなかなか無いと思いますが、普通の家庭用のものなら8×10くらいは入るんじゃないでしょうか。もちろん、重要な部分だけ切りとってチンしてもいいわけです。
電子レンジでチンして乾かし、その状態で濃度をチェックします。 これはアンセル・アダムスも著書の中で紹介している方法なので、わりと一般的なんじゃないでしょうか。ボクも時々やってます。 もちろん、本番プリントではそんなオッカナイことしませんけどね。

しかし、毎回毎回テストプリントをチンするのもちょっと考え物です。 非常に面倒ですし、そのたびに作業が中断します。 もうちょっとなにか方法はないでしょうか。

露光時間を削る
実は、ドライダウンは印画紙の伸び縮みによるものなのですし、印画紙への相対露光量が現像後の濃度と結びついていますので、ある程度の計算が成り立ちまして、一般的には、湿った状態の印画紙で丁度良いと思える露光時間の90~95%程度で露光し、乾かすと丁度良い、という風に言われています。
つまり、テストプリントの露光時間が15秒で湿った状態でOKだったなら、13.5秒で露光・現像したプリントを乾かすと、だいたいOKになるのです。
この10%減、というのは印画紙がどれくらい伸びやすいかとか、乳剤層がどれくらい膨らむのかといった要素に左右されると思われます。
そこで、自分が使っている印画紙をテストしてみる事をお勧めします。 やりかたは非常に簡単です。
まず、湿った状態で自分なりに丁度良いと思える濃度のプリントを作ります。 これが乾くとドライダウンによって理想の状態よりも濃くなっちゃいますね。
次に、先ほどのプリントに与えた露光時間の、95%、92%、88%など、少し短い露光時間で印画紙に露光し、現像・定着します。 これらのプリントは露光時間が短いですから、湿った状態では理想よりも薄いはずですよね。
さて、他のプリントは乾燥させますが、最初のヤツだけは湿ったままにしておきます。
そして、他の乾いたプリントと見比べてみましょう。
現在乾いているプリントの中で、現在湿っているオリジナルと一番近い状態のはどれでしょう。
露光時間95%のものか、92%のものか、88%のものか。
もうおわかりですね。 露光時間92%のものが乾いた状態で理想に近ければ、ドライダウンによって濃くなるのは露光時間に換算して8%分、という事です。 次回から、湿った状態でOKとなったテストプリントの露光時間から、8%少なくした露光時間で本番プリントを作ればいいのです。

話を聞くと、「なんかオカシクないか?」、と思うかも知れません。 「え~? 露光時間だけなのかなぁ?」なんてね。しかしこの方法、かなりうまく行きます。
露光時間にして8%というのは、実際かなり大きいです。 100%で見た目バッチリなのですから、露光時間92%のプリントは湿った状態ですとシャドウは締まりが無く、ハイライトにはディテールが無く、場合によってはすっかり白飛びして見える事さえあります。
ところが、乾いてみると丁度良いのです。

FB紙、特に同じ銘柄の印画紙を使い慣れていると、ドライダウンがどれくらいの違いを生むかを感覚的に覚えてしまいます。
実際ボクは、暗室の中でハイエストライトに全くトーンが無くても、完成したプリントにはちゃんと質感が表現されるのが見えるような気がします。 この感じは乾くとこうなる、というのが経験で分かるので、テストプリントそのものではなく、その先の状態を予想や想像して露光時間を決めているわけです。 FB紙に慣れている方の多くはそうだと思います。
しかし、なかなか上手くいかないなぁという初めのうちは、是非ともこの、露光時間を切りつめる方法を試してみてください。 このテストを実際にやってみたり、その結果得た調整量でプリントしたりするウチに、乾くと丁度良いプリントの湿っているときの見た目、というのが分かってくると思いますよ。

ちなみに、一度乾かしたプリントをもう一度湿らせるとやっぱり明るくなる(ウェットアップ)のですが、ずっと湿りっぱなしだった物とは微妙に違って見えるそうです。 そのため、先ほど説明したような比較検討をする場合には、オリジナルは乾かしてから湿らすのではなく、ずっと湿ったままにして他を乾かすという段取りになります。念のため。