撮影編:はじめに断り書き

本サイトtokyo-photo.netは銀塩ウェットプロセスによるモノクロプリント作成に特化した内容を意図しています。
世の中にはゴマンと、写真をネタにしたウェブサイトも有り、ソーシャルネットワークも在りするわけなので、写真の話はどこでも出来るだろうし、どこにでも書いてあるだろうと思います。
ならば、銀塩ウェットプロセスに直接的には繋がらないことは、敢えてここに書く必要はないし、逆に、敢えて書かないことで、サイトの意図を明確にしたいと思っているわけです。

加えて、tokyo-photo.netでは、ある程度、写真の基礎は出来ている人が、ウェットプロセスについての情報を得る、という風に読者層を設定しています。
そのため、作者であるボクが、読者について、「これくらいのことは分かってるだろう」「これくらいのことは出来ているだろう」と想像している事については、説明も解説もおもいっきり省いてしまっています。
「こういったことは写真入門の類の本やホームページに書いてあるだろうから・・・」というような具合にです。

しかしながら、その根拠というのが実にいい加減であって、ボク自身が、それなりにカラーネガフィルムやカラーリバーサルフィルムで写真の経験を積んでから、自家プリントやフィルムの自家現像を始めたので、他の人もたいていそうだろう、という程度のものなのです。
実際、ボクらの頃は、そういうものだったと思っています。

しかしサイト開設から10年以上が経ち、世の中も随分変わり、写真の初級者・中級者という方の多くが、最初からデジタルカメラで覚えた、という事になって来たようです。
そういった方々が、ありがたいことにこれからフィルムでの撮影をし、銀塩ウェットプロセスでプリントを作ってみようという場合、自動化が非常に進んでいるデジタルカメラでの撮影と、機能的には随分と劣る古いフィルムカメラでの撮影との違いを意外と見落としていたりすることがあるような気がしています。
ボクが最新のデジタルカメラで写真を撮ろうとするときに感じる「なんか違うなぁ」という部分はそっくり、逆向きに、デジタルカメラで写真を憶えた人はフィルムでの写真に感じるのではないだろうか、というように。

また、フィルムでの写真というのがそもそも「古いスタイルのもの」であって、自家現像や自家プリントもその「スタイル」のうちのひとつ、というような、ボクらの頃とは違う認識があるようにも思えています。
ボクらの頃、お店での現像やプリントから、自家現像・自家プリントへの跳躍はちょっとハードルが高かったものです。
ところが昨今は、デジタル写真からフィルム写真への(時代的には逆向きの)跳躍を果たした時点で、そこから自家現像・自家プリントへはさして高いハードルが残っていないのかしら、という風に思えることが少なくないのです。

言い換えると、ボクらの頃は、自家現像・自家プリントへ跳躍する人たちは、機能的に今と比べると大幅に劣る機材を使いこなし、撮影はもうそれなりに出来ていた(と思う)のだけれど、自動化の進んだ今日的なデジタルカメラで写真を憶えた人は、撮影にまつわる技術的なあれこれが、撮影や創作への意欲に追いついていないのではないかなぁ、と思えるのです。

などと、いろいろそれっぽいことを考えながらつらつら書いてみたのですが、う~ん・・・どうもウソ臭いですね。

ぶっちゃけ本音を言ってしまうと(言ってしまうなら最初からそう書けよってハナシですが)、『それ、フィルム現像液の違いとか撹拌の違いとか、印画紙の違いとか、印画紙現像液の違いとか、引き伸ばしレンズの性能とか、そういうのは全然関係なくて、撮影がヘタなんだよ』っていうプリントや、ウェブ上の画像を嫌というほど、この10年ちかくのあいだに見てきたなぁ、という事なんです。
「karipeeさん、このプリントどうですか?」なんて聞かれても、どうにも返答のしようがないよ、というわけです。
「どうですか」「どうしたらいいですか」と聞かれても、「そりゃボツだろうね」としか言いようがないわけです。なかなか実際には言えないですけど(たまに言っちゃいますけど)。
写真自体がそもそもつまらんとか、構図がなってないとか、ピンぼけだとか、ブレブレだとか。そんなのどんなにプリントで技巧を尽くしても、どうにもならんわけですよね。

念の為に予防線を張っておくと、ボクはアマチュアですし、べらぼうに写真が上手いわけでもセンスがいいわけでもありません。あれこれ七面倒臭いことを書いていても、全てにおいてそれを実践しているわけでもありません。

だから、ボクより百万倍も写真が上手い人や詳しい人や情熱を注いでいる人、あるいはこちらがより大切ですが、「わかっている人」はゴマンといるわけで、そうした人たちが書いたり言ったりしていることを参考にしてもらえれば一番良いわけです。
それでも、銀塩ウェットプロセスについてtokyo-photo.netでたまたま読んだりしているので、撮影のコツやポイントなんかについても、ついでに書いてあると便利だなという、奇特な、少数の読者に向けて、ボクが経験から学んだことや、実践していること、自分でやってみた練習などを、ちょっと書いてみようと思ったわけです。

こんなサイトを運営しているので、ボクはときどき、人からプリントを見せてもらったりします。
そのプリントについてあれこれ話をしているうちに、なんだか面倒くさくなってしまいます。出来の悪いプリントや写真についてあれこれ言うのは、言葉も選ばないといけないし、結構大変なんです。そのプリントがダメだ、ということを伝えるのは、とても難しいんです。

そこで、自分のプリントを見せて、内心、「これでわかってくれりゃ楽なんだけど」と思ってしまいます。
心のなかで、「だってほら、同じように35ミリカメラで撮ってても、緻密さがまるで違うでしょ?」「シャドウディテールが潰れてないでしょ?」って思ってしまいます。
「フィルム現像でもプリント技術でもなくて、撮影時の問題なんだよ」って、声に出さずに呟いてます。

でも実は、ボクのプリントも大したことはなくて、「違いなんか全然わかんないよ」「それと比べて自分のが悪いとは思えないよ」、というのでは、まるで説得力がありません。説得力がありませんから、誰も真に受けない。
それでは書く意味が無いし、読むのも時間の無駄です。

なので、実際にボクのプリントを見たことがある人(なかなかそういう人は居ないわけですけど)とか、ウェブ上の画像でプリントのスキャンを見た人で、karipeeのプリントはなるほどいいな、どうやったらああいう風に出来んのかな?というように、「説得されるつもりのある人」だけ、読んでくれればいいや、という風に思います。

そういう、奇特な、少数の読者に向けて、銀塩ウェットプロセスに限った話ではないのだけれど、撮影について、ちょっと書いてみようと思っているわけです。