モノクロフィルム

モノクロフィルムはだんだんと種類も減ってきてしまいましたが、まだまだ選択の余地はあれこれあります。
とはいえ、物珍しさであれこれ手を出していてはいつまでたっても基本的な技術や知識が身に付きません。
標準的な感剤と薬品とを、さまざまな事を理解できるまで使い倒してみましょう。


フィルムは感度ごとに、俗に、ISO100クラスを「中庸感度フィルム」、ISO400クラスを「高感度フィルム」、それ以上を「超高感度フィルム」と呼んでいます。

(2022.08追記:製品情報が古すぎて話にならんですね。個別の商品情報ではなく、あくまでも一般論ということで読んでください。まだ現役の商品もありますがね〜)

モノクロネガフィルム
黒白写真フィルムと箱に書いてあるヤツです。
富士でもコダックでもイルフォードでも結構ですが、最初はなるべくメジャーで簡単に手に入るものがいいです。メジャーな物には、メジャーになるだけの理由がありますし、さまざまな現像液での標準現像はもとより、増感現像や減感現像などのデータも豊富に存在します。
モノクロフィルムには、思わず「シブイ!」と思っちゃうような東欧の銘柄などもありますが、トップメーカーとの技術差には、かなり大きな物がありますよ。

今ほどフィルムの微粒子化が進んでいなかった昔には、ISO25やISO50という低感度の物が微粒子フィルムで、それゆえISO100が中庸と呼ばれるのですが、今ではISO100で十分。 もちろん現在でも、ISO25などの極超微粒子のものも少数存在します。

ここはちょっと強調しておきますが、「ISO400だから感度は400」というのはカラーでは当たり前ですが、モノクロでは通用しません。
感度について詳しいことは別のコーナーに譲りますが、メーカーが公表しているISO感度は高く見積もりすぎで、階調再現を優先するならば、それより低いと思って使うのが当たり前だと考えてください。
これは別にメーカーが悪いわけではありません。ISO感度というのは、文字通り、ISOで定められた条件において<このフィルムの感度はいくつ>という決められ方(定められたコントラストをネガ上に得た際に定められた濃度に達する必要露光量)をするのですが、その、ISOで定められた条件というのが、実際にモノクロ写真を作成する際、特に階調再現を優先する際には、あまり適切とは言い難いものなんですね。ちょっとコントラストが高すぎる。
そこで現像を控えてコントラストを下げると、ディープシャドウ部分が適切な濃度に達するための必要露光量が多くなるので、実質的に感度は低め、という事になるんです。
たとえばネオパン400プレストであれば、感度は200から250くらいだと思っていただいて結構です。

そのうえ、モノクロでの撮影時にはフィルターを使用することも多いので、その分の光量も不足します。 ISO400のネオパン400プレストで、はじめてカラーネガフィルムのISO100程度のシャッター速度と絞り値を得られると考えてもいいくらいです。
逆に、ISO400だからそれ未満の撮影感度でしか使わないかというと、そうではなく、ISO400のフィルムを640なり800なり、場合によっては1600やそれ以上として使うこともあるのです。
いずれにしても、それぞれに応じたフィルム現像とのセットになるわけですが、ISO感度、あるいは箱に書かれている感度というのは絶対的な物ではなく、そのフィルムの実際の感度、撮影に使う感度というものが、定義の仕方や使用目的によって変わってくるのが銀塩モノクロフィルムの面白いところです。

中庸感度フィルム

三脚を据えて風景や静物をじっくり撮るならISO100クラス、中でも富士の「ネオパン100アクロス」は非常に高い性能を持っており、おすすめです。同クラスでは勿論ですが、感度を別にすれば世界最高のモノクロフィルムと言っていいかもしれません。
(2022.08追記:アクロス、無くなっちゃってたね)
特に、相反則不軌といって長時間露光で露出があわなくなるという現象に強く、夜景の撮影にお勧め出来ます。
「アクロス」のほか、コダックの「T-MAX100」とイルフォード「100DELTA」は平粒子の超超微粒子フィルム。 イルフォード「FP4プラス」、ローライ「レトロ80S」、富士「ネオパンSS」、などはトラディショナルタイプに分類できます。
ついつい「超微粒子」という言葉につられて、ISO100クラスの中庸感度フィルムがいいかなと思ってしまいがちですが、常に三脚を据えてじっくり撮るのでもない限り、ISO100は感度不足で使いにくいと思います。
手持ちでのスナップやストリートフォトでなまじ超微粒子のISO100フィルムを使っても、実際に引き伸ばしてみたらカメラブレや絞り不足でのピントの甘さなどが目に付くばかりだと思いますよ。
カラーネガなどでは、同時プリントのサービスサイズプリントに馴染みがあるかもしれませんが、モノクロ写真ではわりと頻繁にそれなりのサイズに引き伸ばしてプリントします。 プリントのサイズが大きくなると、ちょっとしたカメラブレや甘いピントが非常に目立ち、実に惨いものです。
まして、ISO100でも実際に使う場合には感度50から80くらいですから、ISO100フィルムは手持ちでの撮影にはほどんど使えない、と思って結構です。
例えば富士のネオパン100アクロスなどは解像力を200LPMと謳っているくらいで、最新のデジタルカメラはもちろん、解像力が高いとされる撮影レンズなども余裕で凌駕します。是非、がっちりした三脚と雲台でしっかりと撮影して、モノクロネガフィルムの高解像力を楽しんでみたいものです。
その路線を追求するなら、より低感度だけれどより微粒子で高解像力というフィルム、ローライPAN25やローライATPなどもあり、解像力は300LPMを謳います。

高感度フィルム

もっともよく使われていて、なおかつ使い易いのは、高感度フィルムであるISO400クラスです。
このクラスで、コダックの「トライXパン(Tri-X PAN,400TX)」は歴史上最も多く使われたフィルムで、現在でも大変人気がありますし、これを越える物は今後決して現れないでしょう(今後フィルムによるモノクロ写真の全盛期が来るとも思えないので)。
ちょっと粒子は粗めですが、飛びにくく潰れにくく、感度もなかなかあり、とても使い勝手が良いです。
フィルムはどれにしたらいいか、まだ経験も少ないのでわからないなぁ、という人は、とりあえずトライXから入って良いんでないでしょうか。

富士フィルムの製品でしたら、「ネオパン400プレスト(NEOPAN 400 PRESTO)」が相当します。
トライXよりも感度はやや劣るように思いますが、比較的粒子は細かいです。
そのほか、イルフォード「HP5プラス」やローライ「レトロ400S」などを含め、これらのフィルムをトラディショナルタイプと呼ぶ事もあるようです(ちょっと定義が曖昧ですが)。

他に、コダック「T-MAX400」、イルフォード「デルタ400」などがあり、これらはコダックの呼び方で「T-グレインフィルム(平粒子フィルム)」と言われます。 カラーネガフィルムでは今や当たり前ですが、銀粒子を平たい結晶にして配置したもので、体積にくらべて面積が広いため、微粒子ながら高感度を得られるという技術(撮影時の感度は表面積に、現像後の粒子の大きさは体積によるところが大きいのです)。新しいタイプのフィルムと言えます。

同じISO400クラスであっても、トラディショナルタイプより遙かに微粒子で、それ以前のISO100クラスに相当すると言っても過言ではありませんが、反面、微粒子であることはコントラストが上がりやすく、ハイライトが白トビしやすいという事でもあります。
その逆に、粒子が大きめのコダック「トライXパン」などは、わりと高コントラストでも白トビしにくく使い易いのです。
また、粒子がいくらか現れていた方が、プリントはシャープに見える物ですので、やたら微粒子にこだわるのも考え物です。 トラディショナルタイプによるクラシカルな見た目、というのもモノクロ写真の魅力のひとつかも知れません。
逆に、プリント上で、特に空の部分などで目立ちやすいのですが、粒子が気になるという場合は微粒子の平粒子フィルムを使うと非常に効果的です。
カラーフィルムはどれも最新技術の横並びで、発色傾向などを除けば没個性な感じがありますが、モノクロフィルムは同じ感度帯でもフィルムごとの個性が結構あり、特に平粒子フィルムとトラディショナルタイプの差は、カラー写真慣れしている方には意外と思えるくらいにあります。

超高感度フィルム

    • 夕方以降や室内など、照度が低い(暗いという意味)では、高感度フィルムよりもさらに感度の高い、超高感度フィルムと呼ばれるものを使うことも多々あります。
    • 一般に販売されているモノクロフィルムでもっとも感度表記が高いのは、3200クラスのイルフォード「デルタ3200プロフェッショナル」ですが、デルタ3200はISO感度1000であるとイルフォードは公称しています。つまり、3200という数字は「3200でも使えますよ」という意味であって、ISO感度ではないのです。ISO感度というのは定められた条件において云々というのを先に少し書きましたが、その条件よりもさらに現像を押して(増感現像して)も十分に実用的です、という意味ですね。
    • 3200クラスとなるとさすがに粒子は大きくなり、小さめのプリントでも非常に目立ちます。 フィルムの感度というのは粒子の大きさに大きく左右されるため、微粒子と高感度を両立するのは難しいのです。 しかし、それがまた持ち味でもあります。 デルタ3200などは、ビックリするくらい大きな粒子で、ポップコーンと呼ばれることもあります。
    • しかしその分、いくら現像を押しても(増感現像しても)コントラストがきつくならず、やわらかい描写を得られます。ボク自身も大変好きなフィルムです。

(富士では「ネオパン1600スーパープレスト」があり、たいへん評判の良いフィルムでしたが、残念ながら製造終了となってしましました)
(コダックのT-MAX3200が製造終了となってしまったので、2012年秋現在、超高感度フィルムと呼べるのはILFORDのDELTA3200のみとなりました)

コピーフィルム・リスフィルム

    • 黒白線画の複製用に、低感度で微粒子、かつ高コントラストなコピーフィルムと呼ばれるものがあります。
    • 本来、これらコピーフィルムは高コントラストを強調する、つまり中間調を排除する性格のリス現像液を組み合わせて使うのですが、その超微粒子という性能から、超軟調な現像を組み合わせて通常の撮影に使うという事がありますが、正直言ってこれは通常のフィルムの微粒子化が現在ほど進んでいなかった頃のテクニックではないかと思います。 撮影感度が6とか12と言った低感度で、無理して使う意味合いは薄れたと考えていいと思います。
    ただし、独特の高コントラストな表現を活かす目的では魅力がありますし、とにかく微粒子、とにかく解像力、というのが求められる、という場合もあるかと思います。

クロモジェニックフィルム

    • これまでに挙げたフィルムは、こういう言い方が許されるなら、銀画像による通常のモノクロネガフィルムです。 いっぽうで、「クロモジェニック」と呼ばれる異なる仕組みのモノクロフィルムもあります。
    • これは、カラーネガフィルムと同じ仕組みで、現像時に生成される色素で画像を形成するもので、フィルムの現像もカラーネガフィルムと同じ、C-41処理という共通処理で行うことが出来ます。
    • カラーネガフィルムの現像は、銀を現像する際に色素を作り、現像後に銀を除去することで色素だけをフィルム上に残します。 モノクロのクロモジェニックフィルムは、この色素がモノクロになっているわけです。
    • そのため、一般ユーザーが自家現像するにはカラー現像用の薬品を用意しなくてはならず、少々難しいですが、逆に、写真店などで現像して貰う場合には大変好都合です。
    • 何度か書いていますが、一般のモノクロフィルムの現像は、普通の写真屋さんやミニラボの類は言うまでもなく、あるいはプロラボと呼ばれるようなところでも、決して褒められるような現像がされるわけでありません。 そもそも、各自がコントロールできるのがモノクロフィルムの現像であり、同時にコントロールしなくてはならないものでもあるからです。
    • フィルムの現像を自分でやらず、お店に出すのであれば、C-41処理で現像できるクロモジェニックタイプのフィルムを使った方が遙かに良いです。
    • クロモジェニックフィルムは、銀粒子で画像を保持する通常のモノクロフィルムよりもフィルムスキャンに向いています。
    • ホームページやブログなどのウェブ画像用に、フィルムカメラで撮影はするけど、画像は基本的にフィルムスキャンで得るという場合や、まして現像はお店で、という利用が多い場合には、最高の選択だと言っていいと思います。
    • というより、ボク個人の見解では、自分でフィルム現像しないのであれば最高かつ唯一の選択ですね。

製品としては、イルフォードの「XP-2スーパー」があります。
ISO感度400と設定されていますが、十分にその前後の感度で使えますし、多少の露光過多や露光不足には強いです。 銀画像ではなく色素による画像であるためか、高コントラストなシーンでの描写に強く、粒子も目立たず大変綺麗なトーンを描くフィルムです。
ポートレートなど人物写真には良いフィルムだなぁと個人的には思ってます。

コダックにもクロモジェニックのモノクロフィルム、「BW400CN」がありますが、こちらはベースがオレンジ色でカラーネガフィルムに近く、DPE店の機械でカラーネガと同様にカラー印画紙にプリントすることを前提として設計されています。 そのため、現像・プリントすべてをお店でやってもらう場合には、コダックのものの方がよい結果を得やすいです。
いっぽうのイルフォード「XP-2スーパー」は、通常のモノクロフィルムとあまり変わらないベースを持っていて、通常のモノクロフィルムと同じ感覚で引き伸ばしプリントに使うことが出来ますが、コダックの方は通常の引き伸ばしプリントには不向きです。 仮に使うとしても、特に多階調印画紙ではフィルムベースの色の都合で非常に扱いにくくなってしまいます。

ちなみに、イルフォード「XP-2スーパー」はフィルムベースが通常のモノクロとあまり変わらないグレーなので、実は普通のモノクロフィルム用現像液で現像しても使えちゃいます。 この場合、画像は色素ではなく通常のモノクロフィルムと同じく銀で保持することになります。

当たり前の事ですが、フィルムは、目的に応じて、まずなにより撮影時に必要な感度、つまり必要な絞りとシャッター速度を満たす感度を基準にして選びます。
大雑把にですが、ISO100クラスは風景や静物に使いますから、撮影感度50から100の間で階調再現を最優先。 ISO100クラスを増感してもいい事はひとつもありませんので、撮影感度200から400でしたらばISO400クラス。800では、ネオパン1600スーパープレスト亡き今となっては、ISO400クラスを増感現像。
EI1600までISO400クラスのフィルムを増感現像するには、ちょっと増感現像慣れというか、テクニックも要るだろうと思います。
それ以上はどうあがいても超高感度フィルムという事になり、イルフォードの「デルタ3200」の独壇場ですね。

余談ですが、もともと、写真感剤は青い光にしか感光しませんでした。 なので、大昔の写真を見ると一様に空が真っ白だったりします。
光は波長の短い方が紫外線で、長い方が赤外線。その間に人間の目に見える「可視光」という範囲がありますが、波長の短い光にしか反応しなかったのですね。
それを加工して、緑を含む長い波長の光を撮影できるようにしたのが「オルソクロマチックフィルム」です。 しかしこの段階ではまだ感光域が赤までは達しておらず、赤い光には反応しません。 モノクロ印画紙がそうですね、だから赤い光は安全光(セーフライト)として暗室内で使えるのです。 いまでも、複写などの用途向きにオルソクロマチックのフィルムは少数存在します。
オルソをさらに改良して、赤まで撮影できるようにしたのが「パンクロマチックフィルム」です。 現在ではほとんどの写真用フィルムがパンクロマチックなので、とりわけ意識する必要はありませんが、モノクロフィルムの名前に「○○パン」というのが多いのは、パンクロマチックである事を強調するためだったのでしょうね。
なお、赤外線フィルムというのは、感光域をさらに長い波長の光まで伸ばし、赤外線域でも感光するようにしたものです。